第4話 最強の剣

 転生してから、十五年経った。

 もう既に前世の二分の一以上をこの世界で生きてきた事になる。

 十五年経った今でも、この世界の面白いことは尽きないどころか、どんどん増えていく。

 その主な原因は俺の先生…、フェンリルのフェルにあるだろう。

 フェルは長生きしてるから、色んなことを知っていて話しているだけで面白い。


「ノア〜、ちょっとお話があるの〜」


 外に出て、感慨にふけてる俺の耳に心地よい声が聞こえてくる。

 この声はエリーゼだな。

 

 今にして思えば、エリーゼは転生当初は母親という目で見れなかったが、十五年も一緒に暮らしてると段々本当の家族の如く話せるようになってきた。(まぁ、本当の家族なんだが)


 しかし、十五年経った今でも、魔法は尽きることを知らず、無限に広がりを見せる。

 魔法のというのは本当に素晴らしいな。


「ノア〜!聞いてるの〜?」

「あ、はいー!今行きます!」


 ―――


 家の扉を開ける。

 まず一番最初に視界に入ったのは知らない女の人だった。

 絵で見た貴族ほどじゃないが、豪華な服を身にまとっており、華奢な体と肩まで伸びた真紅の髪が印象的で美しい。


 ところで、フェルの姿が見えないな。

 フェルは森にでも出かけたのだろうか?


「おぉ、ノア様ですか!」


 体を机に乗り出しての開口一番は名前も知らない女の人。

 俺の名前はエリーゼから聞いたのかな。


「え、えぇそうですが」


 その勢いに押され、引き攣った笑顔で答えてしまった。


「あ、あぁ。すみません。興奮してしまいました」

「ノア、座りなさい」


 ちょうど、お茶を取りに行っていたエリーゼが帰ってきた。

 しかし、エリーゼは俺の事をどう話したのか…。

 あの興奮様は普通じゃなかった。


 俺含め三人が席に着いて、エリーゼが入れてくれたお茶を飲む。

 その仕草は二人ともかなり綺麗だ。

 まぁ、俺には縁がないものだと思うが、知っておいて損は無いかも知れないな。

 俺も見よう見真似でやってみる。


「さて、自己紹介が遅れました。私は王立魔剣学校の学校長のノルザと申します」

「え、ええよろしくお願いします。なんでそんな人がここに?」


「ノア・リーフレット、貴方様を魔剣学校に入学させたい、とエリーゼ様からお願いされたのです」


「え?!」


 エリーゼの方に顔を向けると無言で笑顔のままだ。

 そういう話はもっと前からしておくべきなのですよ、お母様。


 しかし、学校…か。

 この世界のことを知るいい機会かもしれないな。

 やはり、本や絵などではこの世界のことをちゃんと知ることが出来ない。

 しかも、魔剣と付くくらいだから剣と魔法を教えてもらえるだろうから、一石二鳥。


「母さんがそう言うなら行かない選択肢は無いですが、なんでわざわざ学校長が?」


 そういうとノルザは数瞬考えたあと、エリーゼと目配せをする。


「ここは辺境の地ですよ。ここに来るまでに何日かかったことやら…。そんなところに一般の教師がわざわざ来れる訳もなく…。そしてエリーゼ様の頼みとなれば必然と私が出向く必要があったというわけです」


 ふむ、分からなくもない。

 長旅は、必然的に魔物と戦うことが多くなるだろう。

 それに野宿は気を張りつめていなきゃ襲われかねない。

 ノルザさんの言い方的にはかなりの時間をかけてここに来たのだろう。

 魔剣学校の学校長に相応しく精神的にも実力的にも強いのだろう。

 しかし、なぜエリーゼ様と敬称を付けてるのか気になるな。


「そうですか。ではいつの出発で?」


「明日です」


 えぇ…、早すぎませんか?


 ―――


 さて、ノルザさんの話が終わったことだし、訓練をするか。


 今日は剣の特訓だ。

 俺は最近魔法が面白くて、ずっと魔法の練習をしていたら、グライドが「剣は?」とかなりの回数で聞いて来るのだ。

 執拗いので仕方なく木刀を持って幅一メートルはある巨木に向かって構える。

 しかし、俺自身も剣も大事なのは重々承知している。

 魔法使いは近接になるとどうしても本来の力の半分も出せない。

 無詠唱を使えることを加味しても、不利なことには変わりないだろう。

 だが、剣が使えたら近接も遠距離も出来て魔法使いの弱点を克服出来るだろう。


「よ!ノア!頑張ってるかー?」


 お、ちょうどいいところにグライドが来たな。

 折角だし、ちょっと相手になってもらおう。


「父さん、相手になってよ」

「おぉ!いいぞ!」


 俺が投げた木刀をグライドが嬉々として掴み取る。

 すぐさま構えに移行したグライドからは、さっきまでの明るい雰囲気は無くなり、集中ゆえに無言になる。


「じゃあ、俺から行く…」


 身体強化の魔法を使って体を強化する。

 これはズルなんかじゃないぞ。


 だって…。


「よッ!!!!」


 俺が出せる最高速度でグライドに突進して袈裟斬りを行う…、と見せかけて木刀をグライドに投げつけて、その目眩しを利用してグライドの後ろへ回り込む。

 そして、予め試合が始まる前にセットして置いた魔法を起動させる。

 そして、俺自身が撃つのは中級魔法のウォーターショット。

 威力は、そこまででは無いが、弾速が早い。


 よし、名付けて一人時間差攻げ…「ぶべぇ!!」


 痛くないといえば嘘になる横腹への木刀の殴打。

 グライドは…、無傷かよ!!

 なんで!?あの挟み撃ちになるように放った魔法をどうやって凌いだんだ?


「強くなったんじゃないかノア!」


 試合前に魔法をセットしたり、強化魔法を使うのはズルでは無い。

 …だって、グライド強すぎて魔法がないと試合にすらならないから。


 なんで身体強化の魔法使ってるのにこっちの速度が負けてるのか分からない。

 正面から放った魔法をどう対処したか分からないが、いつの間にか後ろを向いていたグライドに木刀でウォーターショットをいなされて、その瞬間に横腹への痛みが走った。

 うん、恐らく全て筋力と動体視力でゴリ押ししているのだ。


「はぁーあ、強すぎるよ父さんは」

「はは、そうか?そうかもな!だけど、いい動きだったぞ!」


 くっそ…。

 しかし、練習相手としては恐らく剣士の頂点が目の前にいる訳だ。

 これを使わないてはない!


「もう一回だ!!」


「おう!いいぞー!」

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