第3章 世界は変わる?

 目覚めてまっさきに考えることはまた同じ5月12日を迎えた、ということ。

 でも今日はやらなきゃいけないことがある。

 クラスの人たちと話して、悩みがあるかを見つけなければいけない。

 私は昨日の武田君との練習を思い返しながら、すぅはぁすぅはぁ、と深呼吸をする。

 制服に着替え、クシを手に鏡を見る。

 いつも通り前髪を下ろしかけて、ちょっと迷ってから前髪をあげることにした。

 普段と違う、見馴れない自分。

 がんばらなきゃ。

「――おはよう」

 リビングに顔を出して、お母さんに声をかける。

「おはよう。……あら、髪型かえたのね」

「うん……。どう、かな」

 私は落ち着かない気持ちで、毛先を指でいじる。

「いいわ。いつもの髪型より、そっちの方が栞には似合ってるわ」

「ありがと。ね、お母さん、今日大切な商談があるんでしょ。がんばって」

「あら、その話した? 頑張るわ」

「今日は、天気もいいし、きっとうまくいくよ」

「ふふ、そうね」

 私がご飯を食べていると、視線を感じた。

「お母さん、どうかした? 私の顔をじろじろ見て……。なにかついてる?」

「もしかして、好きな人ができた?」

「えっ」

 なぜか、一瞬武田君のことが頭をよぎった。

「へえ。栞も、隅に置けないんだから。誰? クラスの子? うちに連れてきなさいよ~」

「べ、別に好きな人とか関係ないから……っ」

「だって髪型をいきなり変えるなんて、何もないのにそんなことをしないでしょ?」

「別に深い意味とかないし。ちょ、ちょっとしたイメチェンのつもり……」

「ま、そういうことにしておこっか。告白する時には絶対、お母さんに教えてね。アドバイスしてあげるからっ」

「も、もう、お母さん!」

「ふふ」

「そろそろ出なくて大丈夫なの? 遅れて、商談に失敗しても知らないからねっ」

「それじゃ、いってきますっ!」

「いってらっしゃい」

 手を振って、お母さんを見送った。

 もうお母さんってば、悪ノリしすぎ。

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