第5話 面接を悪行で乗り切れ

 面接先のファミレス『ボブさん』に到着。


 なぜこのファミレスのバイトに応募したのか?

 理由は単純で、そこそこ時給がいいからだ。


 俺の住む町は、それほど人口密度が高くないので、ウーパーイーツはあまり稼げない。

 以前からこのバイトには興味があったのだが、なにせ俺はいくつものバイトをクビになるほどのダメな男。ウーパーイーツしかできなかったのだ。

 おそらく〔自転車〕と〔地理〕のステータスだけは、2ケタあったのだろう。


 だが今の俺は、以前より料理スキルが高くなっている。きっとできるはずだ。



「よし! 絶対採用してもらうぞ!」


 俺は気合を入れて奥の事務所へと入った。





「名前は……もよもふ君。高校は……スーパーグレート高校ね……」


 店長さんは俺の履歴書を眺めているが、あまりよろしくない表情をしている。

 やはりウチの高校の偏差値が低いからだろうか?


「やっぱり馬鹿学校だと厳しいですか?」


 我が校の偏差値は、一番低い体育科だと20しかない。

 農業科が飼育している豚やニワトリの方が賢いと言われており、実際前回の中間テストでは、4人の生徒が子ヤギに負けた。


「んー……? それは別にいい。私が気にしているのは別のこと……」


 店長さんが、じっと俺の顔を見てくる。

 なんか照れちゃうなぁ。


 実はこの店長さん、とても可愛いのだ。

 キャリア的に考えてアラサー以上の年齢だと思うのだが、どう見ても10代後半から20代前半にしか見えない。

 童顔で黒髪ツーサイドアップ、そして身長が145cmくらいしかないせいだろう。


 うおー! 絶対ここで働いてやる!


「別の要素って何ですか? 言ってもらえれば直します!」

「それは絶対無理。性別は変えられないから」


「え? 女性しか雇わないってことですか?」

「そう。男女雇用機会均等法があるから、本当はこういうのダメなんだけど……」


「確かにホールは女の子の方がいいかなって思いますけど、キッチンは男でも全然いいと思うんですが?」

「違う。そういうことじゃない。このファミレスは尼寺みたいなものなの。男にひどい目に遭わされた女性たちを受け入れてる」


 なるほど……ここはそんな店だったのか。

 もしかして店長さんもそういう体験を……?


 残念だが、あきらめるしかないようだな。

 仮に雇ってもらえたとしても、ここのスタッフが俺を受け入れてくれるとは思えない。きっと敵視されてしまうだろう。



 お礼を言って帰ろうとした時、出やがった……!

 選択肢がよ!



[1、ヒャッハー! お前みたいな陰気な女を見ると、イジメたくなってきちまうぜぇ! ――店長さんをいじめる。(性的な意味で)〔カルマ-50以下〕【下劣王】]

[2、馬鹿な女だ。スタッフのプライバシーをベラベラ喋ってしまうとは。SNSに晒されたくなかったら俺を雇え。当然夜の面倒も見てもらうぞ?〔脅迫80以上〕]

[3、うえーん! 僕を雇ってよー! 悲しくてウンコ漏れちゃうううううう! ――ウンコを漏らす。〔バブり100以上〕]



 とんでもないやつ来た!


 今までは、一つくらいはなんとかなりそうなのがあった。

 だが今回はマジで全部アウトなやつだ。ブタ箱行きは確実である。


 やべえ……これは宇宙終わったか……?



