4130話
ドワイトナイフによって解体された、砂蛇の死体。
……サンダーブレスの威力が強すぎた為か、一匹目の時と比べると幾らか素材や肉の量が少なくなったものの、それでもそれなりの量はあったし、何より魔石が問題なかったのはレイにとって嬉しかった。
(セトがサンダーブレスで不意打ちをして倒してくれたのは嬉しいけど、サンダーブレスの威力によって魔石が破壊されていたりしたら、セトは悲しんだり落ち込んだりしただろうしな)
レイは手の中にある魔石を見ながら、しみじみと魔石が無事だったことを喜ぶ。
「グルゥ!」
褒めて褒めてと、セトが喉を鳴らしながらレイに近付いてくる。
レイはそんなセトを撫でてやる。
「ありがとな、セト」
そうして撫で続けること五分程。
セトとしてはもっと撫でていて欲しかったのだが、だからといっていつまでもそのままではいられないだろうと、レイから離れる。
「グルルルルゥ!」
レイに向かい、魔石を使ってと喉を鳴らすセト。
レイは気を遣ってくれたセトに頷き……デスサイズを取り出し、セトから離れたところで砂蛇の魔石を空中に放り投げる。
斬、と。
デスサイズが一閃され、魔石は空中で切断される。
【デスサイズは『砂礫斬 Lv.一』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
「砂礫斬? ……名称からして砂を使ったスキルなんだろうから、砂蛇の魔石で習得したのは不思議じゃないけど……どういうスキルだ?」
名称からして斬というのがついているので、デスサイズで斬るという行動に関する何らかのスキルだろうというのはレイにも予想は出来る。
ただ、砂礫という言葉に疑問を抱く。
「氷雪斬のように刃を氷……砂が覆うとか? いや、それは……うーん、分からないのなら実際に試してみればいいか」
「グルゥ」
スキル名にレイが悩んでいる間に、セトはレイの近くまでやってきていた。
そんなセトが、レイの言葉にそれがいいよと喉を鳴らしつつ、離れていく。
レイはそんなセトの様子を確認し、デスサイズを構える。
「砂礫斬」
スキルを発動するものの、デスサイズの刃に特に変わったところはない。
「えっと……あれ?」
戸惑ったような声を出すレイ。
レイにしてみれば、一体これはどういうことだと疑問に思えたのだろう。
「スキルが発動していない……訳じゃないな」
デスサイズを手にしたレイは、間違いなく先程習得したばかりのスキル……砂礫斬が発動したのが分かる。
デスサイズとレイが魔力的に繋がっているからなのか、それとももっと別の理由からなのか。
ともあれ、スキルが発動しているのに刃が砂で覆われていないことを疑問に思いつつ……
「取りあえず振ってみるか」
呟き、デスサイズを振るう。
「……ん? あれ? 今……」
デスサイズを振るったあと、どこからともなく砂が現れ、レイが振るった一撃が空気を削ったように思え……そこでようやくレイは砂礫斬がどのようなスキルなのかを理解する。
「なるほど、氷雪斬のようなタイプじゃなくて、ペネトレイトとか多連斬とか、そっち系のスキルなのか」
ペネトレイトはレベル五になった時、螺旋状……ドリルの追加効果を発生するようになった。
多連斬は、レイがデスサイズを振るった後、その追加効果で複数の斬撃が発生するようになった。
それと同じく、砂礫斬というのは切断した後に砂による追加効果を発揮するスキルなのだろうと、そうレイは理解したのだ。
「とはいえ……砂の追加効果というのはどうなんだ? いや、本気でそれが相手にダメージを与えることになるのか? けど、レベル一だし。そう考えれば、将来性に期待……なのか?」
レイは首を傾げるが、それでも新たにスキルとして習得出来たのだから、このままレベルアップしていけばいずれ使い物になるだろうと判断し……
「あ」
「グルゥ?」
不意に声を上げたレイに、セトはどうしたの? と喉を鳴らす。
「いや、次の戦闘の時にアリジゴクの魔石から習得した出血増加のスキルを使おうかと思っていたんだけど、忘れてた……というか、使う余裕がなかったと思ってな」
砂蛇を遠距離からのサンダーブレスで倒した以上、レイがデスサイズで新たに習得したスキルを使うような余裕はなかった。
そういう意味では仕方がないことではあったのだが、レイにとっては使えなかったことを残念に思ったのだ。
「グルゥ」
レイの言葉に、セトはごめんなさいと喉を鳴らす。
レイはそんなセトを撫でる。
「気にするなって。セトが遠距離から一気に攻撃してくれたから、戦いらしい戦いもないまま砂蛇を倒すことが出来たんだしな」
もし普通に砂蛇と戦っていても、レイは砂蛇を相手に負けることはなかっただろう。
だが、それでも一撃で……それも戦闘らしい戦闘がないまま、勝利出来たのはレイにとっては嬉しいことだった。
「グルルゥ?」
怒ってない? とセトが喉を鳴らす。
レイは当然だといった様子でそんなセトを撫でる。
「スキルの検証は、次に遭遇したモンスターにやればいいだけだしな。……出来れば未知のモンスターが出てきてくれるといいんだけど」
レイにしてみれば、金属糸のゴーレムが出てくれてもいいのだが、金属糸のゴーレムは出血増加も砂礫斬も効果がないと思われる。
それでも金属糸のゴーレムの魔石は出来ればもう一個欲しいので、そういう意味では出てきてくれると助かるのは間違いなかった。
「さて、砂蛇の解体も終わったし、魔石も使った。……後はもう少し十九階を探索して、それで何もなければ地上に戻るか。宝箱の件もあるしな」
「グルゥ!」
宝箱の件と口にしたレイに、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。
未知のモンスターや、まだ魔石を一個しか入手していないモンスターを倒すのもセトにとっては重要だが、宝箱についてもセトにとっては非常に楽しみにしてるのは間違いない。
「それに、そろそろ防具の方も出来ているだろうし」
以前、入手したモンスターの甲殻を渡して作って貰う防具。
それはレイが使う為ではなく、ガンダルシアにいる冒険者達を少しでも強化しようと考えて防具屋に持ち込んだ甲殻で鎧を作って貰うことにしたのだ。
もっとも、幾つかの鎧は何かあった時の為にレイが貰ってミスティリングに収納しておこうと思ってはいたが。
以前防具屋に行った時、既に出来ている防具は幾つかあったが、そろそろ全て出来ていてもおかしくない頃合いだ。
(それに……武器屋の方も気になるしな)
レイは防具屋からそう遠くない場所にある武器屋……正確には、その武器屋に売った戦斧が気になっていた。
神殿の階層にあったコロッセオで入手した巨大な戦斧。
レイが使おうと思えば使えるだろうが、デスサイズと黄昏の槍がある以上、それをわざわざ使うつもりはなく……その武器屋に売ったのだ。
武器屋も最初は巨大な戦斧でとてもではないが使える者はおらず、買い取ってもまず売れないだろうと思っていたが、最終的には看板代わりに店の表に飾ることになった。
巨大な戦斧を飾ってからすぐ、その異様……もしくは偉容に多くの者が足を止めていたのをレイは見ている。
あれから数日、あの武器屋がどうなっているのか、レイは興味があった。
巨大な戦斧で集められる客は一時的なものでしかなく、既に客の数は減っているのか。
それとも未だに巨大な戦斧は強い集客力の効果を発揮しているのか。
レイはそれを確認したかった。
「グルルゥ?」
セトは防具屋と武器屋に関しては、そこまで熱心でもない。
もっとも、レイが店に入っている間は自分と遊んでくれる者達がいるので、そういう意味ではつまらないという訳でもなかったが。
「地上に出てからも色々とやることはあるけど……だからって、この階層の探索も手を抜くのはどうかと思う。そんな訳で、もう少ししっかりと探索を続けるか」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトはやる気満々といった様子で喉を鳴らす。
セトにとっても、十九階の探索は望むところなのだろう。
こうして、レイとセトは再び十九階の探索を続けるのだった。
「見つからないな。……アイネンの泉以外のパーティでもいいから、出来れば接触したいところだけど……それも難しいんだろうな」
レイとセトが十九階の探索を再開してから、三十分程。
レイはセトの背の上で、周囲の様子を眺めていた。
セトは空を飛ぶのではなく、地上を歩いている。
空を飛んでいれば、地上に……より正確には砂の中に隠れているモンスターを見つけることが出来ないだろうから、現在はこうして地上を歩いていたのだ。
もっとも、こうして歩いていてもセトを襲撃してくるモンスターの姿はどこにもなかったが。
これはレイにとって……そしてセトにとって、つまらない時間でしかない。
せめて、もっと頻繁にモンスターが……それもまだ遭遇したことのないモンスターが襲ってきてくれると、レイとしては嬉しいのだが。
「グルルゥ」
レイの言葉にセトも同意するように喉を鳴らす。
セトにとっても、何もないまま夜の砂漠を歩き続けるというのは退屈なのだろう。
……夜の砂漠というのも、夜目が利くレイやセトなら、それなりに景色に目を奪われたりもする。
だが、そんな景色であってもどこまでも続いていれば、やはり飽きてしまうのだ。
