♯7 兄、奴隷の妹をおんぶする

チュンチュンチュン



 寝苦しい夜をなんとかやり過ごし、ようやく朝が来た。

 今日は朝早くから、元奴隷商人のおっちゃんの張り込みでゴミステーション周りを注視していた。


「おにーちゃーん、そんなことやめて遊ぼうよー。私、あそこで猫飼いたいから捨て猫でも探しにいこ? 一緒にたくさん家族作ろ?」

「だから言い方ァ……、散々文句言ってたくせに着々と環境整えようとするじゃん」


 妹が俺の背中にべったり張り付いて、俺のやることなすこと全てにちょっかいを出してくる。


「暑いから離れろ、背中に引っ付くな」

「やだーー、遊んでくれるまで離さない」

「はぁ」


 妹は歩いている最中でも俺の背中に引っ付いて離れない。そのまま引きずり回すわけにはいかず、移動するためにやむを得ず妹をおんぶする形になってしまう。

 


「あーーーー! いたーー!」


 間違いない! あのおっちゃんだ!

 元奴隷商人のおっちゃんが、ゴミステーションにやってきていた!

 

「すいませーーーん! って重っ!!」

「やだやだ! 行っちゃやだってば!」

「わざと体重かけるな! 重い!」

「お兄ちゃんが行かないって約束したら軽くなる!」

「ぐぬぬっ!!」


 体を強張こわばらせる妹をおんぶしながら、なんとかおっちゃんのところに辿り着く。


「はぁはぁ、ちょっとすいません……」

「あれ? あんたはこの前の。何だか楽しそうなことしてるねぇ」

「それが全然楽しくないんです! すいません、ちょっといいですか」

「うん? どうしたんだい?」

「実はかくかくしかじかで返品する書類も領収書も無くなってしまいまして……」

「あーそれで、俺に奴隷購入の証人になってほしいってことね。いいよ、この収集終わったら奴隷商店に行こうか」

「お願いします!!」


 ぎろりと妹が元奴隷商人のおっちゃんを睨んでいた。


「けど別にさー、その奴隷をわざわざ返品しなくてもいいんじゃないか? 随分とお客さんになついているみたいだし」

「そうは言いましても」

「それに、お客さんこの子を随分気に入って買ってたじゃないか。“顔も体つきも俺の好みだ! こんな美少女に巡り会えるなんて! 買ったらあんなこともこんなこともしてやるんだ” とか言ってあんなに楽しそうにしてたのに……」

「ストーーーップ! ストップ! ストップ! その話はあとで二人きりでしましょうね!」


 その話を聞くと、俺の背中の子泣き爺(妹)がニチャァと嫌な笑みを浮かべていた。


「ほーう、それはどういうことかなお兄ちゃん」

 

「中身! 中身がやばいやつだったんです! やっぱり人間は中身ですからね、アハハハハ!」

「奴隷に人間性を求めるなんてお客さんは変わってるねぇ」


 そんなことを言われながら奴隷商人のおっちゃんと奴隷商店に向かったのであった。




※※※



 

「よしっ! これで書類を書けばようやく返品できるぞ!」

「お兄ちゃんが私の言うことを全然聞いてくれない」

「奴隷の言うことを聞く主人がどこにいるんだよ」


 ホームレスハウスに戻り、書類の確認をしていた。


「……ねぇねぇ、お兄ちゃんそれどんな書類なのか見せてよ」

「ん? いいけど」


 ペラっと妹に書類を手渡す。


「へぇ、こんななんだ」

「署名するとこがいっぱいあって大変なんだよ」

「ふーん難しい言葉色々書いてあるね……えいっ!」


 ビリビリビリビリ!

 おもむろに妹が俺の書類を引き裂いた。


「……うちの妹ちゃんは何してはるの? アホなの?」

「お兄ちゃんが署名するの大変だって言うから破いてあげたの!」

「つ、ついになりふりかまわず実力行使にでたな」


 ゴソッと書類のをポケットから取り出す。


「じゃあこっちに書くからいいや」

「……ねぇねぇお兄ちゃんはなんでもう一枚持ってるの?」

「こんなこともあろうかと多めにコピーしてもらってたのさ!!」

「お、お兄ちゃんのくせに用意が周到! ちょっとそれも見せてよ」

「二度とその手に引っかかるか!」

「一瞬! 一瞬だけ見せて! 一生のお願いだから! 何でもするから!」

「信用できない言葉の大渋滞やめろ!」

「むきーーーっ!」


 妹が俺の持っている書類を無理矢理引き裂こうと飛びかかってきた!


 ついに、奴隷妹と直接対決をするときがやってきたようだ!

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