12 すいか

 リカルドが暗殺者に狙われてるって話で、おれがリカルドの家に住み込んで五日目だが、今のところそんな気配はない。

 組織間の抗争を仕切る部署からまだ警戒を解いていいって連絡がないから、しばらくは同居生活が続くんだろうが。


 仕事帰りにショッピングセンターによって、すいかを買って帰った。


「すいか、か」


 リカルドが珍しそうに見てる。


「まさか食べたことないとか言わないよな?」

「ふふ、まさか。家で食べるのは珍しいだけだ」


 さすがに世間離れしてるリカルドでも食べたことないなんてことはなかったか。レストランのデザートでも出てくるからなぁ。


 カットして冷蔵庫に入れた。


「なぜすいかを買ってきたのだ?」

「んー、なんとなく食べたくなって」


 食事のあと、適度に冷えたすいかをテーブルに並べる。


「夏だねぇ」


 ついついそんな言葉が漏れた。

 リカルドは穏やかな顔で相槌をうっている。


 ふと、信司と夏に会った時のことを思い出した。


「日本の友人とこに夏に行った時にさ。すいか割りをしたんだよ」


 信司や彼の友人らとすいか割りに興じた時の話をしたら、リカルドは意外にも興味深そうに聞いている。


 デザートタイムが終わって皿を片付けてると、リカルドがコーヒーメーカーをセットしながら、言った。


「談笑しながらの夕食は久しぶりだった」


 ぼそり、とそれだけ言うとリビングに引っ込んでいった。


 特にそれ以上何も言わないけど、ちょっとは楽しんでくれたなら、よかった。

 今まではなんとなくしゃべりかけちゃいけない気がして黙って食べてたけど、ちょっとぐらいなら、いいのかもな。

 うるさいって言われない程度に、話題を振ることにしよう。その方が楽しいし。


 いつかリカルドも日本に連れて行ってみたいなぁと思った。

 信司達、リカルドの常識の範疇からはみ出た連中だから引っ張りまわされておろおろするんだろう。

 遊んだことがない、遊び方を知らない魔王社長が翻弄されるさまを想像して思わずにやっと笑った。

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