04 滴る
訳あり魔王社長は、敵に狙われることもそれなりにある。
直接命を狙ってくるパターンも、それなりにある。
今日は会社の駐車場で待ち伏せしていた二人が銃を乱射してきた。
一見、普通の……、こういうのを普通って言っていいのか判んないけど、まぁ普通の銃乱射事件のように見せかけて、社長を狙っている襲撃だった。
そんなもの、もちろんおれが全部防いだけどな。
異能の素質を買われて拾われたんだからな。当然だ。
社長を無傷で守るってところはちょっとだけハードルが高いけど。
リカルドも異能者だ。だからおれの才能に気づいた。
けど外ではリカルドは「普通の社長さん」だ。だから襲撃にいち早く気づいても自分から行動は起こさない。おれに守られる形で車の中へ避難する。
その間、おれが体を張って攻撃を防ぐわけで。
いくら「極めし者」は頑強で、闘気を使えば銃弾すら跳ね返したり叩き落したりできるったって、人を一人守りながらってなると無傷じゃすまない。
リカルドを車に押し込めてから、襲撃者をぶっ倒す。よくもまぁマガジンの弾を全部吐き出させて攻撃してきたもんだ。返礼に、ちょっと闘気をのっけた拳で軽ーく腹を殴ってやる。それだけで相手は昏倒する。
やり過ぎたらこっちが過剰防衛だからな。その辺りの手加減ももう慣れたもんだ。
警察が来て男達を拘束して、事情聴取を受ける。
こっちは襲撃の被害者だってのに、なんか犯人に尋問してるみたいな態度にムカつくぞ。襲撃者を返り討ちにするより、ある意味こっちの方が厄介だ。
話が長引きそうだから、怪我してるのを理由に切り上げさせた。急いで手当てしないといけないような傷でもないけどな。
ふぅ、やれやれ、ってため息ついて社長の待つ車に乗った。
「ご苦労様です。……血が出ていますね」
いち早く腕の怪我に気づいたリカルドが、それでもあまり心配していなさそうに言う。
そりゃ、もうこういうのには慣れっこで、銃で撃たれて発熱するなんてことはとっくに卒業しちまってる。リカルドもそれを知ってるからな。
「あれだけ撃たれればいくら『極めし者』でも怪我の一つもしますよ」
腕から流れる血をハンカチでぬぐいながら、ちょっと茶化してみた。
「血が滴るほどの怪我をしてでも社長を守るおれ、偉い。……なんてね」
リカルドからの反応は、ない。
当然だ、ってか。まぁ護衛だし。
と思ってたら。
「病院へ向かってください」
リカルドが運転手に一言告げた。
「え、社長をご自宅に送り届けてから自分で行きますよ」
もしかしてさっきの茶化しを深刻な状況だと訴えてるって勘違いしちゃったかな? 堅物だし。
「いえ。銃創の処置は早い方がいいでしょう。それに――」
リカルドは真剣そのものの顔をおれに向けた。
「あなたの血で車内が汚れるのも困りますから」
言って、かすかに唇の端を持ち上げる。
一瞬言葉通りにとったけど、……これは彼なりの気遣いをごまかして微笑したのか?
やっぱり、表情読めない人だな。どうせ気遣ってくれるなら素直にそういってくれりゃ、いいのにさ。
これがツンデレってやつか……?
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