第五章 再会

 (昨夜は悩みが一区切りしたせいかよく眠れたわ。今日さっそく商店街に行ってみたいけど、何か用があったかしら)

 「ええと、あ、そうだ。乾燥キノコが無い……ちょうど良いわ、買ってこないと」


 (理由もなくフィリップさんを探しまわるとなんだか危険な悪い魔法使いって感じだけど、買い物のついでに出会いを期待するくらいなら別に平気よね)

 「よし、ちゃんと言い訳として筋が通ってるわ」

 

 (そもそもフィリップさんがどこに住んでいるか私は知らない……。そもそもポタンの町の住人なのかしら。ひょっとしたら遠くから何かのついでにポタンにやってきて、たまたま私の店に寄ったのかもしれない……。だとしたら、再会できる可能性はとても低いわ……)

 「ああ……」


 (このお守り程度の魔力では再びフィリップさんに巡り合えるか分からない……その時はどうする?もっと強力な魔力を使ってしまおうか……。でも、そんなことしたら道徳的にどうなの?フィリップさんに強力な魔力を使って恋人になったって知られたら絶対怖がられるわよね……。ああ、私どうすればいいの)

 「うわっ……いててて……」

 

 「大丈夫かい?お嬢さん、立てるかい?よいしょっと。しっかり前を見て歩かないと危ないよ」

 

 (恥ずかしい~転んじゃったあ)

 「はい、ありがとうございます。あ、丁度良かった乾物屋さんのおじいさん、丁度買いに行こうと思っていたんです」


 「おや、そういうあんたは魔法使いのミローナさんだね。乾燥キノコかい?」

 

 「はい、そうなんです」

 (そうだ!一応乾物屋さんにも訊いてみようかな)


 「あの、おじいさん、この辺にフィリップさんって若い男の人、住んでたりする?」

 (ふわあ、フィリップさんって言葉に出す時ドキドキする……これが恋かあ)


 「フィリップ?それだけでは何とも……。どんな感じの若者かね?」

 

 「黒髪に黒い目。それに、ええと結構な二枚目よ」

 (あわわ……あんまり褒めると私がフィリップさんのこと好きなの乾物屋さんに気づかれちゃう……)


 「ああ、男っぷりのいいフィリップだったら知ってるよ。でもあの子はこの町の人じゃなくってねえ。この町に仕事で時々来る奴でね。運河があるだろう、そこにかかっている橋を渡ったところに大きい街があるだろ」

 

 「……あるわね……。商業都市のコンタプ……」

 (やっぱりポタンの人じゃなかったんだ……。コンタプって結構遠い……)


 「そこに住んでるんだよ。仕事に来るとウチの店で乾燥白桃をよく買っていくね」

 

 「そうでしたの……」

 (どこに住んでいるのか分かっただけでも感謝しないと……。でもコンタプま行く?行くとしてもどうやって自然な出会いを生み出せるのかしら……。魔法をやたらを使ったら怖がられてしまう……)


 「ほい、ミローナさん、店に着いたよ。乾燥キノコどれくらいいる?」

  

 「……」

 (直接フィリップさんに魔法を使うのは卑怯だとしても、何とかしてフィリップさんを一目見たい!魔女の映写機でどうにかならないかしら)

 

 「……さん、ミローナさん、街路樹に向かって突っ立てどうしたんだい?」


 「ふえっ、あ、すみません!ちょっとぼーっとしちゃったんです」

 (しまった。何やってるんだ、私)


 「ふふふ、乾燥キノコどれくらいいるかね?」


 「ええと、大袋三つくださいな」

 (魔女の映写機でフィリップさんを見るにはフィリップさんが所有していたものがないとだめだわ……)

 

 「ほい、千二百ヴィン。まいどありがとうよ」

 

 「はい、お世話様ぁ」

 (魔女の映写機!魔女の映写機!)


 「ミローナさん、走るとまた転ぶよ!」


 「はあはあ、乾燥キノコ、軽いけどかさばる……」

 (魔女の映写機!魔女の映写機!魔法道具に魔法をかければ二重に魔法がかかってどうにかなるかもしれない……)


 「……さい!待ってください!」

 

 「ふぇ?」

 (何?だれか呼び止めた?でも急には止まれないいいっ、あっまた)

  

 「痛い~。また転んだあ」

 「ミローナさん、大丈夫ですか?」

 

 (ハッ!この声はまさか……)

 「フィリップさん……」


 「良かった……覚えていてくださったのなら話は早いです。あの、立てますか?よいしょっと」

 「うぉ、ありがとうございます」

 (きゃああ手をつないじゃったああ!ありがとうフィリップさあん‼)

 

 「すみません、僕が急に引き留めたせいで……。はい、キノコ、落ちましたよ」


 「いえ、いいんです。むやみに町中を走っていた私も悪いですわ」

 (フィリップさんだ!なぜここに?今日もお仕事がポタンであったのかしら)

 

 「実はご相談があったのです。今からミローナさんの相談所に行ってよろしいですか?」

 

 「ええ、もちろんですわ。ちょうど帰り道でしたの。……いい、一緒に行きましょうぅ!」


 

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