第4話 葉々勝さんとの対峙

 葉々勝さんはクラスの人気者なので、常に誰かしら周りにいる。

 話しかけられるチャンスは来ないまま、昼休みとなってしまった。


 プラチナちゃん(笑)がカバンを持って席を立つ。

 どうやら今日は、もうお帰りらしい。

 彼女はちょくちょくこういうサボリをするのだが、クラスのみんなは、パパ活のおじさんから呼び出されたからと推測している。



[1、おやおや? パコリナちゃん、今からお手頃価格でパコりに行っちゃうのかな?〔煽り30以上〕]

[2、性病には気を付けてね。〔慈愛10以上〕]

[3、おい星野! サボんなよ! このままじゃ留年だぞ!〔正義20以上〕]



 ええええ……。

 話しかけようだなんて思ってないのに、選択肢が出てきちゃったよ。


 うーん……3が一番まともだけど、おせっかいな感じが嫌なんだよなぁ……。

 正直、プラチナちゃん(笑)とは関わりたくないし。


 でもまあ、しょうがないか。


「おい星野! サボんなよ! このままじゃ留年だぞ!」

「……しょうがないじゃん。『一人来れなくなったから、来てくれ』って店長に頼まれたんだよ」


 ヒソヒソヒソ……。

 クラスのみんなが、小声で何か言っている。

 俺は<ウサギの耳>のスキルを使用した。


 ――店長?

 ――パパ活じゃなくて、風俗ってこと?

 ――きっと、JKリフレってやつだな。

 ――高2で風俗堕ちとか、もう完全に人生詰んでるね。


 やっぱりプラチナちゃん(笑)の話題だった。

 俺も彼女のことは好きじゃないけど、聞いていてあんまりいい気はしない。



「それに私、お金ないし……。まあ今日一人面接に来るから、これからはサボるの減るかもしれない……」


 へー、奇遇だな。

 俺も今日、バイトの面接に行くんだよね。



[1、ふひひ。今度その店行っていいですかねェ?――ニチャアと笑う。〔エロ50以上〕【汚い笑顔】]

[2、ママァ! 僕を一人にしないでぇ! 寂しいよぉ、うえーん! ――おしっこを漏らす。〔バブり75以上〕]

「3、そっかじゃあな。明日また、その可愛い顔を見せてくれよ。〔口説き30以上〕」



 うわぁ……どうしよう?


 一番まともに思えるのは3だけど、さすがにこれは痛すぎる。

 2は論外だろう。俺の高校生活が終わってしまう。

 かといって1はエロ親父になってしまうし。うーん……。




「ふひひ。今度その店行っていいですかねェ?」


 俺はニチャァと汚い笑顔を浮かべた。


 3でいこうかと思ったのだが、俺は大のギャル嫌い。

 ウソでもギャルを口説くような真似は、プライドが許さなかった。


「……え? まあ……別にいいけど? でも私のバイト先知ってんの?」

「あ、いや……」


 あれ? 思ってたリアクションと違うな。


「あ、いけない! もう行かなきゃ! ――じゃあまたね」

「あ、ああ……。じゃあまた」


 プラチナちゃん(笑)は教室を出て行った。



 ――あ。俺、生まれて初めて女の子とバイバイしたかも。





 その後、葉々勝さんと話せないまま、帰りの会が始まる。


「進路希望調査票を配ります。必ず明日の帰りの会までに提出してください。……ん? 星野さん、また早退したのね。はぁ……。葉々勝さん、悪いけど届けてもらっていい?」

「はい! 分かりました!」


 二つ返事で了承する葉々勝さん。とてもいい子である。

 それゆえ、こういう面倒なおつかいを任されてしまう訳だ。



 帰りの会が終わり、下校の時間となる。


「今日は聞けなかったな。明日にしよう」


 下駄箱で靴を履き替え、駅に向かっていると後ろから呼びかけられた。


「もーよもーふくーん!」


 この声は……!

 俺は後ろを振り返る。


「葉々勝さん……!」


 な、なんと……!

 まさか、また彼女から話しかけてもらえるとは!


「ごめんねー、もよもふくん。……あのさー、ちょっとお願いしたいことがあるんだけどー?」


 彼女は腰をくねらせながら、上目遣いで俺を見てくる。


 うおおおっ! なんという破壊力!


