第2話 初めての選択肢

 翌日の朝。

 目が覚めた俺は、視界の左上の方を見た。



 もよもふ

 いんきゃ

 HP: 10

 MP:115



 このドラ〇エっぽいステータスは常に表示されており、うざいことこのうえない。


「やっぱり“もよもふ”のままか……はぁ……」


 俺の名前は“もよもふ”に変わってしまった。

 まるでドラ〇エ2のローレシアの王子みたいな名前だ。控えめに言っても最悪である。


 生徒手帳やネット通販の登録情報を確認してみたが、それらもすべて“もよもふ”になっていた。

 これが神の力なのだろう。


「落ち込むなもよもふ! 代わりに俺は、以前より高い能力を手に入れたんだ! その代償だったのだと納得しようじゃないか!」


 まだ50ページほどしか確認していないが、以前の俺よりも平均値は格段に高い。

 これからの人生には期待が持てそうだ!



「いってきまーす!」


 元気よくドアを開け放ち、玄関を飛び出す。


「――あら、おはよう。もよもふちゃん」


 隣に住むおばさん(58歳)に挨拶された。

 うーむ。やはり、当たり前のように、俺をもよもふと呼んできたな。


 ピコッ。

 こちらも挨拶を返そうかと思ったその時、目の前にメッセージウインドウが現れた。



[1、金をよこせ。脅して金を奪う〔カルマ0以下 脅迫40以上〕]

[2、うへへへへ! 今日も相変わらずエロい体してますね奥さん!〔エロ50以上〕【熟女好き】]

[3、ヒャッハー! もう我慢できねえぜ! おばさん(58歳)の唇にむしゃぶりつく〔カルマ0以下 エロ70以上〕【熟女好き】]



 な、なんなんだこれは!?


(女神様! これはいったいなんです!?)


 俺は女神様に思念を送る。


(選択肢ですよ、もよもふ。よくゲームにあるでしょう?)

(ええ、それは分かるんですが、どれもクソムーブなんですよ!)


(選択肢はあなたの〔ステータス〕、<スキル>、【特性】を参照し、高いステータス値、高いスキルLV、レア度の高い特性を必要とするものから3つ表示されます)

(え? つまり俺の〔エロ〕や〔脅迫〕は、かなり高いってことですか?)


(はい。今回の会話では〔社交辞令〕、〔天気の話題〕といったステータスも参照されていたのですが、もよもふはどれも1桁しかありません。よって〔エロ〕や〔脅迫〕の選択肢が選ばれました)

(マジですか!? 俺、そんなエロいの!?)


 クソッ!

 ランダムエディットによるステ振りは、失敗に終わっちまったようだ!


(とほほ……まあ、前より良くなっているステータスもあるので、前向きに生きることにしますよ……。こういうヤバい選択肢が出た時は、無視すればいいだけですし)

(それはダメですよ、もよもふ。ゲームとは選択肢を無視できないものでしょう? そのことわりを破れば、宇宙が崩壊してしまうのです。そして再びビッグバンの始まりです)


(ええええええええ!? 冗談でしょう!?)

(本当です。現に今の宇宙は18代目なのですよ?)


 マジかよ……!

 宇宙の運命、俺が握ってんの!?


 俺はもう一度選択肢を見る。


 うーむ。

 右側に表示されているのが参照されているステータスや特性のようだが……。


(あの、女神様? カルマって善悪度みたいなやつですよね? カルマ0以下が条件ってことは、俺って悪人なんですか?)

(はい。あなたのカルマはマイナス350。7人くらい殺してる値です)


(えええええええええ!? とんでもない凶悪犯じゃないですか俺!)


 もちろん俺は人殺しなどしていない。

 これもランダムエディットによるものだろう。


 しかしどうする?

 マジでどれもヤバいやつしかない。1、3は犯罪、2はセクハラである。


 うーん……犯罪だけは絶対NGだ。


「うへへへへ! 今日も相変わらずエロい体してますね奥さん!」


 何が悲しくて、おばさん(58歳)にセクハラしなくちゃいけねえんだ。

 つうか俺、【熟女好き】の特性持ってるみたいだけど、全然おばさんに欲情してないんだが?

 特性と人格は連動しないということか?

 まあ確かにゲームでは、品行方正で慈悲深いって設定の聖女様が、民家のタンスから金盗んだり、山賊を皆殺しにしたりするからな。


「あらやだわぁ、もよもふちゃん♡ おばさん火照っちゃうじゃない♡」


 おばさんは恥ずかしそうに腰をくねらせている。


 良かった。

 怒ってはいないようだ。


[もよもふの〔エロ〕がアップ。【年上キラー】を取得]


【年上キラー】:異性の年上に1.5倍ダメージ

        特殊な選択肢を追加


 お、やったぜ! 行動にちなんだステータスが上がるのか!

 ……いや、上がんない方が良かったなこれ。



「うふふ♡ もうおばさんをからかっちゃダメよ♡」


 おばさん(58歳)が俺の肩をぱんぱんと叩く。


[もよもふは1ダメージを受けた。もよもふは1ダメージを受けた]


 え!?

 俺は慌てて左上を見る。



 もよもふ

 いんきゃ

 HP: 8

 MP:115



 へ、減ってる!?


(ちょっ! 女神様! これはどういうことですか!? なんでダメージを!?)

(ゲームシステムが、今のパンパンを攻撃と判定したのです)


(マジですか!? いや、だとしても、ダメージを受けるのはおかしいですよ!)

(ゲームとはそういうものでしょう? 防御力255あっても、なぜかスライムの攻撃で1ダメージ食らってしまうのです)


 ウソだろう!?

 あんなパンパンを10発食らっただけで死んじまうのか俺は!?


 これからの人生、まったく期待できねえ!

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