第四章 魔法使いの自問自答再び

 一日の仕事を終えた後、寝間着に着替えたミローナは、やはり窓辺で物思いにふけっていました。タラント様の言葉が胸の内に響いていたのです。

 すなわち、「忘れられないからよ」の答えが。


                    ☆彡


 (恋の特徴って相手の事が忘れられなくなる事だったんだ……)

 「私はフィリップさんの事が忘れられない……」


 (つまり、これは恋なのか……)

 「どうしよう……」


 (恋愛相談所の主になって二十年、自分が恋をするなんて初めてだわ……)

 「どうしよう……」


 (相談に答えたことは沢山あるけど、自分自身の恋の悩みは分からない……)

 「どうしよう……」


 (おまけにフィリップさんに出会いが生まれるようにアドバイスとお守りを渡してしまった。フィリップさん、もう相手を見つけているかもしれない……)

 「手遅れじゃないのよおおお……」


 (恋の悩みでうろたえるなんていつもの私じゃない。恋の悩みが持ち込まれても私はいつも冷静に対応できたじゃないの。いつもの私だったら、この悩みが私の者じゃなくて私に相談をしている誰かのものだったら……)

 「あ!そうだ!」


 (良い事おもいついた!)

 「私は私に悩みを相談すればいいのよ!」


 (きっと私は私の悩みを聞ける!)


 「早速始めましょう。ミローナさん、今日は何のご用件でしょうか?」

 (あなたの力を借りたいとなれば、もうお判りでしょう。恋の悩みですわ)


 「なるほど、そうではないかと思いました。では、さっそくお聴きしましょう」

 (はい。恋の相手は三日ほど前に仕事の都合で知り合った男性です。黒い髪に黒い目の美男子でした。名前はフィリップさんです)


 「その方にお近づきになりたいのですね」

 (はい、そうです……そうなんですが……)


 「何故ためらうのです?」

 (私は愚かにも自分が彼に恋をしているとは気が付かず、彼に恋人を作るようにアドバイスをしてしまったのです)


 「恋の自覚が無かったのですか……。若い時には時折ある事ですわ」

 (そうですね……。話には聞いていましたが自分がそのような状態になるとは思いませんでした)


 「恋は盲目とはよく言ったものです。でも、あっさり諦めたくはないのでしょう?だからこそ私に相談に来た」

 (そうです。フィリップさんはひょっとしたらまだ出会いが無いのかもしれない。私はまだ間に合うのかもしれない)


 「あなたもチャンスにかけてみたくなったのですね」

 (そうです。できれば、私が彼の運命の人になりたいのです。もし、まだまにあうのならば)


 「もし、すでに彼に恋人がいたらどうするおつもりです?」

 (それは仕方ない事です。邪魔をして傷つけたくはないのです。引き下がるとは思いますが、それでも時々、遠くのフィリップさんの様子を魔女の映写機で見たいという衝動に駆られるでしょうね)


 「忘れられないのが恋だとか」

 (そのようです。でも、今できる事は、私が彼の運命の人になるために行動することだけではないですか)


 「そうですね。では、あなたの勇気を守るためにお守りをお作りしましょう。あなたもよく知っているお守りです。紅水晶の蜘蛛の巣包み」

 (ああ、フィリップさんとお揃いですね)


 「そうです。穏やかな出会いを引き寄せるお守りです。正確にはあなたとフィリップさんでは再会ですが……。商店街に食料品の買い出しに行くときにでももってお行きなさい。その時、フィリップさんを見つけられるようにいつもよりキョロキョロしてみるとよろしいですわ」

 (ありがとう、そうしてみます。ミローナさん)


 「礼には及びませんわ。ミローナさん」


  


 

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