第15話 足りない頭で考えた作戦
「お話は聞かせていただきました。派遣魔王としての気苦労、本当に痛み入ります……ですが!」
「うっさ! この子声でかっ⁉」
いきなりサクラに耳元で大声を出され、リエコさんは咄嗟に両耳を押さえて身を縮こまらせる。
そうそう、サクラのやつ、普通に話しているときが中々の美声なもんだから、こっちが思わず聴き入ってると、いきなりああやって大声出すんだよ。
迷惑な話だ。
「苦労、心労――それらがたとえ束になって襲ってこようとも、すべての憂いをその情熱で飲み込んで、魔王の不在を埋め業務を代行する派遣魔王のプライドと誇りにかけ、ベストを尽くすことをこのわたしと約束してください! ドゥマイベスッ!!」
「え、リョウジ、ねぇ、ちょっとなにこれ」
「いや、俺も未だにわかんないです」
なんかもう通過儀礼のようだな。
「約束してください! ドゥゥマイ、ベェスッ!!」
「うるさいってば! リョウジ、あんたこんなのと二日も一緒にいるの?」
「ええ……」
まだあと数日続きます。
「リエコ先輩、ベストを尽くすあなたはきっと美しい。その姿を見ればきっと、すべての異性はあなたを求めて踊り狂う」
「え、ほ、本当に?」
なにやらサクラは、今度は小声でリエコさんに話しかける。わざとらしく口元に手まであてて、会話の内容がわからないようにして。
「間違いありません。わたしには見えます。ベストを尽くすあなたが。そして、ベストな結婚相手をゲットするあなたの花嫁姿が!」
「わかったわサクラちゃん、私、ベストを尽くす!」
「それでこそです! さぁ、ご一緒に! ドゥマイベスッ!!」
「イェーイ! ドゥマイベスッ!」
「…………」
サクラに乗せられ、両手を掲げながら「ドゥマイベスッ!」と叫ぶリエコさんを見て、俺はなぜか疎外感を感じていた。
え……あれに乗せられないのって俺だけなの? もうみんなドゥマイベスト教の信者なの?
「それじゃ行ってくるわね! この仕事が終わったら、二人で女子会しましょ、サクラちゃん♪」
「ええ、女子会でもベストを尽くします!」
そんなアホな会話を繰り広げたあと、リエコさんは魔王が使っていたという、研究施設とやらへ旅立っていった。あの人も結局、この後輩に籠絡されてしまったか……。
「リョウジ先輩、わたし達もうかうかしてられません。さぁ、いざ行きましょう! ベストを尽くしに!」
「うん、その目的も目標もなくベストを尽くしたがるの、やめような」
なんだかもう、怒る気力もねぇよ。
「ひとまず魔王の件はリエコさんにまかせて大丈夫だとして、俺たちは勇者の件の解決に集中しよう」
「はい!」
こいつ、いつも返事だけはいいのな。
「勇者の行方だけど、正確な情報はまだない。だから現状では勇者代行業の遂行を優先しようと思う。この地域の勇者がすべきだったこと、覚えてるか?」
「常時ベストを尽くすことです!」
「違うわ! 言うと思ったよ!」
だから往年の名ウインガーかっての。
「まぁどこの勇者もそうだが、第一は魔王の討伐。それと、伝説の剣を手に入れる。この二つだ」
「了解です!」
「この伝説の剣ってのが『きょじんのつるぎ』って代物らしくて、これも正勇者が所持してるらしい。だが、どうやらいらなくなって一度売りに戻って来たみたいなんだ。でも、買い取れないってことで、まだ正勇者が持ってる」
「ふむふむ」
「で、だ。俺はちょっと考えた。足りない頭で」
「ええ、足りない頭で!」
そこを繰り返すな。
「そう、考えたんだ。もし正勇者が、武器とか防具はもう必要としてない、一人で静かに暮らしたいってんなら、そんな冒険者たちが欲しがりそうな代物、いつまでも手元に置いておくだろうか?」
「んー、引きこもることにベストを尽くすなら、恐らくはどこかに捨てるんではと考えます!」
「それはさすがにお粗末すぎるだろ。まぁ、でだ。俺は恐らく、ここから南東にある『孤独の塔』に――つまりは元あった場所に――『きょじんのつるぎ』を、正勇者が戻しに来るんじゃないかと踏んでる。そこをとっ捕まえるために、孤独の塔の近辺で待ち伏せ作戦を敢行しようと思うわけだ。どうだ?」
「ふむ、先輩の足りない頭で考えたにしては、理にかなった作戦だと思います!」
「うっせーよ!」
どうせ足りてねーよ、俺の頭は。
基本的に、適度に適切に、手短に終わらせることしか考えてねーからな。
「おっしゃ、それじゃまずは諸々、装備品を整えて、すぐ出発しよう」
「では、わたしは食料としてステーキを大量に買い込んで――」
「お前の並々ならぬステーキへのこだわりなんなの?」
当然、そんな贅沢はさせないため、一緒に買い物しましたよ?
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