♯6 妹、顔からタイダルウェイブ
日が落ちて夜になった。
我がホームレスハウスの記念すべき初めての夜である。
断じて初夜ではない。
明日は早く起きて、元奴隷商人のおっちゃんの張り込みをしなければならない!
「お、お兄ちゃん、何か今日暑くない?」
「……暑い」
段ボールの上にマットレスを並べて、妹と横になっていた。
「お前がこんなにぬいぐるみ置くからだ!」
「ぬいぐるみ関係ないよ! 川辺だから絶対湿度とかだよ!」
ホームレスハウスの室内は大量のぬいぐるみが散りばめられており、大分可愛いらしい内装になっていた。
そんな室内で、俺は妹が持ってきたうんちくんぬいぐるみを枕にして暑さで眠れない夜を過ごしていた。
「ぷぷぷぷ、お兄ちゃんってばうんちを枕にしてる」
「はい小学生ー! 絶対言うと思ったー!」
「お兄ちゃんはおバカさんだなぁ。異世界に小学校はないんだよ」
「ズレたところでマジレスやめろ」
暑さもあるが寝れない原因ナンバーワンはこいつだ。うるさくて仕方ない。
「うぅ……それにしても暑い」
「そのボロ切れ脱げばいいだろ」
「これ脱いだら私パンツ一丁なんだけど」
「? 何か気にすることある?」
「お、お兄ちゃんって~~~~っ!!」
妹がマットレスの上で悔しそうにじたばたし始めた。
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんっが!」
じたばた! じたばた!
「お兄ちゃんが全っ然女の子として扱ってくれない!」
じたばた! じたばた!
「ハァハァ……」
「落ち着けよ……」
「……う、うん落ち着く、ひぃひぃふぅ~」
「落ち着き方が違う気がする」
ステータスが低いのでちょっとの動きですぐ息が上がるうちの妹。ぜぇぜぇと苦しそうに呼吸を整えていた。
……この地団駄を見せられて、どうやって女の子として扱えというのか!
っていうかその前に奴隷だし。
「何だかもっと暑くなっちゃった……」
「無駄に動くお前が悪い」
「今のはお兄ちゃん悪い!!」
顔を真っ赤にして妹が怒っている。
真っ赤にして……って!?
「お、お前!? 顔! 顔!」
「んっ? なーに?」
妹の顔から汗が滝のようにダバーっと溢れ出ていた!
「汗、汗! 引くほど汗出てるぞ!」
「え!? うわーー! 本当だーー! びしょびしょだーー!」
「とりあえずこれで拭け!」
近くにあった熊のぬいぐるみを妹の顔に押し付ける。
「うわーー! サトウさんが汚れるーー!!」
「お前の汗だろ!! ってか早速名前つけてたのか!?」
ゴシゴシゴシっ。
ダバーー。
ゴシゴシゴシっ。
ダバーー。
「……お、お前こんなに代謝良かったっけ?」
「転生してからは知らないよぉ……」
「とりあえず、そこの川で顔洗ってこい」
「う、うん」
バシャバシャバシャ。
バシャバシャバシャ。
「うぅ……お兄ちゃんにびしょびしょにされた」
「言い方ぁ……、あと完全に自爆だし。ほら、これで顔拭けよ」
うんちくんぬいぐるみを妹に渡す。
「さすがお兄ちゃん、そろそろこれが登場すると思ったよ」
「いいからほら。大丈夫か? あとは早く水分補給しないとな、この前の公園行くぞ」
「……!!!」
そう言って、ホームレスハウスの外に妹を連れ出す。
……暑さの原因が分かった!
壁にしていたビニールシートだ!
いざ、外に出ると夜風が頬に当たって気持ちが良かった。
「ふふふ~ん♪ ふふふふ~ん♪ ふーふふふふーふふん♪」
「……なんだよ急に鼻歌なんか歌って。情緒不安定か」
「ふんふーん♪ 今の私はご機嫌なのだ」
「わけが分からん……」
顔を真っ赤にした妹が何故かうきうきと夜道を歩いていた。
妹の返品期限まで残り6日!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます