20 入道雲

 夏のビーチに映えるのは、でっかい入道雲。


 そんなイメージを子供のころは持ってたし、今でも浜辺なんかにバイクを走らせるとそう思う。


 青い海と空、遠くに見えるそそり立つようなもくもくの入道雲。

 太陽に照らされて汗をかきながら、夏を実感する。


 けどさ、考えてみろよ。

 入道雲ってのはつまり積乱雲。

 積乱雲ってのはつまり乱れ積もった雲だぞ。

 その下は当然、大雨と轟雷だ。


 ニュースで銃撃事件とか観てると「わぁ、大変だね。被害者亡くならないといいね」「犯人どうなった? 銃持って逃げてなけりゃいいよ」ぐらいだろう。

 実際の銃撃に巻き込まれたら、入道雲の下の大雨どころじゃすまないよなー。


 なんてことをぼんやりと頭の隅で考える余裕は、弾雨の中でもあるのか、おれ。


 リカルド暗殺のウワサが入って一週間弱。

 連中、しびれを切らせたみたいだ。

 暗殺じゃなくて襲撃してきやがった。


 襲撃は深夜。襲うにはまぁまぁいい時間帯だな。ちなみに一番は明け方だって言われてる。あとは入浴時間を狙うのもわりといいな。文字通り丸腰だから。


 おれは眠ってたが、セキュリティのアラームでぱちっと目が覚めた。アラーム音を覚えておいてよかった。

 すぐにリカルドの部屋に行くと彼は起きていて――寝る支度はしていたが――二人で家の裏手に回ることにした。四方から囲まれるのは厄介だから。


 で、裏口から外に出たところで襲われた、って流れだ。

 こういう場合はリカルドも参戦する。暴力に縁のない社長を演じる必要がないからだ。

 だから襲撃者をしりぞけるのは、わりと楽だった。


「ったく安眠妨害だぞ」


 毒づいて、武装解除する。リカルドはまだ周りに残りがいないか、警戒していた。


 一人目の武器を取り上げて気絶させて、二人目に向かった時。

 すでに気絶してると思ってた三人目が地面に転がったまま銃を、リカルドに向けた。


 リカルドの視線は逸れていて、気づいていない。

 そう思ったら、もう体が動いてた。


 銃声。リカルドをかばったおれの腹に、着弾。

 衝撃と痛さは覚悟してた。

 けど予想以上だ。

 うめき声が漏れて、地面に倒れた。


「レッシュ!」


 リカルドの緊張した声が聞こえた。続いてリカルドが目の前の敵に攻撃を加えた気配も感じ取る。

 よかった、リカルドにけがはないな。


 しかし、いってぇな。熱いし。

 至近距離でもろに銃弾を受けちまったからな。


「レッシュ、大丈夫か」


 はは、冗談。大丈夫だったらとっくに立ち上がって軽口の一つでも叩いてるさ。


「リカルド、気、抜くな……、ま、まだ――」


 まだ敵の気配がある。


 続けようとした言葉はうまく声にならない。まずい所を撃たれたか。


「すぐに終わらせる。気をしっかり持て」


 確かに、意識失ったらまずそうだなぁ。

 でも痛いし熱いし、もう寝ていいかぁ?


 入道雲の下は大雨よりも一発の雷が怖いって本当だな……。

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