28 しゅわしゅわ
襲撃から十日近く経った。
あれから、リカルドの周りは静かだ。
おれの怪我も順調に回復している。
ということで、今日で同居は解消となった。
寂しい気もするけど、一人暮らしの気楽さも恋しい。
多分リカルドもそうだろう。おれよりも独りに慣れている人だから。
きっと、適度に離れてるのがおれとリカルドの一番いい距離なんだろうな。
怪我もしたけど無事に切り抜けられたってことで、スパークリングワインで乾杯した。
あぁ久しぶりの酒。しゅわしゅわが喉に気持ちいい。
「飲めるほどに回復したのはいいことです」
「退院してから本当にこき使ってくださったので体ががんばって回復しないとと思ったのでしょう」
ちょっとしたイヤミで返すとリカルドは薄笑いを浮かべた。
それはどういう笑みだよ。
相変わらず感情が読めない。
「ところでリカルド、八月の半ばの日曜日に時間をくれないか? ちょっと付き合ってほしいんだ」
同居の間じゃないとこういう誘いってなかなかできない感じだから、今の内にと切り出してみる。
「付き合う? どこへ?」
「リトルトーキョーの祭り」
リカルドはきょとんとした後、首を傾げた。
「なぜ私なのだ。恋人と行けばいいだろう」
「そのつもりだったんだけど、カノジョの都合が悪くなっちまって」
「ならば他の友人を誘ったらどうだ」
「祭りに一緒に行くようなダチって
「意外だな。……ならば一人で行け」
「そんなに嫌かっ? 二人分の予約を取ってる店があるんだよ」
だから頼むよ、と頭を下げる。
リカルドは思案顔だ。
「まさか、私が祭りなどに行ったことがないと言ったからか?」
それもある。ちょっとした息抜きになればって思う。
けど、メインの目的はそれじゃない。
「おれが楽しみたいんだよ」
答えると、リカルドはやれやれといわんばかりに肩をすくめた。
「私と共に行って楽しめるか判らないぞ」
「めっちゃつまんなかったら二度と誘わないだけだ」
「わかった。それほど言うのならば」
リカルドを口説きながらも、半分くらいは駄目かもなーって思ってたんだけど。よかった、うなずいてくれて。
なんにしても、これで計画が進められるぞ。
祭りが楽しみだな。
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