第8話 ミー店長のピンチ
私は、チンピラと一緒に監視カメラのチェックを開始する。
――ウチの不手際なはずない!
今日のシフトは、みんなしっかりした子たちばかりだ。
あんな大きいゴキブリが混入していたら、すぐに気が付く。
絶対、この男が入れたに決まっている!
勝負はすぐについた。
「そ、そんな……!」
「どやぁ! 見たかぁ! こりゃ300万はもらわなあかんなぁ! 詐欺の疑いまでかけられたんやから!」
信じられない……。
チンピラは白だった……。
料理が運ばれてくると、チンピラは一度トイレへと向かった。
この時彼は、一度も料理に手を触れていない。
そして戻って来てすぐサラダを頬張り、口からゴキブリを吐き出したのだ。
何回見直しても、チンピラがゴキブリを入れるところを確認できず。私の完全敗北である。どうしよう……。
「た、大変申し訳ありませんでした、お客様!」
私は深々と頭を下げる。
もうひたすら謝るしかない。
「ほな、300万払うんやな?」
「そ、それは……! さすがに300万は無理です……!」
300万なんて払ったら、お店が潰れて、あの子たちの居場所がなくなってしまう。
「じゃあ、なんぼなら払えるんじゃ!?」
「これくらいなら……」
ギリギリ払える金額を紙に書き、チンピラに手渡す。
「ちっ、しけた店やのぅ……。まあしゃあない、これで勘弁したるわ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
良かった……!
これでなんとか、お店を、そしてあの子たちを守れそうだ……!
「……ほな……足りない分は、店長さんに払ってもらうとしよかのう?」
チンピラはいやらしい目つきで、私の胸を、そして下腹部に目をやった。
「え……? それはちょっと……」
「いいから、さっさと脱がんかい! それとも300万払うんか!? おおん!?」
「ひっ……」
私はいそいそとエプロンを脱ぎ始める。
なんだか思考が追い付かない。
恐怖で思考がマヒしてしまっているようだ。
こんな恐ろしい男に恫喝されたら、どんな女だってすくんでしまうはず。しかも私は男性恐怖症なのだ。パニックを起こしていないのが奇跡なくらいである。
「ほう……お前ちっこいけど、なかなかええ体つきしとるやん。こら楽しめそうや。ほれ。はよ、シャツも脱げ」
「ううう……」
涙をこらえながら、シャツのボタンを外していく。
「素直なのは感心感心と言いたいとこやが、なんだかおもろないのう……もっと抵抗してくれんと、盛り上がりに欠けるやろ」
抵抗したって無駄なのだ……。
私の力じゃかないっこないし、従わなきゃお店を守れない。
私にできることは、早く終わってくれるのを祈るだけ……。
「うう……どうして私ばっかり、こんな目に遭うの……」
私の人生、嫌なことばかりだ……。
涙が出てきてしまう。
「お! ええ泣き顔や! それよ、それそれ! 興奮してきたでえ!」
世の中には、こういう男しかいないのだろうか……?
どいつもこいつも、私を虐めて興奮するクズばかり……。
父親も……兄も……親戚も……教師も……先輩も……後輩も……。
今日面接に来たあの男もそうだった……。
男なんて、みんな死んでしまえ……!
そう心の中で叫んだ瞬間、事務所のドアが勢いよく開け放たれた。
――え? 何?
「サイコクラッシャー!」
私の眼はおかしくなってしまったのだろうか?
あの男が紫色のオーラをまとい、チンピラにダイブしたように見える。
「ぐぼぉあっ!」
チンピラが事務所の壁に叩きつけられた。
「ふんっ、87ダメージも受けて死なないとは……さすがは頑丈さだけが取り柄の人種なだけはある」
「うぐぅぉ……」
87ダメージ?
いったい何を言っているの?
彼は倒れているチンピラを一瞥すると、チラリと私を見た。
――あ、下着姿見られちゃった。
うう、恥ずかしいよぅ……。
「あっ……」
彼の顔が赤くなる。
え? 何そのリアクション?
あれだけ私にセクハラしておきながら、今さら照れるの?
……ちょっと可愛いかも。
「おっぱい! おっぱい! でかおっぱい! 85cmのFカップ! 85cmのFカップ! 左の胸にホクロあり!」
彼は奇妙な踊りを踊りながら、私のバストサイズを的確に当ててきた。
前言撤回……! やっぱりこの男、最悪……!
しかも、なんか私に近づいてくる。
いや……! もしかしていやらしいことをするつもり……!?
「――失礼します」
彼は顔を背けながら、黒いマントをフワッとかけてくれた。
「あっ……ありがと……」
なんなの!? 照れたり、セクハラしたり、紳士だったり、よく分からない!
もう私の感情はグチャグチャだよ!
あなたのことを、どう受けとったらいいの!?
……ところでこのマント、いったいどこから出したんだろう?
まるで魔法のように、いきなり出てきたように見えたけど。
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