014 パーティーの所持金を集めますか?Y/N

 「買い物の方針を決めましょう」

 武器防具の露店が連なるあたりの手前で立ち止まったサゴさんはこう言った。

 「皆で役割を決めてそれぞれが役割にあったものを買うとか?」

 チュウジの答えをサゴさんは首をふって否定する。

 「ゲームじゃないから役割とか決められないですよ。チュウジくんもいきなり大盾でシカタくんをかばえとか言われても嫌でしょう」

 「たしかに。盾役タンクとしてこいつをかばうくらいならば、我は潔く散ることを選ぶ」

 「おい、そこまでいうか、この中二病」

 「我は高潔さと正直さが売りの暗黒の騎士。当たり前のことよ」

 「高潔さと正直さが売りだったら良い人だろ、むしろ聖騎士だろ?意味がわかんねーって!ていうか、高潔ならば俺のために散れ!」

 「まぁまぁ、あなた方がじゃれあっていると話が進みませんから、先にいきますよ」

 サゴさんが俺たちの言い合いをさくっと流す。


 「まぁ、役割は経験積む中でぼんやり決めていくしかないんだろうな」

 「そうです。で、ここで言う方針は予算の話です。食事で銅貨数枚使っただけだから、各人は少なくとも銀貨9枚は持っているはずですよね。使い切らないように上限額を決めましょう」

 サゴさんは続ける。

 「食事買うときに少し話を聞いたのですが、宿の相場は最低ランクで素泊まり銅貨10枚、夕食も10枚、お酒を頼むともう10枚という感じだそうです。お酒を我慢して、食事は屋台や露店で食べるにしても1日だいたい銅貨20枚から30枚程度は必要になると考えなくてはいけない」

 ほうほう、さすが大人、よく考えてる。

 「1週間分くらいは残しておかないと、すぐに野宿になってしまう。それに武器や防具以外にも必要なものもでてくるかもしれない。だからできることなら今回の買い物の予算は銀貨7枚以内におさめましょう」

 「暗黒騎士にふさわしい装備を見つけてやろう」

 「はいはいチュウニくんおつ」


 でも、サゴさんのもっともな提案は、アクシデントにより、あっという間に方針転換することになった。


 露店の近くで知り合いが座りこんで、泣きべそをかいているのに遭遇してしまったからである。

 訓練所同期で別のパーティーに入ったはずの女の子、名前をミカという。

 訓練所に入ったばかりのとき、模擬戦二戦目で盾で相手をふっとばして瞬殺した子、俺が気を失う前だったので俺も見た。リスみたいな雰囲気の小柄な女の子だけど、スキルのおかげかものすごい力とスピードのある子。立てばリス、座ってもリス、戦う姿は(大盾にすっぽり隠れて突っ込んでくるので)ぬりかべ。

 別のパーティーだったはずだけど、周囲に仲間はいない。


 「どうしたんすか?」

 腰をかがめて恐る恐る俺が声をかけると、目に涙を浮かべながら、ミカさんは答えた。

 「お財布すられちゃった……装備買うときにお金なくて、他の子も足りないからって……なんにもできないからごめんねって置いていかれた」

 俺の胸にすがりつくと、びーびーと泣き出した。

 女の子に抱きつかれるのは当然生まれて初めて。相手は恋人でもないし、告白とかされているわけでもないのに、自分の心臓がバクバク言っているのがわかって情けなくなった。


 「どうしましょうか?」

 サゴさんとチュウジのほうを見ながら、言う。

 「見捨てておけないですよね」

 とサゴさん。

 「女よ、暗黒騎士たる我に仕える闇の乙女となるのなら、我が力を貸そう」

 「チュウニ、どさくさに紛れて弱ってる女の子口説くのやめろよ」

 「うるせーシカタ。おまえみたいに前かがみに……」

 「わーわーわーわーわー」

 俺はあわててチュウジにタックルする。

 「おまえ、やめろ。ヘンなモノあてるな、この変態野郎」

 中二病キャラを崩してわめくチュウジの耳元でささやく。

 「童貞同盟同志マイフレンドチェリーボーイよ。いいか、俺は男子校育ちで俺たちのなかでは女子はすべてホログラムだということになっている。だから……だから不可抗力なんだっ!」

 俺たちを放っておいて、サゴさんはミカさんに声をかけた。

 「私たちまだ装備買っていないから、みんなのお金集めてそれで4人分の装備買いましょう」

 ミカさんは泣き止んでサゴさんを見つめた。

 「えっ?ほんとに……」

 「ええ、本当にです」

 「ありっ……ありがとうございます……うわぁぁぁん」

 再び泣き始めたミカさんをサゴさんはよしよしとなだめていた。


 こういうわけでお金はいったんサゴさんのもとに集められることになった。

 合計銀貨が27枚と銅貨が289枚。

 パーティーのお金を集めるとかまたRPG的な展開になってきたな。

 「泣いたらお腹減りませんか。少ないですけど、まずはこれでなんか食べてきてください。私たちはもう食べてきたんで、ここで先に露店冷やかしていますから」

 サゴさんは銅貨を5枚ミカさんに渡すと食べ物を売ってる区画の場所を教えてやった。


 ミカさんがその場を離れると、チュウジがニヤニヤして俺に話しかけてきた。

 「それにしてもシカタくん、ああいう子が好みですかぁー。フラグ立てる前に別のものおっ立てないでなー」

 「うるせーこのエロゲ脳の中二病。お前だって誰が見てもドン引きするような口説き方してただろ」

 「オ、オレ、我は場を和ませようとしてただけだっ」

 「和んで温かくなるどころか、凍ってスケートリンクみたいにつるっつるに滑ってたわっ。寒いわっ!」

 「まぁまぁ、若いというのは素晴らしいってことで」

 バカ二人の口論を大人は軽く流して話をはじめた。


 「それはさておき、1人あたり銀貨2枚と銅貨を取っておく予定でした。買い物の予算は1人あたり銀貨7枚、合計すると銀貨21枚だったのですが、1人増えたので21から予備費としてあと銀貨2枚引いておきます。銀貨19枚、一人当たり銀貨5枚弱で装備を見繕ってください。買うものを決めたら、まとめて買いましょう。まとめて買うことで値引きしてくれるかもしれませんし」


 しばらく露店を冷やかしながら装備を考えているとミカさんが戻ってきた。

 サゴさんは予算の話をミカさんにもした。

 ミカさんはまた泣きながらサゴさんにお礼を言った。


 こうして貧乏お買い物作戦が始まるのだった。

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