第4章 まだまだループは終わらない

 眠い目をこすり、私は目覚めた。

 大きく伸びをしてベッドから抜け出すと、リビングへ。

「お母さん、おはよう」

「あら、おはよう。早いわね」

 そこにはこれまでと同じように、立ったままお弁当のおかずの残りをぱくつく母親の姿があった。

 妙な既視感があったけど、背筋のぞわぞわするような感覚から目を背けるように、テーブルにつく。

「……お母さん、昨日の商談、どうだった?」

「商談? その話したっけ? でも商談は今日よ」

「……っ」

 目の前が真っ暗になってしまいそうだった。

 身体が小刻みに震える。

 ごくりとツバを飲み込むや、部屋に戻るとスマホで日付を確認する。

 どうして!? どうして、まだ今日のままなの!?

 全身の鳥肌が立ってしまう。

 私は震える手で、武田君にメッセージを送る。

 ――武田君、起きてる? 今日がまだ終わってないの!

 すぐに返信がきた。

 ――分かってる。俺も確認した。

 ――どうして? 晴海と綿引君は無事に付き合えたのに……。

 ――つまり、近藤さんと綿引は関係なかったんだ。

 そんな……。

 私は全身から力が抜けてしまい、ベッドに座り込んでしまう。

 ――とりあえず会おう。

 通学路の途中で落ち合うことを決めた。

「……栞、大丈夫?」

 お母さんが心配して、部屋に顔を出す。

「う、うん……。平気」

「顔色が悪いわ。体調が悪いんじゃないの? どうする? 休む?」

「休んでいられないよっ」

 私がいきなり声を出したから、お母さんはびっくりしていた。

「……あ、ごめん」

「ううん。平気ならいいの」

「お母さんはお仕事に行って。商談に遅刻しちゃう」

「ええ……。いってきます」

「いってらっしゃい」

 私はお母さんを見送ってから、武田君と合流するために家を出た。


 武田君は自転車に跨がった格好で、昨日別れた場所にいた。

「武田君!」

 武田君は私を見ると、小さく手をあげた。

 その表情は優れない。

 いつも自信のある武田君らしく表情が優れない。

「ごめん!」

 いきなり頭を下げられてびっくりしてしまう。

「ど、どうしたの?」

「あんなに自信満々にこれで終わりって言っておきながら……こんな結果に……」

「や、やめてよ。顔を上げて。武田君が悪いんじゃない」

「そうだけど、正直、お手上げなんだ。どうしたらいいのか、思いつかない」

 武田君の不安げな表情を見ていると、不思議と冷静な気持ちになれた。

「もう一度、2人で考えてみよう。時間ならたっぷりある、でしょ?」

「変わったのは髪型だけじゃないんだな。栞の言う通りだ。もう1度、考えなおしてみよう」

 武田君が微笑んだ。

「そもそもなんだけど、私のクラスに原因をもった子がいるのは確定してるんだよね?」

「間違いない。願望世界が造られるくらい影響を受けるには、教室みたいに密接した空間じゃなきゃ駄目だから。どこまで効果的かは分からないけど、とにかく調べられることは全部調べよう」

「調べられること全部って、どうやって?」

「クラスメート全員の行動を一人一人把握するんだ。学校で何をしてるか。学校から家に帰るまでに何をしてるか」

「それって……」

「ストーカーみたいだろ。分かってる。こんなことしか提案できないのが情けない……。でも仮に怪しまれても、寝て起きたら何もかもがリセットされる。それをうまくつかわない手はないと思うんだ」

 武田君の真剣な表情に、私は頷きを返す。

「……やるだけやってみよ。みんなの明日のためにも」

 そう、みんなのため――。

 私だけのことじゃない。

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