だからこそ、レイはセトと共に話をしながら夜の砂漠を進み続ける。
「グルルゥ、グルゥ」
歩いていると、セトが何か食べたいと喉を鳴らす。
こうして何もない場所を歩き続けていると、やはり退屈から腹も減るのだろう。
「うーん……じゃあ、そうだな。串焼きでいいか?」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトは嬉しそうに喉を鳴らす。
レイはミスティリングから串焼きを取り出す。
「山鳥の串焼きだ。……焼き鳥でいいのか、こういう場合?」
「グルルルゥ?」
セトはレイが差し出してきた山鳥の串焼きから、クチバシで器用に肉を引き抜くと、一口で食べる。
「美味いか?」
「グルゥ!」
美味しい! と喉を鳴らすセト。
そんなセトを撫でつつ、レイも自分の分の串焼きを口に運ぶ。
(塩味も嫌いじゃないけど、タレの方が好きなんだよな。……まぁ、俺が知ってる焼き鳥のタレをこの世界で作るのは難しいだろうけど)
レイは焼き鳥のタレについてそこまで詳しい訳ではないが、それでも醤油や酒、みりんといったものが使われているのはTV番組で見た覚えがあるので知っていた。
だが、そのどれもがこの世界にはない。
……いや、あるいは探せばあるのかもしれないが、レイが知っている限りではなかった。
(酒なら……と思うけど、確か焼き鳥に使うのは日本酒だったと思うし。エールとかでタレを作ったらどうなるんだろうな。いや、ソースに酒を使うのは、普通に食堂とかもやってるのか?)
料理に酒を使うというのは、そこまで珍しいことではないので、恐らくソースに酒を使うのも普通にあるのだろうとレイは予想する。
であれば、多少レイが知ってるものと違っても、焼き鳥のタレ的なものがあってもおかしくないのでは? とも思うが……
「難しいか」
「グルゥ?」
レイの呟きを聞いたセトが、どうしたの? と喉を鳴らす。
「焼き鳥なら、こういう塩じゃなくて……かといって、この世界で使われているソースの類でもなく、やっぱりタレがいいと思ってな」
「グルルルゥ、グルゥ、グルルルルルゥ」
自分もそういう焼き鳥を食べてみたいと主張するセト。
レイはそんなセトを撫でつつ、新たにミスティリングから取り出した焼き鳥をセトに食べさせる。
「タレを用意するのは無理だから、今はこっちで我慢してくれ。いつか……本当にいつになるのかは分からないけど、そういうのを食べられるように頑張るから」
「グルゥ……」
レイの言葉から、今すぐには無理だとセトも理解したのだろう。
残念そうに喉を鳴らす。
「まぁ、ほら……この世界には転生や転移してくる者がそれなり……って程に多くはないけど、いることはいるんだ。なら、そういう連中が料理人としての腕を持っている……持っている……うーん、どうだろうな」
もし料理人がこのエルジィンに来たとしても、その料理人はあくまでも日本で……いや、もしくは地球にある他の国かもしれないが、とにかく食材を購入して料理を作るのが一般的だ。
中には拘りから自分で納得出来る野菜を作ったりとかはあるかもしれないが、料理人の中でそこまでやっている者は決して多くはないだろう。
だとすれば、もし料理人がこのエルジィンに転移や転生でやって来て、偶然レイと遭遇しても、食材がない以上は日本で、そして地球で作っていた料理は作れないだろう。
「……そういう時の為に、食材集めとかしておいた方がいいのかもしれないな。幸い、ミスティリングに収納しておけば、いつまでも新鮮なままだし」
セトの背の上で、レイはそう呟くのだった。
【デスサイズ】
『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.五』『パワースラッシュ Lv.九』『風の手 Lv.七』『地形操作 Lv.七』『ペインバースト Lv.七』『ペネトレイト Lv.九』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.八』『地中転移斬 Lv.五』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.五』『黒連 Lv.五』『雷鳴斬 Lv.三』『氷鞭 Lv.四』『火炎斬 Lv.二』『隠密 Lv.四』『緑生斬Lv.一』『出血増加Lv.一』『砂礫斬Lv.一』new
砂礫斬:デスサイズの刃で切断した後に、砂で傷口周辺を削る追加効果を発生させる。レベル一では紙やすりで傷口を擦るような威力。
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