(4)

 翌朝、私は学校へ向かった。

 今まで武田君と行動する機会が多かったから、1人だけで登校するのはなんだか新鮮な気分。

 下駄箱には、近藤さんがいた。

「沢海さん、おはよう」

「近藤さん、おはよう。えっと……綿引君を待ってるの?」

「えっ……っ!? べ、別に……」

「綿引君に告白するんだよね?」

「ど、どうして……っ」

 近藤さん赤面して俯き、ちらっと上目遣いに私を見る。

「そうだよね。いきなりこんなことを言われてもびっくりするよね……。実は昨日の放課後、近藤さんが綿引君の下駄箱に手紙を入れたのを偶然見ちゃったの」

「え!」

「ごめん。盗み見するつもりはなかったんだけど……」

「そ、そっか……」

「それでね、近藤さんが帰った後、誰かがその手紙を盗んでるのを見たの」

 はっとした近藤さんが綿引君の下駄箱の扉を開ければ、「ない……」と苦しそうな声をこぼした。

「沢海さん、誰が盗んだの?」

「……分からない。だから、盗みそうな人に心当たりがあったら教えて欲しいって思って」

「心当たりなんてないよ……」

「他に綿引君のことが好きな子のこととか、知らない? 多分、綿引君が好きな人がやったんじゃないかなって思ってるんだけど」

「……分からない」

 近藤さんは首を横に振った。

「でもどうしよう……今日、また手紙書いて……」

「近藤さん、落ち着いて。私も協力するから」

「沢海さん、ありがとう。でも、どうしてそこまでしてくれるの?」

「……私があの時、止めてれば盗まれることもなかったから」

「気にしないで。教えてくれただけでも嬉しいから……」

「手紙には何て書いてたの?」

「大した事じゃないの……。今日の放課後に校舎裏に来て欲しいって……それだけ」

「だったら、直接、綿引君に放課後の約束をしたら?」

「無理だよ、無理無理!」

「それじゃあ、メッセージアプリ使うとか」

「……最初はそうしようと思ったんだけど、それじゃ味気ないかなって」

 綿引君と両思いなんだよ。

 すぐにでも教えてあげたくなった。

「そういえば、沢海さん、いつもと雰囲気が違うね」

「髪型、変えたから」

「……それもあるけど、雰囲気がすごく明るい……って、今までが暗いってわけじゃないけど!」

 あはは、と私は苦笑いする。

 近藤さんは気を遣ってくれたけど、確かにいつも俯き気味で人の目も見られなかった、ちょっと前までの私とは変わったって自覚はある。


 それから私は図書室へ行って図書委員のお手伝いをし、1時限目の休み時間に工藤さんと清水さんのケンカを仲裁――これまで繰り返してきた日々で学んできたことをこなし、そして昼休みは工藤さんたちと一緒にお弁当を囲んだ。

 私は工藤さんと清水さんの話に相づちをうちながら、機会を見計らって、

「――そういえば、今朝、近藤さんが玄関にいたよね」

 そう、2人に言った。

「見た見た。きっと綿引君に会いたかったんだよ。隠してるけど、晴海が綿引君のことを好きなのってバレバレだもん」

 工藤さんと清水さんが笑いあった。

「……告白したりするのかな」

「ホント!? 告白するの!?」

「あ、ううん。そうじゃなくって。してもおかしくない雰囲気だったから」

「あるかもっ」

「あの2人、お似合いだもんねー。うらやましーっ!」

 2人はわいわいと盛り上がる。

 ごめんね、近藤さん……。

 私は教室に戻る途中で工藤さんたちと別れると、武田君と合流する。

「どうだった?」

「多分、大丈夫だと思う……」

「嫌な役回りだと思うけど、今回だけだから」

「平気だよ」

 近藤さんが綿引君に告白するという噂を、手紙を持ち出した人物は許せないだろうから、何かしら動きを見せるはず。

「あとは近藤さんと綿引を見守るだけだな」

「うん」

 今度こそうまくいってほしい。

 私は祈るような気持ちでその時を待つ。

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