03 謎
ずっと、リカルドの下についていて不思議に思っていることがある。
彼はいつ、何を見て、何をして、本気で笑うんだろう、って。
まったく笑顔を見せないわけじゃない。商談の時の愛想笑いとか、苦笑とか、冷笑とか、何かを隠す時の笑みとか、そういうのばっかだけど。
感情をどこかに置いてきたような人って感じるのは、本気の笑顔を見たことが、ほぼないからかな。
あ、この笑いは心からだなって思ったことは数回しかない。それも、おれと話したりしている時じゃない。
休憩していて、ふっと笑みを漏らした、そんな時だ。
つまり、何かを思い出した時だけってこと。
リカルドの本気の笑顔は過去の思い出にしかないってことになるな。
マフィアの十戒に「笑っちゃいけない」なんてないぞ?
そりゃマフィアの仕事なんて面白くないことだらけだけど、生活の中でまったく楽しいことがないわけじゃないだろう。
長い付き合いで、怒ってたり不機嫌だったりっていうのは判るようになった。だから、心が全くないわけじゃないはず。
酒を多めに飲んだ時は結構饒舌になるし。人間らしい面もちゃんと残ってる。
リカルドが子供のころから経験してきたことは、少しだけ、聞いている。
確か十歳ぐらいの時から裏の仕事に無理やり関わらされて、友達もできずで、高校ぐらいでできたカノジョはその傲慢な親父さんに殺されて……。
なんか、すべて親父さんにコントロールされてたって感じで育ってきたみたいだな。
そのせいで笑えなくなってんだろうなって見当もつく。
……心から笑えたら、ちょっとは生きやすくなるんじゃないかな。
それに、仕事の間ずっと一緒にいるおれも、リカルドが穏やかな方が精神衛生上いいに決まってる。
ってことで、なんかリカルドが笑うツボみたいなのが見つかればなぁって思ってんだけど。
見つけられないんだ、これが。
プライベートまで一緒にいるわけじゃないから、そういう雑談とかする機会がほぼないのも大きいな。
だからって、「飲みに行きましょう」なんてこっちから誘えるわけもなく。
今のところ、謎は謎のままだ。
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