4133話

 取りあえず蝙蝠の目玉については自分では食べたくないので、爪と一緒にギルドに売ることにする。

 そう決めると、セトが倒した蝙蝠を次から次に解体していく。

 そうすると、最終的には結構な量の爪と魔石……それと食材としての眼球が残った。

 魔石二個以外は全てミスティリングに収納し、レイはセトに向かって口を開く。


「さて、お楽しみの時間だ。……考えてみれば、魔石を使ってスキルの強化や習得をして、そのスキルを未知のモンスターで試して、その未知のモンスターの魔石を追加で手に入れるという、さっき俺が言ったことがそのままこうして出来ているんだよな」


 レイは魔石を手にそう言う。


「グルゥ……」


 そしてセトは、レイの言葉にそう言えば……と喉を鳴らす。

 レイは自分の言葉が現実になったことを喜びつつ、笑みを浮かべる。

 だが、すぐにその笑みを消して真面目な表情を浮かべた。


「じゃあ、セトからでいいよな? 魔石は一個って訳じゃないし、順番的についてはそこまで気にしなくてもいいだろうし」

「グルゥ!」


 構わないと喉を鳴らすセト。

 これが魔石が一個しかないのなら、レイはセトに譲って、それをセトが少し気にしながらも自分が魔石を使うといったことになっていただろうが、魔石が複数あるのだから、今回の一件については順番も特に気にする必要はなかった。


(とはいえ、どういうスキルを習得出来るか、だよな。……蝙蝠そのものはセトの王の威圧で殆ど戦闘らしい戦闘にはならなかったし)


 蝙蝠達は最初にレイの黄昏の槍の投擲と、セトのファイアブレスによって先制攻撃を食らった。

 それだけではなく、続けてセトの王の威圧を食らってしまい……それにより、蝙蝠はその多くが動けなくなって砂漠に墜落し、何とか抵抗に成功した蝙蝠もレイにスキルを試され、それが終わればファイアボールであっさりと焼き殺された。

 ……なお、王の威圧によって砂漠に落ちた蝙蝠達は、全てセトが殺して回っていた。

 そんな訳で、レイは蝙蝠の群れと戦闘らしい戦闘はしていない。

 魔獣術は基本的に魔石を持っていたモンスターの特徴が大きく影響する。

 そう考えると、蝙蝠がどのような特徴を持ったモンスターなのか分からない以上、レイとしては今回の魔獣術でセトがどのようなスキルを習得するか、あるいは強化されるか分からなかった。


(まぁ、分からないならやってみるしかないんだけどな。魔獣術を使って何か不利益になる訳でもないし)


 最悪の場合であっても、スキルのレベルアップがなく、新たなスキルの習得もないというものだろう。

 だがそれは、収穫がない……ゼロであっても、決してマイナスではない。

 そんな訳で、もし駄目なら仕方がない。……落ち込んだセトを慰める必要はあるだろうが、とにかく魔獣術を使うのは何も問題がないだろうと、そう思う。


「セト、準備はいいか? いくぞ」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは準備万端といった様子で喉を鳴らす。

 そんなセトの様子に頷くと、レイは魔石を放り投げる。

 弧を描いて飛んでいく魔石。

 セトはその魔石をクチバシで咥え、飲み込み……


【セトは『超音波 Lv.一』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 それはレイにとっては驚くことではない。

 蝙蝠の魔石として考えれば、超音波のスキルを習得するのはそうおかしなことでない……どころか、レイにとっても簡単に予想出来る内容だったのだから。


「グルゥ!」


 新しいスキルを習得したことに、嬉しそうに喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトに、笑みを浮かべて口を開く。


「よかったな。じゃあ、早速だけどそのスキルを試してみてくれ」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは分かったと喉を鳴らし、夜の砂漠に向かってクチバシを開く。


「グルルルゥ!」


 夜の砂漠に響く、セトの鳴き声。

 だが、響くのは鳴き声だけで、特に何かこれといった変化はない。

 微かに……本当に微かに、キィィィンという音が聞こえたような気もするが、それだけだ。


「えっと……セト?」

「グルゥ……」


 レイの言葉に、困った様子で喉を鳴らすセト。

 セトにしてみれば、自分のクチバシから超音波を放っているといった実感はある。

 だが、超音波を発しても、それを目で見ることは出来ない。

 唯一、甲高い音がレイの耳には聞こえたのだが、それだけでしかない。


「グルルルゥ、グルゥ」


 レイに対し、困ったように喉を鳴らすセト。

 そんなセトの様子を見て、レイは少し考え……やがて尋ねる。


「俺にはちょっと分からないけど、超音波のスキルはきちんと発動している。そういう認識でいいのか?」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、その通りとセトは喉を鳴らす。