 うーん……。

 うーん……。

 うーん……。

 うーん……。


 みんなの命を奪うくらいだったら……。


「馬鹿な女だ。スタッフのプライバシーをベラベラ喋ってしまうとは。SNSに晒されたくなかったら俺を雇え。当然夜の面倒も見てもらうぞ?」


 どうせ警察に捕まるなら、猥褻やウンコ漏らし罪より、脅迫の罪で捕まった方が様になる……はず。


「あう……! なんて卑怯な男……!」


 店長さんは涙目で俺を睨む。

 すごく申し訳ない。今すぐ謝ろう。――と思った矢先にこれだ。



[1、ヒャッハー! その泣き顔最高! もっと泣かせてやるよ! ――店長さんを泣かせる。(性的な意味で)〔カルマ-50以下〕【下劣王】]

[2、俺を雇うのか? 雇わないのか? 3秒以内に決断しろ。それ以外の余計なことを言えば、即SNSにアップだ。〔脅迫80以上〕]

[3、ありがとう、最高の褒め言葉だ。――見たまえ、興奮してこんなになってしまったよ。オギンギンを見せつける。〔エロ80以上〕【変態紳士】]



「俺を雇うのか? 雇わないのか? 3秒以内に決断しろ。それ以外の余計なことを言えば、即SNSにアップだ」

「うう……分かった。雇う……」


[もよもふの〔脅迫〕がアップ。カルマが低下。悪の力<サイコパワー>を習得。サイコパワーとスーパー頭突きが融合。<サイコクラッシャー>を編み出した]


 すげえ! ベ〇様のサイコクラッシャー使えるようになったぞ! 早く撃ちてえ!


 ……でも俺、どんどん悪の道を進んじゃってる気がする……。



「この人でなし……」


 店長さんから殺気を感じる……!

 後で全力土下座しないと!





 その後、スタッフ一同がホールに集められた。


 本当に女性しかいない。


「……今日からウチで働くことになった、もよもふ君です。はぁ……」


「え……!?」

「お、男!?」

「どういうことですか!?」


 予想どおり困惑するスタッフたち。

アウェイ感が半端じゃない。


「もよもふです! 一生懸命頑張りますので、よろしくお願いいたします!」


 できる限り元気よく、そして礼儀正しく言ってはみたが、皆さんの俺を見る眼は厳しい。


「みんなの言いたいことは分かる。でも、その……申し訳ないけど、彼を受け入れてあげて」

「そんな……急に言われても……」

「すぐにクビにしてください! 男は危険です!」


 はっきりと拒絶される俺。

 予想はしていたが、やはりつらいものがある。


 これは今日一杯で辞めた方がいいな。

 これからずっとこんな扱いを受けるなんて、とてもじゃないが耐えられない。


「文句なら、後でじっくり聞くから。――もよもふ君の教育係は……星野さんお願い」

「わ、私!? ……分かりました」


 黒髪ロングで化粧薄目の、とびきりの美少女が俺の教育係に任命された。

 これはテンションが上がる。


「よろしくお願いします! 星野さん!」

「え……あれ……? う、うん……」


 不思議そうな顔をする星野さん。


 実はさっきからずっと、彼女の様子が気になっている。

 この子だけは殺気を放っておらず、「あれ? あれ?」といった感じで困惑しているだけなのだ。


「いかがしましたか星野さん? 何か気になることが?」

「えっと……私、星野……だよ?」


 それは知っている。今、店長さんがおっしゃっていたからな。


 しかし、面白いものだ。

 同じ“星野”でも、こうも違うとは。

 こっちの星野はまさに天使だ。


「存じております。ちなみに下のお名前は何というのですか?」


 星野さんは何も言わず、ポカンと俺を見つめている。

 どうしたのだろう?



 ……いや、待て待て俺!

 きっとドン引きされてるんだ!  いきなり名前なんて聞くから!


「大変申し訳ありません、星野さん! 初対面であるにも関わらず、行き過ぎた真似をしました! お許しください!」

「初対面……? ぷふっ……! そっか、そういうことか。あはは、いいよ別に」


 噴き出す星野さん。

 良かった、心の広い人で。


「ふふっ、じゃあもよもふ君、早速ホールの仕事から覚えていこっか」

「了解です! よろしくお願いします!」


 しかし、なんて可愛い笑顔だろう。

 もよもふ、2回目の恋が始まってしまいましたよ。

 こりゃ辞める訳にはいかなくなりましたな。

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