3 運命の出会い

 婚約者との初めての交流は、フェリクス殿下おバカさんの突撃に始まり。私がお茶をいただいている間、好き勝手にお話しされ。一通り、一方的に話し終えて満足されたのかそのままお帰りになられました。当然、お見送りなどもしておりません。だって、カップをテーブルへ戻そうとしている間に、去って行かれましたもの。嵐のように。

 

 初回がこうでしたから、以降の彼との交流も同じようなものしかありません。

 お会いして、私の挨拶している間にお話が始まり。気づいたら、時間だ! と仰られ、去り。

 また別の日は、妃教育の講義中に突然現れ。好き勝手お話しされ、講義を中断されたり。時には、のどを潤すためにお茶の用意をさせ、急にお茶会を始め。満足したら、去っていきます。私を置いて、です。公爵家でも、王宮でも必ず私を置いていきます。

 

 たしかに私、退屈なのが嫌いなのですが。おバカさんに勝ってされたり、放置プレイが好きなわけでもないのですよ?

 張り合いのないはもっと嫌です。私も子どもですしね。


 こんな状況下でも、妃教育は順調に進み。学院入学前には、ほぼ完了しました。一応、優秀ということで婚約者に選ばれていますので、それなりにできますのよ?

 残すは王家の秘密などがかかわる王妃教育のみなので、正式に嫁ぐまではお預けとなりました。『突撃』は嫌でしたが、妃教育は知らないことを学べたので、好きでしたのに。少し残念です。

 

 そうして、また暇な日々に戻り。学院へ入学の日になりました。

 フェリクス殿下は、事あるごとに理由をつけて我が家へいらっしゃり。好き勝手話して去るのも、昨日まで続いていました。


 

「……など、これからの諸君の学びにつながることを願う。以上」

「続きまして、新入生代表のあいさつに移りま」


 バンッ!


 

 と、今までのことを思い出しながらほおけていましたら、司会の声をさえぎる大きな物音によって現実に引き戻されました。

 音の方へ目をやると、入り口が大きく開け放たれ、肩で息をする淡い桃色の髪が揺れていました。

 おおかた、遅刻された方なのでしょう。入口に立つ警備兵や、教師のローブを揺らして走りよる方に注意されているようです。

 ちらりと、壇上で王族として新入生代表のあいさつに立つフェリクス殿下へ目を向けると……やはり彼女を見て驚いているようにうかがえます。あら、心なしか瞳がキラキラと輝いているようにも、頬がすこしですが赤みがさしているようにも見えますわ。

 

 これは、使えるかもしれません。

 ちょうど退屈していましたし。

 ちまたではやりの恋愛小説のように、『物語のような運命の出会い』を演出するのも楽しそうですよね。

 

 幼い頃に結ばされた婚約。

 それを嫌と主張できない王子が、学院生活で出会った運命の少女のおかげで心を開いていき。

 次第に、彼女への恋を自覚して。どんどん婚約者がうとましくなる。

 そこで発覚する、運命の少女への嫌がらせやいじめ。

 相手は、自分の婚約者。

 好機チャンスだと考えた王子が、証拠を集めて婚約破棄とともに突きつける。


 いい! いいですわ! ものすごくワクワクしてきました!


 と言う、今日あった出来事と退屈しのぎの話を侍女に髪をすかれながら語っていましたの。

 とてもアツく。

 

 

「そうなると。ミア、やっぱり彼女しかいないわ‼」

「……本当に、おやりになるのですか?」

「ええ! もちろんよ! 遅刻娘を調べたら、だったし。ステキだわ、ふふっ」


 

 楽しみで仕方がないわ!

 嗚呼ああ、せっかくですから本当に嫌がらせや虐めをやってしまいましょうか。その方がいいスパイスになるでしょうし。何より、楽しいですわ!


 侍女がすこしあきれているようにも見えますが、気にしませんわ。私自身、退屈しないのが大事ですから。

 ええ。なんだかゾクゾクしてきましたわ!

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