08 訓練と再転移

 ラザードにショットガンを手渡された俺は思考停止してしまった。ここ、日本だろ……? 俺のような高校生がこんなものを……!?


「例外はあるが異世界転移に他の者がついていくことはできない。だが、持ち物は別だ」

「これを持ってあの世界に行けってことですか!?」

「そうだ。訓練は受けてもらうし、所詮素人である君に渡すことができるのはゴム弾だけだがな」

「ゴム弾……?」

「正直、そんな魔法の世界での威力は期待するな。ただ、それでもいざという時に身を守る効果はあるだろう。もっとも、訓練が進めば実弾を渡すことも考える」


 ラザードは俺を施設内の広い空間に案内した。どうやら射撃訓練場のようだ。訓練担当らしきゴツい男が俺の前に立つ。


「ケビンだ。宜しくな、山和やまと

「宜しくお願いします……」

 ケビンは元は米軍の軍人らしい。だが、日本語はペラペラでありがたかった。


 ケビンの訓練はなかなかのスパルタだった。いつ再転移が起こるか分からないから、短期間での詰め込み教育ということらしい。その日の訓練が終わる頃には、俺の腕はもう上がらなかった。


「ぐ……、もう、無理だ……」

「オーケー、今日はここまでだ」

 ケビンに促され、俺はシャワーを浴びてラザードの待つ部屋に移動した。


「一般人にはキツかったんじゃないかね?」

「明日はきっと筋肉痛です……」

「ケアをしておきたまえ。今日は帰って良いぞ」

「え、ここに待機していた方がいいんじゃ?」

「異世界転移はいつ起こるか分からぬ。ずっとここにいると君の精神も疲弊するし、裏工作も限界になる。だから、なるべく普段の生活をしていろ。ショットガンとゴム弾を秘密裏に君の家に送る。家にいる時に転移の兆候があったら、すぐに手に持って待機だ」

「は、はい……」

 そう言うとラザードは俺を精神クリニックの入口まで送ってくれた。俺はそのまま帰路に着いた。



    ◇



 翌日。

 普段通りの生活をせよということなので、俺は普通に登校した。学校にも特殊な実習に参加していたという事にしてあるので、帳尻を合わせなければならない。


「あ、山和、今日から復帰かい?」

「何だったんだよ、特殊な実習って?」

「いやー、この地区の高校生からランダムに選んだんだとさ。筋肉痛ヤバいよ……」

 俺は嘘と真実を混ぜてクラスメイトに返答した。


「よぉ、茶介さすけ

「おう、山和、久しぶり。どうした? 俺の顔に何かついてるか?」

 俺が『時空の果てに響く旋律』の世界に転移したこと、ゲームを貸してきた張本人であるこいつが聞いたら、やっぱり羨ましがるんだろうか。


「……ロベルトはモテキャラじゃない」

 俺はそんなことを茶介に向かって呟いた。茶介はいぶかしんでいた。



    ◇



 放課後。

 クラスメイトに遊びに誘われ、普段通りの生活をしろというラザードのアドバイスに従って、参加することにした。行き先はカラオケだった。男女が混じっているし、何となく誰かと誰かの恋愛フラグが立っているようにも感じた。


 久々に顔を見たということで最初に歌わされたが、ここのところ気を張っていた鬱憤晴らしとばかりに俺は熱唱した。終わって席に着くと、俺が異世界転移をした日に一緒に映画に行った女子生徒から話しかけられた。


「山和くん、お疲れ。熱唱だったね」

「最近、色々あって……。ストレス発散だ!」

「急に実習に呼ばれたんだもんね。ところで、こないだ会った美樹みきっては元気?」

「え!? い、いや、何も知らない」

「ふーん。彼氏持ちを好きになっちゃうとキツいかもしれないけど、連絡は取っておいた方がいいんじゃない?」

「俺は別に美樹ちゃんのことを好きなわけじゃ……」

「だったら尚更いいじゃん。気軽に連絡しときなよ」

「そ、そう思う……?」

「うん」


 女子生徒の口ぶりは、どうせ俺は美樹のことを好きになると言わんばかりだった。俺はため息をつきながらスマホを取り出し、メッセージアプリを起動する。


 連絡、か……。

 そういえば、昨日ラザードに会いに行く時にバッタリ会った美樹とかけるは疲れた顔をしていた。その辺のことを聞いてみても良いんだろうか。


「あっ……!?」

 俺が美樹のことを考えていると、周囲に青い稲妻が見えた。まずい、転移が発生する!


「山和、どうした!?」

「ごめん、急用ができた! すまんが先に帰る!」

「って、おーい!!」

 男子生徒の言葉を振り切り、俺はカバンを抱えて部屋を退出し、トイレに走った。運良く誰もいないことを認識した瞬間、眩い光がほとばしり、俺は目を閉じた。


 次に目を開けた時、俺は教会らしき場所にいた。魔法学校の中のようだった。



    ◇



 俺は魔法学校の寮に向けて歩きながら今後のことを考える。


 まず、バッドエンドを阻止しなければならない理由が増えた。ビッグクランチが起きれば元の世界までもが破壊されることになるからだ。ビッグクランチを起こそうとする大いなる闇が復活するのはもう少し先。しかし、ゲームでは各キャラが夏服の間には戦いが始まる。つまり、そこまで時間はない。


「正直、ただの高校生が背負うにはキツいぜ……」

 だが、ラザードによると世界が俺を選んだのだという。転移するのはその物語に感銘を受けた者から選ばれることが多いらしいが、今回のようなケースで学生一人というのは珍しく、そこには必ず理由があるとのことだ。


「ああ! ヤマトじゃない!?」

「アマンダ!」

 アマンダの声が聞こえ、俺は駆け足でアマンダの元に向かった。両手で手を取り合う。


「良かったぁぁ。心配してたのよ!」

「ご、ごめん。元の世界に戻ってたんだけど、俺自身にはそのタイミングが分からないんだ」

「うん、私たちも元の世界に戻ったんだろうと予想はしてた。帰れたのは良かったけど、また来ちゃったんだね」

 アマンダはそう言うと、ロベルトを呼んでくれた。俺はロベルトとも握手し、再会を喜び合う。


 そうだ、俺はこの世界の人たちを救いたい。きっと、元の世界と関係がなかったとしても、俺はバッドエンドを回避するために奮闘したはずだ!


 もしかしたら、俺のこういう気質が、転移者に選ばれた理由かもしれないな。

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