4 はじまるゲーム

 わたし、デサフィオ男爵家にひきとられたリアナには、二つの記憶がある。

 

 一つは、平民の母がわたしを育てながら働き過ぎて。体を壊して亡くなり、実の父だというデサフィオ男爵にひきとられた記憶。

 彼は母との結婚を望んでいたが、男爵家が許さず。そのまま婚約者と結婚して、母は彼のもとを去った。

 病弱だった奥様との間に子どもができず、奥様はそのまま若くして亡くなられ。そんな時に母が去ってからずっと探し続けていた男爵が見つけたのは、母が亡くなって一人になったわたし。

 男爵には跡継ぎの子どもがいなかったので、家中の反対を押し切った彼は、大切だった母のわたしを育てると言ってひきとった。そしてわたしは、男爵家の娘になったのだ。

 実父と言われても、離れて育った私には違和感でしかなく。かと言って、平民のわたしが貴族相手に何ができるわけでもなく。ひきとってから何不自由なく育ててくれる男爵に恥だけはかかせないよう、必死で貴族が学ぶものについて身につけていった。学院に入るまでの短期間ではあったが、不格好ながらも貴族っぽい立ち振る舞いは習得した……はず。

 

 もう一つの記憶は、こことはの記憶。

 空高くそびえ立つ四角い建物の合間を、鉄の塊が走り抜ける世界。そこでのは、同じ年頃の子たちと同じ服に身を包んで学舎へ行っていた。きっと、学生だったんだろう。

『だろう』というのは、あまり鮮明に覚えているわけでもなく、かと言って悲観することもなかったから。たぶん、前の人生は楽しく生きたんだろうな。

 

 そんなもう一つの記憶の中でも、特に鮮明に覚えている記憶があった――いや、思い出したが正解かな? 

 入学式の前日、元々平民だったわたしが貴族子女が通う学院に入学するということで、ものすごく不安になっていた。全く寝れないほど。

 そうして気づいた時には寝過ごし、それに気づいたお父様に馬車で急ぎ送っていただいた。家で家庭教師から少し習っていた淑女教育では絶対ダメのはずだけど、今のわたしには遅刻の方がダメだと思っていたので、敷地内を全力で走った。お父様を置いて。

 走った先で着いたのは、入学式の会場。走った勢いのまま、扉をバンッ! と開けてしまったのは申し訳ないし……やってしまった感もあって、膝に手をついて息を整えながらも顔をあげれなかった。

 その時、思い出したのよ。ここ、乙女ゲームの世界と一緒だって‼

 

 乙女ゲーム『恋する令嬢の人生ラブゲーム』通称『恋ゲー』。

 タイトルも通称もイマイチのゲームなのに、絵やストーリーは女子中高生にドはまり。中の声優人も豪華で、SNSでは、「なんでタイトルだけサボった⁉」と言われていた。

 まあ、平民だった女の子が男爵令嬢になって、高位貴族と恋愛していくなんて確かに『人生』かけているわよね。今だから思うけど。


 そして、よ。わたし、そのヒロインじゃん!

 すぐさま、この世界はわたしのと思ったわ。

 お母さんが死んで、知らないおじさんにひきとられ。今までの生活から、無理矢理わけの分からない貴族社会せかいに入れられ。不安で不安でしかたがなかったけど……。

 ヒロインのための世界なら、何しても大丈夫でしょ? なら、不安なんていらないわ‼ 

 

 そうして、入学式で見つけた最推し攻略対象の王子に近づき。もちろん愛でるために。

 何も覚えてないわたしの唯一ゆいいつ覚えてる推しなんだから、愛でたいよね! 他の攻略対象なんて見てるヒマなんてないし、会ってるヒマも推しのためならいらないし。

 と思って、王子にアタックしまくった結果、恋仲に。面白いくらいストーリー通りに進んだおかげもある。

 

 でも。

 

 

(……なんか、気持ち悪いくらいうまくいってない?)



 王子と恋仲になってから、思うようになったのよ。

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