(4)

 4時限目の授業が終わると、待ちに待ったお昼の時間に、男子たちが騒ぎ出す。

 お弁当を出して、私のほうから工藤さんたちに声をかけたほうがいいんだろうか、と考えていると、

「沢海さん、一緒にお弁当食べよう」

 工藤さんと清水さんが来てくれた。

「うん」

「普段、どこでご飯食べてるの? いつも教室にいないけど」

「中庭。今日みたいに天気のいい日は気持ちがいいから」

「いいねっ。じゃ、中庭で食べよっ」

 というわけで中庭へ。

 私、工藤さん、清水さんという順番で1つのベンチに腰かけると、早速、お弁当をつつく。

 しばらくは工藤さんと清水さんの話に相槌を打っていると、

「――それで……沢海さん、聞いてくれた?」

 清水さんが興味津々に目を輝かせる。

「うん。好きな食べ物は焼きそばで、趣味は読書なんだって」

「へえ、案外、フツーなんだね」

 清水さんが食事をしながらぼやく。

「ま、そんなもんだよね」

 工藤さんもちょっとガッカリしたみたい。

「他にも、聞いたよ?」

「え、何?」

「好きな人、とか」

「ええ、そんなことまで教えてくれたの!? 沢海さんって聞くのうまくない!? 誰誰!?」

「うちの学校の人だったりする?」

 2人は身体を乗り出してきたから、びくっとしてしまう。

「違う、みたい。昔……小学校の時に会った子、なんだって」

「へえ、クールっぽく見えて一途なんだぁ」

「うんうん、素敵ぃっ」

「2人とも、好きな人がいるって聞いても、残念そうじゃないんだね」

「まーねー。転校生と付き合いたいっていうより、知らない相手のことを知りたいって好奇心が強かったし」

「沢海さんこそ、残念だったとか?」

「! そ、そんなことは……」

 頬が熱い。

「あー。沢海さんもちょっと期待してたんだぁ。ま、そーだよねー。隣に格好いい男子がいるんだもんねーっ」

「ね、沢海さん。名前で呼んでもいい?」

「え……」

「駄目?」

「あ、い、いいよ。うん、大丈夫……っ」

 はじめてのことに、ドキドキしてしまう。

「じゃあ、私のことは美和って呼んで」

「私もあずさで、ヨロシクー」

「工藤さ……美和さん、あずささん」

「呼び捨てでいいのに。ま、栞らしいけどねっ」

 それからは美和さんとあずささんの話を聞いていると、

「――それにしても今朝の晴海、見た?」

 そう美和さんが言ったのだ。

「見た見た。健気ってカンジだよねー」

「? 近藤さんがどうかしたの?」

「栞、知らないの? 晴海、綿引君のことが好きなんだよ」

「そうなの……っ!」

「本人は隠してるつもりだろうけど。今朝、晴海を玄関で見なかった?」

「見た。なんだか落ち着かない様子だったけど……」

「あれも綿引君を待ってたんじゃないかって話」

「……そうなんだ」

「晴海は自分の気持ちがバレてないつもりだろうけどさ、知らないのは綿引君と晴海、本人たちくらいだし」

「へえ」

 工藤さんと清水さんと過ごす昼食の時間は、いつもよりもずっと早く過ぎた。

「また、一緒に食べようよ、栞」

「うん」

 誰かとお昼を食べるって、楽しいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る