第10話 影

 商人と冒険者を救ってから、既に一日が経過していた。

 そして、お昼を過ぎた辺りで街を遠目に確認できた。

 ここから歩いておおよそ二、三時間と言ったところだろうか。


「あ、やっと見えてきましたね」


 ノルザさんの言葉に俺は頷く。

 とりあえずあの街で、今日は泊まることになるだろう。

 しかし、平原の中にポツンと建ててある街はなんだか日本の街並みとはかけ離れていて面白いな。


「しかしあの魔法は凄いですね…、魔術師の戦闘を根底から覆すような、とんでもない魔法だと感じました」


 そう話すのは中性的で大剣を持っている冒険者、ユニットだ。

 ノルザさんはあれから何度目かになる感嘆と感想に流石に罪の意識が膨れ上がり、聞こえるか分からない声で、応答していた。


 ノルザさんもう少し耐えて…!


 しかし、圧力水銃がそんな評価を受けていたとは驚きだった。

 確かに上級の水魔法である、アクアバーストを元に派生させているが、この世界の人が既に似た派生魔法を生み出しているものだと思っていた。

 上級魔法を使える魔法使いが少ないのか、それともそんな発想が浮かばなかったのか。


「いやぁ、本当に助かりました。貴方達があそこを通らなかったら私の命がなかった訳ですから…。街に着いたらなにお礼をさせてください」

「いえ、大丈夫ですよ。見返りのために救った訳ではありませんので」


 お礼だ!と思ったら、ノルザさんがその誘いを否定する。

 そういう所もノルザさんらしいのだが、そういう善意は貰っておいた方がいいのではないだろうか?


「では、街まであと少し、頑張りましょう」


 ノルザさんが俺達を激励し、再び歩き始める。


 ―――


 この街、名をリーフグリードという。

 街の外は、豊かな草原が広がっており、街の中にも緑豊かな街道や公園などがあり、文字通り緑を独り占めしているようなそんな街だ。

 だが、光あるところにまた影も存在するかのように、太陽光が差し込まない薄暗い部屋で、豪華な椅子に座った男は、酒を片手に持ちニヤリと笑う。

 男は幾本目かになる酒瓶を一気に飲み干し、自分の感情を抑えきれないといった様子で呟く。


「アイツらがやられたか…。誰の仕業だろうなぁ…。くく、楽しみだ」


 そう独り言を呟いた男は、持っていた酒瓶を部屋に投げ捨てる。

 彼の狂気は既に数十と砕け散った酒瓶を見れば明らかだろう。


 ―――


 正門の兵士達に事情を説明し、街に入った後に人通りの少ない所へやってきた。

 ノルザさんは王国内外でも割と有名な人らしく、素性を隠すためにフードの着いた外套を身にまとった。


 そして、商人グリッドから、「商会グリッド・ウォーロー」の特別な名刺を貰った。


 まだ小さいですが…。と声を弱くして、差し出してきたグリッドだったが、何かお礼をしないと行けないと思ってくれたのだろう。


 そして、冒険者ユニットはこの街に少し滞在した後に王国に移動するそうだ。

 しかし、冒険者という職業は大変だろうな…。

 仲間の冒険者が、死んだとしても、翌日から働かないと食い繋げないだろう。

 だが、あの冒険者ユニットはもう切り替えていた様子だった。

 冒険者になるにはあれぐらいの精神力がないと続けれないのだろうな。


「ノルザさん、これからどうしますか?」


 俺は思考を切り替えて、今後の予定の事をノルザさんに聞く。

 すると、ノルザさんは顎に手を当てて考え始める。

 真剣な表情で考えていたノルザさんのお腹から「ぐぅー…」と音が鳴った。


「あ、ははは…、ご飯にしませんか?」


 恥ずかしそうにノルザさんが提案したのだった。

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