02 金魚
おれはもう十年以上社長の下で働いている。最初の頃は右も左も上も下も判らなかったからあれこれやらかしたけど、今はもう社長秘書って名乗るのにそんなに気おくれはしない。
護衛って言う方が自分にあっているとも思うけど。
そんなおれのことを社長の金魚のフンとかいうヤツがまだ社内にいたりする。
金魚ならかわいい感じもするけど、フンってつくと途端にこう、アレな感じになるよな。……どうでもいいけど。
おれは十六になる頃にリカルドに「拾われた」。
ふつーに育ってきたのに、親父が犯罪に巻き込まれて、ってか犯罪に手を染めさせられて逮捕された。そっから家族バラバラ。おれはストリート暮らしになった。
そのおれを雇い入れてくれたのが、リカルドだった。
なんでそんな訳ありなガキを雇ったかっていうと、おれが異能の才能があるってリカルドが見抜いたから。
で、そんなおれを必要としている社長も、当然訳ありで。
なんでも、先代の社長、リカルドの父親がマフィアで、しかも異能者としてもめっちゃくちゃ強かったらしい。裏社会でいまだに話に出るくらいだ。
体の中の「気」を自在に使うことができるヤツらを「極めし者」って呼ぶんだけど、親父さんは極めし者の中でも最高峰に位置していたんだってさ。
リカルドは親父さんに強要される形で子供のころからマフィアの仕事を手伝わされていた、って聞いたことがある。
そこまで強くて強引な親父さんは、おれが雇われる数年前に亡くなっている。だからおれは直接会ったことはない。
ちなみに死因はなんか急な病気だったとかで、暗殺されたんじゃないかって噂されてる。
親父さんが亡くなって、リカルドは表の会社と裏家業も引き継ぐことになった。ちなみに彼も極めし者だ。
けれどあんまり自分が異能者だってことを表に出したくないから、極めし者の素質を持つおれを拾って自分の護衛にした。
元々リカルドは異能の素質はあるけど格闘とか直接戦う方は苦手っぽい。だからそっち方面はおれに丸投げってことだ。
それでも十分強いんだけどなぁ。
……ん、つまり嫌なことをおれに押し付けたってことか? さすが魔王社長。
魔王社長ってのはおれが勝手に心の中で呼んでるあだなだけどな。
それでもおれはこの人は嫌いじゃない。もちろん拾ってくれた恩があるからなんだけど。
なんていうか、放っておけない? みたいな?
こんなこと言ったら絶対しかめっ面で「あなたに構われても嬉しくありません」とかいうだろうけど。
仕事バリバリこなして、マフィアとして非情な決断もさくっとして、感情をどこかに置いてきたような人だけど。
「――シュ。……レッシュ・リューク」
「うぁっ、はいっ」
やばい、考え事してて呼ばれてるの気づくの遅れた。
「ボスに呼ばれました。行きますよ」
うなずいて、彼に従う。
組織のボスと直接話すのはリカルドだけだ。けど緊張する。
リカルドと違う重い威厳みたいなのがあるんだよな、ボス。
……ボスぐらいの地位の人なら、おれをリカルドの金魚のフンだって言っても、まぁうなずけるな。
ところで魔王社長のさらにボスってなんだろう? 魔神?
緊張をほぐすためにそんなことを考えながら、おれはリカルドの身辺に気を配りながら彼のそばに付き従うのだった。
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