第20話 抜け道
これから俺が話す方法は、一言でいえば“邪道”である。
例えば、正勇者が正規の手続きを踏み、同じような存在である正魔王(この言い回しもだいぶおかしい)と対決した場合、両者の生死に関わらず、両方の概念が伝説となり語り継がれていくことになる。
そして時が流れ伝説が風化し、また新たな選ばれし者によって、勇者と魔王という概念が
この場合、前の勇者や魔王の職を全うして生きていた者は、そのときの記憶を保持したまま、自然な寿命が訪れるまでエメンシティでの生を謳歌することができる。
これを正規ルートとするならば。
確かに存在する非正規ルートは――
「勇者と魔王が共闘して、世界を救えばいいんです」
「「え……?」」
俺の話に、エイタくんとアーセルさんが同時に間の抜けた声を出す。
勇者と魔王が対決するのではなく、手を取り合って救った世界の場合、その土地における両者の概念は、同時に伝説と化し、時と共に風化していく。
そして勇者と魔王の職を全うした二人は、記憶を持ったまま、自然な寿命までその土地で暮らしていける、という寸法だ。
「でも、すでにあたしたちは、手を取り合っているわ」
「うん……」
言ってアーセルさんとエイタくんは、ぎゅっとその手を握り合った。
「そこが肝なんです、このアクロバットを成功させるには。当事者だけが仲良くなって終わりじゃ、ダメなんです。仕事の結果を、きっちり“上”に認めさせる必要がある」
「上って……神々に? でもそんなこと、どうやって?」
「あの人達は基本傍観者ですから、直接的に人々の営みには手を出しません。まぁ、特例はあるらしいですけど。だからこそ、その“人々”に認めさせてしまえば、こっちのもんてわけです」
「それは確かに、そうかもしれないけど……」
まだ不安が拭えない様子のアーセルさんとエイタくん。
ふふん、ここはこの俺にまかせなさい。常に『適度に適当にできるだけ手早く』仕事を終わらせることを考えているのは、伊達じゃないのですよ!
「大丈夫、俺に作戦があります。ちょっと、耳貸してください」
俺はそう言って、サクラを含めた三人に、こっそりと耳打ちする。
「先輩、それは素晴らしいですね! まさにベストオブベスト!」
「……確かに、可能性はあるわね」
「うん……僕も……ベストを尽くすよ」
作戦を聞いた三人は各々、興奮気味に語る。
「まぁ、俺のモットーは『何事も適度が一番』だけど……今回だけは、ちょっとだけ張り切っちゃいましょう」
作戦の全容を伝達し終えた俺はすぐさま、実行のための準備にとりかかる。サクラにもいくらか作業を分担してもらい、明日には作戦を開始できるよう、手はずを整えるのだ。
そのためにはまず、近場にいるリエコさんに急いで連絡を入れ、さらにリエコさんの魔王代行業務権限で、ゲンさん、そして例の大型新人に連絡を取ってもらう必要がある――時間的な余裕は、ほとんどない。
「ぬっふっふ、先輩もようやく、ベストを尽くすってことがどういうことなのか、わかってきたみたいですね! 成長を見守ってきた後輩として、なんとも嬉しい限りです!!」
リエコさんの元へ向かうため、馬の支度をしている最中、機嫌良さそうにそんなことをのたまうサクラ。なんで後輩なのに上目線なの? 意識高い系新人なの?
ちょっと調子に乗るとすぐこれだものな、この後輩は。
ともあれ。
今回だけは、こいつの言動に乗ってやることにしよう。
「まぁ言うなれば、『適度にベストを尽くしましょう』ってことさ」
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