06 魔物リベンジ戦
魔法学校で特別実習が行われる。俺は生徒ではないが、実習への参加を要請されて、ある教室に呼び出されていた。そこにはロベルトとアマンダと教師がいた。
「あ、来たねヤマト」
「ヤマト、こっちだ」
アマンダとロベルトに促され、3人で席につく。やがて、俺がこの世界に来た時、一緒に魔物と戦ったアマンダの後輩の男女二人が部屋に入って来た。男子生徒マックスと、女子生徒メアリーが二人で俺のところまでやってくる。
「ヤマトさん、あの時はありがとうございました」
「本当に、ヤマトさんがいなかったら私たち……」
お礼を言う二人に俺は恐縮する。たまたまあの魔物が電波を嫌ったというだけで、俺の力ではないのだから。
メアリーは、腕や脚など、いたるところに包帯が巻かれていて痛々しかったが、怪我が酷いというわけではなく、魔物に締め上げられたり魔力を吸い取られたりした時の触手
マックスに表向きの外傷は見られないが、服の中はやはり触手に締められた痕が消えていないとのことだ。
二人も実習に呼ばれていたらしく、席に着いた。すると、教師から説明が始まった。
「今日、君たちに集まってもらったのは、君たちが遭遇した魔物、ヒュージ・マッドプラントについてだ」
どうやら、ヒュージ・マッドプラントと名付けられたらしい。ゲームでは、登場と共にロベルトとアマンダに倒される運命だったから名前はついていなかった。
「アマンダの攻撃を退けるような危険な魔物が街道周辺に出没するなど、見過ごせることではない。そこで、奴の退治作戦を魔法学校で行うことにした」
学生を戦わせるなど普通に考えれば避けるべきことだが、正規軍が他の魔物の対応で手一杯であるこの世界では起こり得る事態なのだ。
ロベルトの異能でアマンダたちの魔力を増幅してヒュージ・マッドプラントを倒す作戦。順序は狂ったが、ゲーム通りあの魔物を討伐することになる。ロベルトにとって初の実戦で、それは学校側にも期待されているようだった。
恐らくロベルトとアマンダのコンビで倒せるとは思うが、念のため、俺がスマホとBluetoothイヤホンを使って援護できるようにするプランだ。
教師も含めて、6人で馬車に乗り、再び街道を行く。アマンダの後輩たちは、前回の戦いで酷い目に遭っているだけに、緊張しているようだった。
やがて馬車は、前回ヒュージ・マッドプラントに出くわした辺りに到着する。
「おびき寄せるぞ」
教師はそう言うと、何やら魔導具を操作した。マッドプラントたちが好むものらしい。その効果はすぐに現れ、ヒュージ・マッドプラントが現れた。
「よし、行くよ」
「ええ!」
ロベルトとアマンダが飛び出し、俺たちもそれに続く。しかし、俺はヒュージ・マッドプラントの周りの光景を見て驚愕した。
通常のマッドプラントが大量にヒュージ・マッドプラントにくっついている。一体一体は大したことないらしいが、触手で相手を締め上げ、魔力を奪う性質は同じだ。これだけ数がいるとなると……。
「散開! ヤマト殿は私の元に!」
教師が叫び、アマンダと後輩たちが散らばる。ロベルトは魔法を使えないので、アマンダと一緒に行動している。俺はすぐに教師の元に向かった。
アマンダ、マックス、メアリー、教師が遠距離魔法で通常のマッドプラントを叩く。ヒュージ・マッドプラントは触手を伸ばし、通常のマッドプラントがそれにくっついてアマンダたちに飛びかかる。それを迎え撃つだけでも一苦労という状態だ。
だが、こちらも何も作戦を用意していないわけではない。ロベルトとアマンダが俺に目配りしたのを確認し、俺は彼らの元に走った。
ロベルトの魔力増幅を実行するにはしばしの時間が必要となる。その間を電波機器で凌ぐのだ。ロベルトたちの元にたどり着くと、俺はBluetoothイヤホンの電源を入れた。スマホとの接続音が聞こえる。
ヒュージ・マッドプラントは電波を嫌がってこちらへの攻撃を止め、通常のマッドプラントも標的を他の3人に変えた。
ロベルトはアマンダの手を取った。ロベルトの身体が発光し、光がロベルトの手、アマンダの手、そしてアマンダの身体へと移動していく。
そしてアマンダから特大の火炎魔法が放たれ、ヒュージ・マッドプラントに直撃した。ヒュージ・マッドプラントは咆哮を上げ、倒れた。
「や、やった……!」
そう言うと、アマンダが膝から崩れ落ちた。身の丈に合わない威力の魔法を使った反動だ。それは、ゲームと同じだった。
ただ、マッドプラントが複数残っているのはゲームと違う。俺もロベルトも戦う力を持たないので、残りのメンバーが必死に戦い殲滅した。
「先輩、皆さん、お疲れ様でした!」
マックスが俺たちの元まで来て言った。
「良かった、無事に終わって……」
メアリーは緊張の糸が切れたのか、アマンダの前で崩れ落ちて泣き出した。アマンダはそれを優しく抱きしめる。
「やったな、アマンダ!」
「凄いよ、君だから出来たことだ!」
ロベルトと俺が順に言い、アマンダと拳をぶつけ合った。
「ふふん、何やら青春しているようで良いですねぇ」
安全確認が終わったのか、教師がニヤニヤしながら言った。
「ふぅぅ……」
俺は少しその場を離れ、スマホとイヤホンの電源を落とした。バッテリー節約のためだ。また電波が役に立つことがあるかもしれないのだから。
結局ヒュージ・マッドプラントを倒すことができたので、過程は違っても、バッドエンドも回避できるのではないかと希望を持つこともできた。
そのためにも、次は他のヒロインの動向調査だな。
そんなことを思っていると、不意にアマンダの声が聞こえた。
「ヤ、ヤマト! それ、大丈夫なの!?」
「え……?」
アマンダの方を振り向くと、俺はそれに気がついた。俺の周りに青い稲妻のようなものが光ったり消えたりしている。
「こ、これはまさか!?」
周囲が光り、俺は思わず目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます