家の近くの公園に着くと、私と累はゆっくり止まった。公園にはまだ遊んでいる子ども達もいて、賑やかだった。

 「ここまで来たら大丈夫ね」

 私が呟くと、累は息を整えて歩いて行った。

 「私はノートを取りに来てたんだけど、あんたは何してたの?」

 私は累の後ろを歩きながら聞いた。累は振り向くこと無く応えた。

 「俺も、ノートを取りに行ってた」

 「そう……私のは無かったんだけど、あんたのは?」

 「俺のノートはあった。けど鉛筆が無くなってた」

 「えっ」

 私は驚いた。そして友達の桃子が言っていた噂を思い出した。

 「文房具おばけ……」

 「は?」

 「知ってるでしょ、夜な夜な文房具を盗むおばけがいるって噂……」

 「居るわけねぇだろ、そんなおばけ……」

 「二宮金次郎を見たのに、それ言える?」

 私が聞くと、累は立ち止まった。そして私を振り向いて言った。

 「……その金次郎なら知ってるんじゃないか?」

 「そっ、そうね」

 また放課後の学校に行くのは嫌だったが、一人じゃないならまだましだと思った。

 「あんたも来なさいよ。二宮金次郎に話してたのはあんたなんだから」

 「……わかった」

 累は低く返事をすると、すたすたと帰ってしまった。



 

 次の日、私は新しい算数のノートで宿題をして、提出した。そして帰りの時間になると、無くなったはずのノートが、机の中に入っていた。


 放課後、私は累と共に学校に行った。そして中庭の二宮金次郎に声をかけた。

 「きっ、昨日は逃げてごめんなさい。聞きたいことがあるので、教えてください」

 私達がそう言うと、目の前に子どもの姿の二宮金次郎が立っていた。

 「聞きたいことって?」


 「それは、花ちゃんだべ」

 昨日の事を話すと、二宮金次郎は笑って答えた。

 「花ちゃん?」

 「もうすぐ来っぺ……あっ、来た」

 二宮金次郎が笑って手を振った。外を見ると、校舎から手を振りながら走ってくる女の子がいた。

 「人間居るやないかい、二宮はん」

 女の子は中庭に着くや否や、二宮金次郎にそう言った。

 「丁度花ちゃんの話してたんだっぺ」

 「ほんま? もうっ、照れるやないかい」

 女の子は二宮金次郎の腕を叩いた。そして女の子は片手に抱えた風呂敷を広げた。そこには色んな文房具があった。

 「あっ」

 累が声をあげた。恐らく、女の子の持っている鉛筆が無くしたそれだったのだろう。 

 「見てみ、これ……綺麗やなぁ、今どきの子どもはこんなにええもん使ぅてんやな」

 少し光る青色の鉛筆を眺めている女の子に、私はそっと聞いた。

 「えっと……貴方が、私達の文房具を盗んでいるのですか?」

 女の子は両目を大きくして私を見ると、泣きながら俯いて告白した。

 「そうです、私が犯人ですぅ……今どきの子ども達がどんなもの使ぅてるのか知りたかったんやぁ……」

 「一週間くらい見て堪能すると、そっと返してるんだべ、幸運と一緒にな。だから、許してやってけろ」

 二宮金次郎がそう言うと、女の子は潤んだ瞳で私を見つめた。

 「俺は別にいいよ」

 累はそう言うと、立ち上がった。私も立ち上げると、笑って言った。

 「そうね。ラッキーがあるなら、それを待つわ」

 「おおきにぃ」

 女の子は泣き出した。私はそっと女の子に聞いた。

 「私のノートは、あまり面白くなかったかしら?」

 「昨日、ノートは借りてないけど……」

 「え?」

 私は驚いた。すると、二宮金次郎は笑って言った。

 「戻ってきたノートに、犯人のヒントがあるもしんねぇべな」

 「ノートにヒントが……ありがとう、二宮金次郎さん、あと……」

 「二宮さんでいいべ。あとこっちは」

 「あの有名なトイレの花子さんや、花ちゃんでええよ」

 「そっ、そうですか」

 私はとても驚いた。本当におばけがいる事と、おばけとお話していることに。でも、悪いおばけじゃなさそうだから、私は笑って言った。

 「ありがとう、二宮さん、花ちゃん」

 二人に手を振って、私は累と共に学校を出た。

 

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