21 短夜

 目が覚めた。


 腹いてぇ。腹減った。


「具合はどうだ」


 リカルドの声。


 んー、と。


「病院だ。撃たれて気を失ったのだ」


 あー、そうだったな。


「今、何時?」

「夜の八時だ」


 え、ってことは襲撃の次の日ぐらいか? それとももっと後?


「リカルドは怪我はない、な」


 だんだん頭がはっきりしてきた。


「あなたのおかげです。ありがとうございます」


 リカルドが社長モードになった。


「襲撃者はどうなったのですか?」

「一人は捕虜にして“ジャック”に引き渡しました」


 “ジャック”ってのが、抗争なんかの荒事を引き受ける部署のトップだ。リカルドより少し年下ぐらいで極めし者の、いかついおっちゃんだ。


 ちなみに“ジャック”は本名じゃないらしい。なんでも、いつの間にか組織にいて、いつの間にか今の地位にいたそうだ。ボスが腕を買って直々に引き入れたんじゃないかって話だ。


「おそらく依頼人は別でしょうから、“ジャック”に聞き出していただいて、対応が早く済めば今回の騒動は決着ということになりますね」


 そこはあのおっちゃんの仕事だからきっちり片付けてもらいたいところだな。


「私の怪我はどのような感じなのですか」

「銃弾は貫通していなかったので手術して取り出しました。あなたほどの体力の持ち主、さらに極めし者ですからね。数日で退院できるでしょう、とのことです」


 数日か。

 もっと休んでたいけど、入院費馬鹿にならないし手術までしたんじゃな。贅沢言える立場じゃない。


 リカルドは「それでは、大事にな」と言いおいて部屋を出ていった。

 なんだその中途半端な態度の砕け方。

 笑ったら、腹痛い。

 さっさと寝ちまおう。




 夜中、目が覚めた。

 腹が痛い。

 鎮痛剤打ってもらった方がいいのかな。


 ナースコールのボタンどこだ?

 いてて、……動きたくねぇ。


 このまままた寝られるならその方がいいんだけど。

 気を紛らわすために、楽しいことでも考えるか。


 今度のリトルトーキョーの祭りに、アレを実行するんだよな。祭りまでに普通に動けるようになっておかないと。

 うまく誘い出さないといけないし、うまく計画に乗っけないといけない。

 どんな反応するだろう。

 困惑する顔を想像して笑いが込み上げる。


 くっ。駄目だ、楽しいことは傷に障る。

 でもこんな時に暗いことは考えたくないよな。


 夏の夜って短いんだっけ?

 嘘だろ? さっきから全然明るくならないじゃないか。


 あーあ、数日で退院ならすぱっと傷も全快してくれないかな。


 そんなふうに考えてたら、いつの間にか、眠ってたみたいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る