 これで何もレイが感じていなければ、セトがそう主張しても素直に信じることは出来なかっただろう。

 だが、微かにではあるが何らかの音が聞こえたのは間違いない。

 そうなると、やはりセトの言うようにきちんとスキルは発動していたと思ってもいいのだろう。

 レイは見て分かるような変化こそなかったものの、最終的にはセトのスキルの件について納得する。


「分かった。まぁ、スキル名も超音波だったし、そう考えればセトがきちんとそのスキルを使えたと思ってもいいんだろうな。……じゃあ、次は俺の番だな」


 超音波については納得し……それでも、具体的にどのような効果のスキルなのかは分からなかったが、取りあえずセトが問題ないと言うのなら、そのように認識しておく。

 そしてセトに言ったように、次はレイの番となる。

 セトから少し離れ、蝙蝠の魔石を手に持ち……それを上空に投げると、落ちてきた魔石に向かってデスサイズを振るう。

 斬、と。

 魔石はデスサイズの刃によって真っ二つになり……


【デスサイズは『出血増加 Lv.二』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 その内容は、レイにとって少し意外だった。

 セトが習得した超音波なら、蝙蝠らしいスキルと言われれば納得出来る。

 だが、出血増加となると……


(もしかして、あの蝙蝠って実は吸血蝙蝠だったのか? けど、それならそれで爪以外に牙も素材として残ってもおかしくはないけど)


 レイは出血増加のレベルが上がったことを疑問に思いつつも、取りあえずまた他のモンスターを相手にスキルを試す必要があるなと思い直す。

 蝙蝠に出血増加を使った時は、正直なところ見て分かるような違いはなかった。

 あるいは一匹にはスキルを使い、もう一匹にはスキルを使わずにデスサイズで斬り、出血量を確認するといった手段もあったのだが……


「今更か」

「グルゥ?」


 レイの呟きに、近付いてきたセトがどうしたの? と喉を鳴らす。

 レイはそんなセトを撫でつつ、笑みを浮かべて口を開く。


「いや、出血増加を確認するなら、普通に斬った蝙蝠と比べればよかったと思ってな。もっとも、同じように斬ったつもりでも、少し斬る場所が力が違えば、出血量を比較するのも難しいとは思うけど」


 そう言いつつ、レイはデスサイズを見る。

 セトに対しては自分の相棒という認識を持っている。

 だがそれと同時に、デスサイズもまたセトとは違った意味で自分の相棒という風に認識しているのだ。

 セトもデスサイズも、魔獣術によって生み出された存在だと考えれば、その考えそのものはそうおかしなものではないのかもしれなかったが。


「さて、じゃあ蝙蝠の魔石も使ったし、次に行くか」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトはやる気満々といった様子で喉を鳴らす。

 レイとセトは再び夜の砂漠を歩き出す。

 セトの背に乗っているレイには、セトが砂を踏む感触も伝わってくる。

 その感触が何とも言えず楽しく、そちらに意識を集中しながらも周囲の様子に異常がないかと思う。

 だが、こうして歩いていても結局は特に何もそれらしい存在……具体的には蜃や金属糸のゴーレムといった、レイが探している存在を見つけることはなかった。

 最初こそレイもセトの砂を踏む感触を楽しんでいたものの、それも十分やそこらならともかく、三十分以上もそのままだと、やはり飽きてくる。

 何かもっと変化があれば、レイも飽きるということはないのだが、生憎と夜の砂漠である以上は、特に変化らしい変化はない。

 勿論、レイの知らない場所では何らかの変化があったり、してもおかしくはないが、こうして移動している途中でそれと分かる変化は……


「グルゥ」

「セト?」


 レイを背中に乗せて歩いていたセトが、不意に喉を鳴らす。

 何かあったのか?

 そう思うレイだったが、そこまで警戒の色はない。

 不意に鳴き声を上げたセトだったが、だからといってその鳴き声に警戒の色はなかった為だ。

 そうである以上、何らかの危険……具体的にはモンスターの類を見つけた訳ではないのは明らかだった。


「何かあったのか?」

「グルルルゥ」


 レイの問いにセトは少し困った様子で喉を鳴らす。

 そんなセトの様子に、レイは疑問を抱き……


「セトが感じた何かの方に行ってみよう」

「グルゥ?」


 本当に? と喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトに頷き、首の後ろを軽く叩く。

 するとセトはそんなレイの指示に仕方がないといった様子で喉を鳴らすと、自分の感じた方に向かって歩き出す。


(さて、何がある? セトの様子を見る限りだと、特に何かこれといったお宝があったり、未知のモンスターがいたりとか、そういうのでないのは間違いないだろうけど)


