恋の魔法使いの言葉と心
肥後妙子
序章 ある魔女について
遥か西にある中規模の町、ポタン。
その町はずれに1人の魔女が住んでいました。名前はミローナ。肌はミルクのように白く、頬っぺたはバラ色、栗色の柔らかに波打つ髪、瞳の色は新緑を映した湖面のような色に透き通っていました。その緑の双眸はある時まで銀の円に縁どられていました。伝説の銀の森でとれたという枝をフレームに使った、銀縁眼鏡をかけていたのです。ミローナ自ら作った恋の魔法の道具です。
彼女の仕事は主に恋の相談でした。ミローナはひっそり暮らしていましたが、お客さんはぽつぽつと、でも絶え間なくやってきました。ミローナは頼りになる、知る人ぞ知る存在だったのです。
でも、ミローナ自身は恋を知りませんでした。ミローナにとって、恋とは業務内容であって、それ以上でもそれ以下でもありませんでした。
ある早春の日、あの人が来るまでは。
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