第10話 開幕ブッパ
「わかったぜ嬢ちゃん……おめぇさんも派遣勇者だってんなら、いつか必ず魔物に剣を向けなきゃならねぇときがくる。そうだろ?」
驚異の新人サクラ・トウワの文言に感銘を受けたゲンさんが、熱い台詞回しを見せつける。俺は急展開についていけず、立ち尽くすばかりだ。
「ええ、当然ですとも」
「そんなら……覚悟、オイラに見せてみな」
おいおい、それはさすがに危険じゃないか?
「ゲ、ゲンさんそれはいくらなんでも……」
「おめぇは黙ってろぃ!」
うわ、すげー怒鳴られた。
マジで凹む。
「本当に、いいんですか?」
「ああ、構いやしねぇ。オイラは嬢ちゃんの言葉でたった今目が覚めたんでぃ。そんかし、オイラも全力でバトらせてもらうぜ」
「当然です。お互いにベストを尽くす、それでこそドゥマイベスッ!」
「もうベストがゲシュタルト崩壊してるよ!」
ベストっていったいなんだっけ? 回答急募!!
「確かに、オイラたち派遣魔物は死にゃしねぇ。でもだからこそ、狩られることに慣れちまってたのかもしれねぇ……だがな、嬢ちゃん。オイラ、おめぇさんの話を聞いて、柄にもなくグッときちまった。久しぶりに、魔物としての闘争本能に火がついちまったってわけよ! だからよぉ、オイラとおめぇさん、互いの覚悟をかけて――熱く盛り上がろうじゃねぇか」
「ゲンさん……っ!」
どれだけの男なんだ、この人……あいや、スライムは!
こんな無鉄砲で人の話を聞かなくて常時ベストうっさくて、口からでまかせばっかり言ってる新人のために、ここまで……なんて、なんて人格者なんだ、ゲンさんは!
あ、いや、スライム格者? 語呂悪っ。
「……ゲンさんにここまで言われたら、俺ももう野暮なことは言わない。サクラ、お前も言い出しっぺとして、覚悟を決めろ」
「先輩……わかりました」
言うとサクラは、俺が差し出したひのきのぼうを受け取り、感触を確かめるようにグッと両手で握りしめた。その目に、真剣みが宿る。
「ゲンさん……その胸、お借りします」
「へへ、いい目だ……それでこそだぜ」
雰囲気の変わったサクラに呼応するように、ゲンさんも小さな体に鋭気を漲らせる。
「覚悟はいいな? いくぜ」
ただでさえ低いその体勢をさらに低くし、飛び出す力を溜めこんでいる。そうして期を見計らって、弾丸のように向かってくる気だ。
さぁ、いよいよ聞けるぞ。
ゲンさんの渋い声で、あの決め台詞が……!
「『やせいのスライムがあらわれた!』」
「ギガスラッシュ!!」
「ぐぎゅぼぇぇぇぇ⁉」
「ゲンさんんんんんんんんんんん?!」
飛び掛かってきたゲンさんに向かって、サクラは何を思ったのか、この世界で確認されている最強クラスのとくぎ『ギガスラッシュ』を開幕ブッパした。
ツッコミどころが多すぎてもう色々わからない!
「ゲンさんん! しっかりしてくださいぃぃ!!」
とにもかくにも、ゲンさんの無事が最優先だ。俺はすぐに駆け寄って、爆散した身体を拾い集める。
「へ、へへ……いい子じゃねぇか……守っておやり」
「ゲンさん……言ってる場合じゃねぇっす」
そんなちんけなボケかましてる場合じゃないでしょうが!
「ふぅ、さすがゲンさんです。わたし、はじめて本気でとくぎをぶっ放しました!」
「喜んでんじゃねー! つーかいきなりあんなとくぎ、手を抜いてでもぶっ放すな!」
「いやーやっぱり気持ちイイですね、ベストを尽くすっていうのは! これだから常時ベストを尽くすのはやめられプシュー」
「おいぃどうしたサクラ後輩ぃぃ⁉」
いよいよ性格だけじゃなく語尾までおかしくなったのかと思ったら、ギガスラ系新人のサクラはぶっ倒れた。なんだ、今度はいったいなんだ⁉
「だ、大丈夫かお前?」
「先輩……う、動けません……」
「なんでいきなり……あ」
そうか、いきなりあんなとくぎぶっ放したせいで、体力が瀕死状態にまで落ちたんだ。だってどう考えてもMP足りてなかったし!
「ははは……ベストを尽くした結果なら、後悔はありませんよ……!」
「なにやりきったみてーな顔してんだ」
ひたすら迷惑なだけだよこっちは!
俺はそのあと、散らばったゲンさんの身体を拾って応急処置をし、指一本動かないとのたまうサクラを背負って、アンテリアまでの道を歩いた。
帰路の道中、何度もモンスターに遭遇し、俺はたった一人戦い続けた。
背中に無鉄砲な新人と、腰のポーチにデロデロになった大先輩を詰めたまま。
はぁ……俺がなにをしたって言うんだ……。
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