15 なみなみ

 今夜の飯は、なんだろう。


 リカルドの家に寝泊りして何が嬉しいって、帰ったらご飯が用意されてるってところだ。

 リカルドに奥さんもカノジョもいないから、作ってるのはハウスキーパーだけどな。

 料理のうまい、優しいおばちゃんだ。


 わくわくしながら冷蔵庫を開けると、鍋が入ってた。

 お、シチューかな?

 手に持って、ん? と首をかしげる。


「どうしました?」


 いや、この重さは。

 テーブルに置いて、ふたを開ける。


 やっぱり。

 なみなみと入ってるよ、シチュー。

 二人だぞ、こんなに必要ないだろ。


「これはまた……」


 リカルドも驚いている。


「なんでまたこんなにたくさん作ったんだ?」

「おまえが寝泊りしているからだろう」

「おれこんなに食わねぇしっ」


 まぁとにかく食べようか。

 二人分を皿に移して、電子レンジで温める。

 当然、鍋の中は半分も減ってない。


「また冷蔵庫に戻しておけば、彼女が冷凍させるなりしてくれるでしょう」

「そうだな」


 言いながら、サラダも用意する。


「いいよなぁ、ご飯が用意されている生活」


 思わずつぶやいた。


「おまえにはカノジョがいるのだろう」

「毎日作ってもらうわけにもいかないよ。彼女も働いているし」

「それならば」


 リカルドは言葉を切った。一呼吸おいて続ける。


「……それこそ作り置きのできるものを作ってもらえばいいだろう」


 ややトーンダウンしたリカルドの声に、彼が本当に言いたかったのを察した。


 結婚すればいいのだ。

 ってところだろう。


 けれどリサはおれがマフィアだって知らないし、いうつもりもない。

 だます形で結婚するつもりもない。


 それに、おれには大きな目的がある。

 “カズ”を見つけるんだ。

 見つけて、復讐する。


 リサには悪いが、今は彼女との関係をどうこうしようという気はない。


「そうだなぁ。そうしてもらおうかな」


 リカルドが言いたかったことを飲み込んだように、おれも彼にあわせた。


「では、いただきましょう」


 リカルドにうなずいて、手を合わせる。

 ……うん、やっぱうまいわ。


「おれ、ずっとここに同居しようかなぁ」

「断ります」

「超即答かっ」


 ふふふと笑ってリカルドもうまそうに食べている。

 くっそ、ドヤ顔しやがって。


 ま、時々はお邪魔して、ご飯を頂くぐらいはいいだろう?

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