第一章 初見さん
「いらっしゃいませ。わたくし、こちらの主であるミローナと申します」
(あら、男の人。珍しいわね。お客さんは女の子ばかりだったのに)
「あの、ど、どうもこんにちは。僕、ちょっと聴きたいことがありまして……」
「お客様、初見さんですわね。男の方がこちらに来るのはひょっとしたら初めてかもしれません」
(あら、うつむいちゃった。ひょっとして照れてる?)
「あ、そうですか。えっと、いいんでしょうか」
「大丈夫ですよ。業務は男女分け隔てなく行いますから」
(顔がちょっと赤くなってる。恥ずかしがり屋さんなのね)
「では本日のご依頼は何でしょう」
(恋の相談に決まっているわよね。別に恋愛相談限定ってわけじゃないのにすっかり私は恋の相談の専門家ってことになっちゃった)
「その、恋の相談所と聞いたのですけど、その、その事をちょっと……」
「大丈夫ですよ、秘密厳守です。でも仕事を行いやすいようにメモは取らせていただきます」
(赤い顔で口をパクパクさせてる。このお客様、東方の国で飼われてる金魚みたいでかわいい~)
「えっとですね、個人的なつまらない悩みなんですけども、は、話します」
「焦らなくて大丈夫ですよ。本日はそれほど立て込んでおりませんから、ゆっくりお聞きできます」
(うーん、毎回サービスにお出しするお茶は、このお客様の場合は心を落ち着ける安閑草のお茶が良さそうね)
「ただ今、お茶をお出しします。サービスなので、どうぞお召し上がりください」
(ティーカップは手汗を抑える魔法がかかっている勿忘草色のものを使おう)
「え?ああ、ありがとうございます……」
「お待たせいたしました。さ、どうぞ。まだ寒いですものね。温まってください」
(さあ、彼の表情が変わるわよ。これくらい、朝飯前だもの)
「いただきます」
「いかがです?」
(あなたにぴったりのお茶だもの。美味しいはずよ)
「わあ、美味しいです」
「ありがとうございます」
(よし、空気を和ませたわ)
「では、本日のご依頼内容をお伺いいたします」
(さあ、業務開始!)
☆彡
「僕の身近な恋の悩みですが……」
「ほほう……。当店の得意分野ですわ。なかなか別れを切り出せない恋人がいらっしゃるとかではありません?」
(こちら様は男前だから本人は内気でも無自覚に女性を悩ませるタイプね)
「ええっ、まさか!違いますっ」
「え、違う?」
(おかしいわね。私の見立てが外れるなんて)
「すると、本命でない相手に言い寄られて困ってらっしゃるとか?」
(今度こそ当たるでしょ)
「いえ、そんなんじゃないんです……」
「あら、それも違う?うーん、どうなさったんです?」
(女性関係の後始末を頼みに来たと思ったんだけど……違うのね)
「その、出会いが欲しいんです……」
「は……出会い?」
(え?どういう事)
「恋人が欲しいんですが、なかなか出会いが無くて……」
「恋も始まっていないのか……。あ、いえ、なんでもないですっ」
(いけない!失礼だったかも。聴こえちゃったらダメだわ!)
「やっぱり僕、変ですか……?女の人にはそう見えますよね……」
「いいえ、そんなことありませんわ!人それぞれの事なんていくらでもあります」
(いけない!悪いことをした訳ではない人を傷つけちゃうかも)
「そう……だといいんですが……」
「もちろんそうです。お客様は健全ですわ」
(危ない~。開店以来初の失態をするところだった……)
「ええと、恋にもいろいろありまして……どのような出会いがお望みでしょう」
(本当にこの人の悩みなのかしら。女性に困ってるようには見えないわぁ)
「どんな種類の恋というか、出会いがありますか?」
「ドラマチックな恋愛をご希望ですか?刺激的な出会いでしょうか。他にも穏やかな出会いも宜しければありますよ」
(この方はきっと非日常を求めているはず。いわゆるアバンチュールッてヤツを経験したいに違いないわ。きっと刺激的な方を取るわね)
「あ、穏やかな方をお願いします。落ち着いてる方が好きなんで」
「お、穏やかな出会いですか。かしこまりました」
(意外な返事再びだわ!)
「では、相応しい恋を呼び寄せる魔法のお守りをお持ちしますね。少々お待ちを」
(うーん、男の人のお客さんに慣れてないから調子狂わねえ。不審がられないようにしっかりした素振りを見せるように気をつけなければ)
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