第16話 孤独の塔


「見えてきたな」


 アンテリアを旅立って二日目、鬱蒼とした森を抜けた先で、切り立った断崖の上に立つ、古びた塔を発見する。断崖には波が打ち付けており、崖の先まで続く陸路以外は立ち入ることができない様子だ。


 あれが、くだんの『孤独の塔』でまず間違いないだろう。


「先輩、さっきの食事ですが、やはりわたしが最後のお肉を食べるべきだったのでは? あの程度の食事量では、わたしの食事におけるベストパフォーマンスにはほど遠い」


「まだ言ってんのかそれ」


 後ろから茂みをかき分けて出てきたサクラは、数時間前の食事のことで、まだぶつくさ言っている。俺が作ったんだから、最後に残った肉ぐらい俺が食べていいの!


「行くぞ」


 文句をスルーして進む。

 塔の下の断崖は、波によって反り立つように抉られていた。いかにも、正規のルート以外からの侵入を拒むような、そんな物々しい雰囲気が遠目からでも存分に伝わってきた。


 だが、これは考えようによっては好都合でもある。

 俺たちがやってきた森からのルート以外は、あの建物には入れないということになるからだ。要は、出入り口付近を見張っていれば、正勇者がやってきたとき、一目瞭然ということになる。


「よし、この辺でキャンプを張ろう」


「先輩、絶対次お肉が残ったらわたしが食べますからね」


「もういいっつの」


 根に持ちすぎだっつの。


「ところで先輩、わたし、こういう塔を見るとワクワクが止まらないんです。探索してきてもいいですか?」


「いや不用意すぎるだろ」


「いやいや、ここまで来る間にわたしもかなり精進しましたし。もうあの頃のような失敗は繰り返しませんよ?」


「どの口が言う」


 旅立ってすぐに案の定ギガスラをぶっ放して、一日目ほとんど全休だったくせに。

 その日の晩に、戦闘における適度な立ち居振る舞いというのを、奴の大好きな『ベスト』という言葉を使って滔々と説明し、ようやく連戦に耐えられるようになったくせしやがって。


 そのときの指示は簡単で『いいか、とくぎを使わずに勝つことにベストを尽くせ』というものだ。それだけ言ったら、驚くほど要領の良い立ち振る舞いをするようになったので、正直驚いたけれど。


「大丈夫です。危険だと判断したら、すぐに先輩を呼びますから」


「……まぁ、それなら」


 もう一つ変わったことと言えば、徐々に俺を信頼しはじめてくれている……ような感じがする、ようになった?


 まだまだサクラ自身が納得いかないこととなると、あの大声で『なぜベストを尽くさないのか!?』とのたまってくるが、まぁ、それはそれだ。


 大量の石を積み重ねて作られている、孤独の塔の入り口へと歩いて行くサクラ後輩の背中を見守りながら、俺はキャンプの支度をはじめた。


 と。


「先輩。中に正勇者がいました」


「なに言ってんのキミ」


 俺が晩ご飯の支度を終えた頃、戻って来たサクラはそう言った。


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