「な、なんでしょう?」

「あのね……さっき私、先生に届け物頼まれたじゃん? ちょっと急用ができちゃってさぁ。代わりにやってもらえないかなぁ?」


 書類を届けるだけなら、プラチナちゃん(笑)とそんなに絡むこともないだろう。

 代わってあげてもいいのだが、俺は彼女の住所を知らない。


 そう思っていたのが表情に出ていたのだろうか。

 葉々勝さんが先手を打ってきた。


「住所はここだよ」


 地図を見ると、俺の家から二駅の場所だった。

 決して近いとは言えないが、幸いなことに面接先のファミレスが同じ駅である。

 問題無く届けられるだろう。


「分かった。届けておくよ」

「ありがとう! 助かったよ! じゃあまた明日ね!」


 手を振って、去ろうとする葉々勝さん。

 このチャンスを逃してはいけない。


「あ、ちょっと待って!」

「――何? どうしたの?」


「実は葉々勝さんに聞きたいことがあって……」

「え? なになに?」


 俺は深呼吸し、覚悟を決める。


「昨日、ホテル『チン&マン』にお弁当を配達しに行った時、葉々勝さんを見たんだ……おじさんと一緒の姿を……」

「あー……なるほど、なるほど……ふーん……」


 葉々勝さんの表情から笑みが消える。

 なんだか怖い……。


「あれは……一体どういうこと……?」

「ふー……。……もよもふ君さー……それ黙っててもらえる? バレたら退学になっちゃうからさー……」


 パパ活だと認めやがった!

 うう……胸が苦しい……!


「葉々勝さんは、そんなにお金に困ってるの?」

「当たり前でしょ? だって、次から次に新しいブランド物が出てくんだよ? いくらあっても足りないに決まってんじゃん」


「そ、そんなもののために……」


 なんということだ。希望は潰えた……。


「はいはい、うるさいうるさい。一流の良さが分からないのは、あんたが三流なだけ。偉そうなこと言わないで。はぁ……じゃあちょっと、そこの路地裏行こっか?」

「え……何で?」


「黙っててもらうのに、タダって訳にはいかないっしょ?」


 葉々勝さんはそう言いながら、輪にした手を口の前に持っていき、前後に動かす。


「本当はヤラせてあげるのが一番いいんだろうけど、あんたはちょっとキモすぎるから無理なんだよねー。ま、これでも十分すぎるほどありがたいでしょ?」


 葉々勝さんは汚い笑みを浮かべた。



[1、俺をみくびるな!〔プライド30以上〕]

[2、でへへ。じゃあお願いします。〔エロ100以上〕]

[3、食らいやがれ! ――屁をかける<屁こきLV9>]



 俺は地面を蹴って飛んだ。


 俺のケツが、奴の顔面に迫る!


「食らいやがれ! このドグサレビッチが!」


 ブオオオオオッ!!!!


「ぎゃああああああ! 目がああああああああ!」


[葉々勝に17ダメージ。毒、盲目を付与した]


「何すんだこの野郎! ちくしょう! 死ねえ! 死にやがれ!」

「ふん……無駄だ」


 奴は腕を振り回すが、俺には当たらない。

 なぜなら俺は、屁を浴びせた後、すぐに後ろに下がり続けていたからだ。


 そう……溜めをおこなうために。



 スーパー頭突き:←溜め→P



「どっこい!」


 頭から爪先までピンと伸ばした状態で、地面と水平に俺は飛ぶ!

 エドモ〇ド本田よ! 俺に力を!


 ドゴォッ!


「ごばぁっ!」


 奴は派手にふっとび、ゴミ箱に突き刺さった。

 燃えるゴミは月水金!


[葉々勝に43ダメージ。葉々勝を倒した]


「俺の怒りと悲しみを知れ!」


[もよもふの〔正義〕がアップ。〔プロレス〕がアップ。特性【ビッチキラー】を取得。560円を手に入れた]


【ビッチキラー】

 ビッチに1.5倍ダメージ。

 特殊な選択肢を追加。


「っしゃああああああ!」


[実績:初めての失恋をアンロック]



 こうして俺の初恋は、屁とスーパー頭突きによって終わりを告げたのである。

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