19 氷

 暑い。

 体を冷やさないと熱中症になるぞ。


 ってことで、これだ。


「なんですか、それは」

「“かき氷”を作るんだよ」

「kakigori?」

「まぁ見てろよ」


 リカルドが小首をかしげるのを横目に、かき氷器に氷を入れて、ハンドルをまわす。


「スノーコーンですか」

「ちょっと違う。あれほどガチガチじゃない」


 皿の上に乗っていく柔らかい氷を見て、リカルドもなるほどとうなずいている。


 途中で皿を取り出して、シロップをちょっとかけて、また氷を削っていく。こうするとよりうまいんだ、って信司に教えてもらったんだよ。


 山盛りになったかき氷に、シロップをたっぷりかけて、出来上がり。


「リカルドはイチゴ味平気か?」

「嫌いではない」

「なら、これどうぞ」


 かき氷が乗った皿をスライドさせる。

 おれと氷を交互に見てから、リカルドはスプーンを手に取って一口食べた。


「冷たいな」

「そりゃ氷だし」

「……悪くない」


 お、及第点。

 リカルドの反応に満足して、自分の分を作る。


「その器械もキーパーに買わせたのではないでしょうね?」

「あはは。これはおれの自前」

「持っていたのか」

「あぁ。前にリトルトーキョーで買った」


 リカルドは相槌をうちながら、かき氷を食べている。まんざらでもない顔だ。よかった。


「おまえは日本好きだな」

「日本好きってより、友人の影響だけどな」

「どんな人なのだ?」

「ちょっと変わってるけど、いいヤツだよ。最初に会ったのは、初めて日本に行った時だった」


 おれは信司と会った時のことを話した。


 リカルドに雇われてわりとすぐに仕事でヘマをして、リカルドの手引きで日本に「高跳び」したことがあった。信司とはその時に出会ったんだ。

 信司はそのころ家出をしていて、公園の隅っこにテントを張ってた。日本にもストリートチルドレンがいるのかって驚いたっけな。


 あ、今はもう家に戻ってるけど。


 探偵をやってる兄貴の手伝いをしてるんだけど、本職は“退魔師”だ。


「退魔師……」

「こっちのエクソシストとはちょっと違うけどな。お札とかで悪霊を封印するんだってさ」


 信司が変わってるのは、相手が強い霊の場合の対処法だ。

 日本でよく知られてる陰陽師なんかは呪術とお札を駆使して、って感じだけど、信司は霊力を込めて蹴るんだよ。武力で抑え込んでから、お札を貼る。


「それは豪胆な。しかしおまえはまるで見たかのように話すな」

「あぁ、見たよ。モノノケも、退治する信司も」


 肩をすくめるとリカルドは目を丸くしている。

 現実主義の彼には信じられない話だったかな。


 でもそんなこと言ったら一般人からしたら極めし者だって十分オカルトめいてると思うけど。


 そんな話をしながら出来上がったかき氷をぱくっとやったら、頭がきーんとした。


「うおぉぉっ!」


 (氷なのに)アイスクリーム頭痛に苦しむおれに、リカルドは魔王社長らしいニヤリ笑いをくれた。

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