第二章 自問自答する魔法使い

  一日の仕事を終えた後、ミローナは寝間着姿になると窓辺で物思いにふけっていました。


                  ☆彡


 (あの初見さん、フィリップさんって名前なんだ……)

 「あのお守りで良かったのかなあ。はあ……」

 

 (なんかもやもやするなあ……)

 「何故なのか?原因を考えなければ……」

 

 「高価なものってわけじゃないのよね」

 (穏やかな出会いを呼び寄せる紅水晶のかけら蜘蛛の巣包みは町の定食屋のランチ一食分。困るような値段じゃないわ)


 「魔力に自信がないってこと……?」

 (そんなことない。今まで百年近くこの町で信頼を勝ち得てきたじゃない)


 「きっと穏やかな出会いがあるはずよ……。まあ、お守りの力には限度があるから、こまめに外出するようにってちゃんと言ったし」

 (フィリップさんご自身が女性に注意を向けて出会いの場に顔を出せば、お守りの力が発揮されて良い人が見つかるわよ、きっと)

 

 「そう、見つかる……。見つかる……。見つかるのよ……」

 (見つかったらフィリップさんはどうなるんだろう)


 「そりゃお付き合いでも始めるでしょ。そのために私の店に来たんだから」

 (それがフィリップさんの幸せなのよね……。やだな)


 「ん?」

 (今、私なんて考えたの?)

 


 「やだなって……。何の非もないお客様の不幸を願うなんて……」

 (どうしよう!私、ヘンテコになってる!)


 「邪念を……。邪念を払う魔法を使わなきゃ……。くう~あれ疲れるのにぃ」

 (このままヘンテコになるよりはマシだわ!満月の魔方陣の中で呪文を唱えながら腕立て伏せ!邪念を払うのよ!)


                 ☆彡


 ミローナは百歳を優に超える魔法使いでしたが、フィリップさんに対する感情が初めての恋でした。この感情が何なのか、極端に奥手のミローナには分からなかったのです。







 

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