二
家の近くの公園に着くと、私と累はゆっくり止まった。公園にはまだ遊んでいる子ども達もいて、賑やかだった。
「ここまで来たら大丈夫ね」
私が呟くと、累は息を整えて歩いて行った。
「私はノートを取りに来てたんだけど、あんたは何してたの?」
私は累の後ろを歩きながら聞いた。累は振り向くこと無く応えた。
「俺も、ノートを取りに行ってた」
「そう……私のは無かったんだけど、あんたのは?」
「俺のノートはあった。けど鉛筆が無くなってた」
「えっ」
私は驚いた。そして友達の桃子が言っていた噂を思い出した。
「文房具おばけ……」
「は?」
「知ってるでしょ、夜な夜な文房具を盗むおばけがいるって噂……」
「居るわけねぇだろ、そんなおばけ……」
「二宮金次郎を見たのに、それ言える?」
私が聞くと、累は立ち止まった。そして私を振り向いて言った。
「……その金次郎なら知ってるんじゃないか?」
「そっ、そうね」
また放課後の学校に行くのは嫌だったが、一人じゃないならまだましだと思った。
「あんたも来なさいよ。二宮金次郎に話してたのはあんたなんだから」
「……わかった」
累は低く返事をすると、すたすたと帰ってしまった。
次の日、私は新しい算数のノートで宿題をして、提出した。そして帰りの時間になると、無くなったはずのノートが、机の中に入っていた。
放課後、私は累と共に学校に行った。そして中庭の二宮金次郎に声をかけた。
「きっ、昨日は逃げてごめんなさい。聞きたいことがあるので、教えてください」
私達がそう言うと、目の前に子どもの姿の二宮金次郎が立っていた。
「聞きたいことって?」
「それは、花ちゃんだべ」
昨日の事を話すと、二宮金次郎は笑って答えた。
「花ちゃん?」
「もうすぐ来っぺ……あっ、来た」
二宮金次郎が笑って手を振った。外を見ると、校舎から手を振りながら走ってくる女の子がいた。
「人間居るやないかい、二宮はん」
女の子は中庭に着くや否や、二宮金次郎にそう言った。
「丁度花ちゃんの話してたんだっぺ」
「ほんま? もうっ、照れるやないかい」
女の子は二宮金次郎の腕を叩いた。そして女の子は片手に抱えた風呂敷を広げた。そこには色んな文房具があった。
「あっ」
累が声をあげた。恐らく、女の子の持っている鉛筆が無くしたそれだったのだろう。
「見てみ、これ……綺麗やなぁ、今どきの子どもはこんなにええもん使ぅてんやな」
少し光る青色の鉛筆を眺めている女の子に、私はそっと聞いた。
「えっと……貴方が、私達の文房具を盗んでいるのですか?」
女の子は両目を大きくして私を見ると、泣きながら俯いて告白した。
「そうです、私が犯人ですぅ……今どきの子ども達がどんなもの使ぅてるのか知りたかったんやぁ……」
「一週間くらい見て堪能すると、そっと返してるんだべ、幸運と一緒にな。だから、許してやってけろ」
二宮金次郎がそう言うと、女の子は潤んだ瞳で私を見つめた。
「俺は別にいいよ」
累はそう言うと、立ち上がった。私も立ち上げると、笑って言った。
「そうね。ラッキーがあるなら、それを待つわ」
「おおきにぃ」
女の子は泣き出した。私はそっと女の子に聞いた。
「私のノートは、あまり面白くなかったかしら?」
「昨日、ノートは借りてないけど……」
「え?」
私は驚いた。すると、二宮金次郎は笑って言った。
「戻ってきたノートに、犯人のヒントがあるもしんねぇべな」
「ノートにヒントが……ありがとう、二宮金次郎さん、あと……」
「二宮さんでいいべ。あとこっちは」
「あの有名なトイレの花子さんや、花ちゃんでええよ」
「そっ、そうですか」
私はとても驚いた。本当におばけがいる事と、おばけとお話していることに。でも、悪いおばけじゃなさそうだから、私は笑って言った。
「ありがとう、二宮さん、花ちゃん」
二人に手を振って、私は累と共に学校を出た。
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