 もしお宝……例えば宝箱であったり未知のモンスターだったりした場合、セトは先程のような感じではなく、もっと嬉しそうに喉を鳴らしていただろう。

 しかしそのような鳴き声ではなかったことから、もし何かがあるとしてもレイにとってはそこまで嬉しい何かではない可能性が高かった。

 それでもレイがそちらに行くのは、何もない時間が続いて退屈だったからというのが大きい。

 時間的に、そろそろ地上に戻ることを考えてもいいような時間なので、何か最後に……と、そう思ってのセトに対する指示だった。

 そうしてセトはレイの指示に従って何かを感じた方に向かって歩き出したのだが……そのまま歩き出して、五分程が経過すると、レイにもセトが何を見つけたのかを理解出来た。……出来てしまった。


「あー…あれか。いつの間にか戻ってきてたんだな」


 レイがそう言うのは、視線の先にある光る砂を見てのもの。

 二十階に続く階段のすぐ側にある、蛍光色に光る砂。

 どうやらセトと共に十九階を探索している間に、色々な方向に進み……気が付けば、二十階に続く階段のある場所に戻ってきてしまっていたらしい。


「いや、でも……そんな偶然、本当にあるか? もしかして、神殿の階層にあったように、下や上に進む為の階段じゃなくて、宝箱が置いてあるような、そんな階段だったりしないか? ……しないな」


 レイは、もしかしたらという願いを込めて呟いていたものの、光る砂に、つまり二十階に続く階段に近付くと、すぐに自分の言葉を否定する。

 何故なら、光る砂のある場所に近付くにつれ、多数の足跡があることに気が付いた為だ。

 あるいはそれだけなら、もしかしたら……本当にもしかしたらの話だが、他の冒険者達が何らかの部屋となっているかもしれない場所に行っただけなのかもしれないという可能性も、万が一にではあったが、存在した。

 だが、足跡の中にどう見ても人のものではなく、セトの足跡にしか思えないようなものがあれば、レイの希望は儚く砕けてしまう。


「うん、やっぱりこれは俺達が上がってきた階段だな」

「グルゥ」


 レイの言葉に、セトは同意するように喉を鳴らす。

 セトは最初から、そうだろうと分かっていた。

 だからこそ、先程何かを見つけたといった様子で喉を鳴らした時、喜んだりとかはしていなかったのだ。


「じゃあ、いつまでもここにいる訳にもいかないし……時間も時間だ。地上に戻るか」


 レイにしてみれば、蜃と金属糸のゴーレムを見つけることが出来なかったのは残念だ。

 だが、砂蛇は見つけることが出来たし、アリジゴクや蝙蝠といった新たなモンスターとも遭遇出来たし、セトのスキルの実験で地中に埋まっていた宝箱も見つけることが出来た。

 そういう意味では、今回の探索は全く何の収穫もなかった訳ではない。


(オリーブ以外のアイネンの泉とも会うことが出来たし、その時に牛タンも分けて貰えたしな)


 そういう意味では、何だかんだと今日の探索はそれなりに収穫はあった。

 そのように思いながら、セトと共に階段を下りると……


「やっぱりな」


 二十階に下りたすぐ側には転移水晶が存在し、それを見たレイは予想通りではあったが、それでもやはり残念に思うのだった。 





【セト】

『水球 Lv.八』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.七』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.八』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.四』『アースアロー Lv.八』『パワーアタック Lv.四』『魔法反射 Lv.三』『アシッドブレス Lv.九』『翼刃 Lv.七』『地中潜行 Lv.六』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.四』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.四』『植物生成 Lv.二』『石化ブレスLv.二』『ダッシュLv.一』『蛇の尾Lv.一』『超音波Lv.一』new



【デスサイズ】

『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.五』『パワースラッシュ Lv.九』『風の手 Lv.七』『地形操作 Lv.七』『ペインバースト Lv.七』『ペネトレイト Lv.九』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.八』『地中転移斬 Lv.五』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.五』『黒連 Lv.五』『雷鳴斬 Lv.三』『氷鞭 Lv.四』『火炎斬 Lv.二』『隠密 Lv.四』『緑生斬Lv.一』『出血増加Lv.二』new『砂礫斬Lv.一』



超音波:クチバシから超音波を放つ。レベル一では大雑把な大きさ等が分かるエコーロケーションが出来る。



出血増加:デスサイズで切断された相手の流れる血の量が増える。レベル一では通常よりも一割増加、レベル二では通常よりも二割増加。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る