第8話 圧力水銃
さて、歩き出して半日弱経った。
エリーゼの魔法が掛かった森を既に抜けて、今は平原をひた歩く。
全員身体強化魔法を使えるので、走っても良いが、ノルザさんが「魔物に疲れきった状態で出会ったらどうするんですか?」なんて言ってきたのでそれもそうかと納得した次第である。
「そう言えば、フェル様はどういう経緯でリーフレット家に?あの二人の過去を見れば養子を取るのはかなり危険だと思うのですが」
確かに、あの二人の過去を知ってるものであれば、養子を迎えるなんておかしい話だ。
養子を迎えたらそこから隠れ場所がバレてしまう可能性だってある。
そう思ってノルザさんは疑問を抱いているのだろう。
しかし、グライドが言ったようにフェルはフェンリルなのだ。
「フェンリルだ。養子では無い」
フェルは事実をそのままハッキリと言う。
「これは失礼しました。グライド様が教えて下さらないので子供に聞こうなどと、自分が浅はかでした」
ノルザさんはグライドにこう誤魔化せよ、と躾られたと思っているようだ。
まぁ、無理もない。
伝説の生き物のフェンリルが人化して一緒に歩いてるのだから。
「ふは、信じないか。まぁ証明するのも面倒じゃ」
と、フェルは言うがノルザさんは聞き流している。
「ん?あれは…」
急にフェルが平原の遥か彼方を目を細めて見つめ出した。
「なにか見つけたのか?」
「ふむ、賊に襲われておる人間がおるだけじゃ。足を止めて悪かったの」
「そうか」
俺もその言葉に気にせず歩き出そうとしたら、ノルザさんが前に立ちはだかる。
「賊に襲われているなら助ける、とお二人に教わらなかったのですか?」
腕組みをして、俺達の目の前に立つノルザさん。
どうやら怒っているようだ、声に少し怒気が混じっている。
しかし、しかしだ。ここはまだあの森からそこまで離れていない。
そんなところで問題や騒ぎを起こせば、最悪の場合グライドとエリーゼに被害が行ってしまう可能性がある。
彼らの過去を聞いたから尚更苦労をして欲しくないと思うからこそ、俺は無視をしようと決めたのだ。
「森を出てまだ、五時間程。こんな所で騒ぎを起こしたらお母さんの森がバレてしまう可能性もある。もし助けたとしてその賊はその場で殺すのですか?助けた人達は街まで送り届けるんですか?…仕方ないですが、あれはあの人たちの運命です」
それを聞いてノルザは顔を顰める。
正義を振りかざすだけじゃ、ダメだ。
その後の処理も、その更に未来も考えなければならない。
兎に角、ここら辺での問題を起こしそうな行為は控えたい。
「ですが…」
「なら、ノルザさんだけでも助けに行ってください。俺らは先に行ってます」
そう言うと、俺達は歩き出した。
しかし、この距離で良く見えるなフェルは。
俺は肉眼で確認出来なかったから個人が出す魔力を感知し、賊がいることが分かった。
総数は七人で二人を囲むように五人が陣形をとっているから多分敵はその五人だろうな。
「待ってください。私はエリーゼ様にノア様とフェル様の傍に居て、というお願いが…」
ノルザさんは申し訳なさそうにしながらも、意見を変えようとはせず、俺たちの前に再び立ち塞がる。
…このままでは停滞してしまうか。
仕方ない。
すぐに解決して、ここから離れよう。
放つのは、俺の得意な水の魔法だ。
「
指先に水を貯めて魔力の圧力で拳銃みたいに水を打ち出す魔法だ。
アクアバーストを貫通性能特化にした派生オリジナル魔法。
この魔法の特徴は魔力で水を覆うことで、霧散させずに射程をかなり伸ばすことが出来る。
この距離なら圧力水銃は余裕で届くだろう。
「い、今何を?」
そう言うノルザの言葉を聞き流し、二発目、三発目と撃っていく。
五発目を外し、そして、六発目。
賊の魔力が感知出来なくなり、そこにあるのは賊とは違う微弱な魔力。
問題なく全員倒せたのだろう。
流石に百発百中とは行かないようだな。これも練習が必要だ。
「賊は倒しました。では先を急ぎましょう」
「た、確かに賊の魔力が消えました…。ですが、襲われた人達が…」
フェルと顔を見合わせるが、フェルは「どうしようもならんぞ」みたいな顔をしている。
「…仕方ないですねッ!」
俺達は遠くに倒れている人達の救出のため急ぎ足で向かった。
―――
あぁ、終わった。
こんな僻地に荷物を運んでくれ、なんておかしいと思ったんだ。
目の前に現れた賊を前に、考えが頭の中を巡る。
その考えも死を目の前にしたら無意味なものだ。
最近商人になってから運がついてなくて、途方に暮れていた所に高額の報酬が手に入る依頼が来れば誰だって受けてしまうだろう。
「…私が時間を稼ぐので、その間に」
男か女か分からない中性的な見た目をした冒険者が勇敢にもそう言ってくれる。
だが、その細身で何が出来るというのだろうか。
相手は五人、それに比べてこっちは冒険者は一人。
もう一人冒険者を雇ったが、その一人は奇襲の弓矢で脳天を貫かれて目の前で倒れている。
だが、その一人に私の運命をかけるしかない。しかし、私は今までの経験則から、そうそう奇跡が起こらない…。
細身の冒険者が荷台から飛び降りた瞬間、何かが、盗賊の頭を貫いた。
また弓矢か?そう思って倒れた賊を見るが矢らしき物はどこにも落ちてないし、賊も戸惑っている。
数瞬後、更に二人、三人と賊が死んでいく。
もはや、あの細身の冒険者がやってくれているのか!奇跡が起きたんだ!
そう思った瞬間、緊張の糸が切れて、私の意識は遠のいて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます