(2)

 翌日。目覚めるなり、私はちょっとした寂しさを感じた。

 原因は分かっている。武田君だ。

 昨日でお別れなんだから、もっと色々と話をしておけば良かった……。

 眠い目をこすりながらベッドを抜け出すと制服に着替えて欠伸をしながらリビングへ。

「お母さん、おはよう」

 立ったままお弁当の余りのおかずを抓んでいる母親に、挨拶する。

「商談、どうだった?」

「え、商談?」

「うん。昨日の……」

「商談の話したっけ? 商談は今日なの。お母さん――」

 背中を冷たい汗が、たらりと滑り落ちる嫌な感覚。

「もしかして寝坊、した……?」

「そう。だから急いでて……って栞、大丈夫? 顔色が悪いけど……」

 私はスマホで日付をチェックする。

 5月12日――。

 うそ! どうして!? 工藤さんと清水さんは仲直りしたはずなのに。

「栞、体調でも悪いんじゃない?」

 はっとして、私はお母さんを見る。

 お母さんが右手を、私の額に添えた。

「熱はないみたいね」

「……大丈夫。ちょっと寝ぼけてるだけだから……」

「そう? あんまり無理をしたら駄目よ。もし辛かったら、学校を休んでもいいのよ?」

「平気。お母さんはお仕事、がんばって」

「ありがと。じゃ、いってきます」

「いってらっしゃい」


 スマホが震えたので確認すると、見馴れぬ電話番号が表示されていた。

 普段なら見知らぬ番号には絶対に出ないのに、今はどうしてか出た方がいいと思った。

「……も、もしもし?」

「栞かっ?」

「武田君! どうして電話……」

「前に連絡先を交換しただろ。忘れたか?」

「あ」

 すっかり忘れていた。

「それで、連絡したのは……」

 私はスマホを握る手に力をこめた。

「わ、分かってる。まだ12日が終わってないから、でしょ?」

「そのことで話したいんだけど、どこかで待ち合わせられないか?」

「じゃあ、昨日一緒に帰ったときに別れた場所で……どう?」

「分かった」

 待ち合わせ時間を決めて電話を切ると、すぐに私は家を出た。

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