4127話
今日は連休なので1日2話更新です。
直接こちらに来た方は、前話からどうぞ。
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「ふぅ……取りあえず大分片付いたのは間違いないけど、問題なのは本当にこれで全部なのか分からないってところか」
セトの背の上で、ビームブレスによって消滅した無数のアリジゴク……正確にはその肉片を見ながら、レイはそう呟く。
この場所に、一体どれだけのアリジゴクがいたのかは、レイにも分からない。
分からないが、それでも恐らく大半のアリジゴクは倒したのだろうと、そうレイには予想出来た。
セトのビームブレスによる一撃は、それだけ圧巻だったのだ。
「グルルゥ」
レイの言葉に、ちょっと分からないと喉を鳴らすセト。
セトにとっても、アリジゴクの大半は今の一撃で倒すことが出来たという思いはある。
だが同時に、全てのアリジゴクを完璧に……一匹も残さず倒したかと言われると、素直に頷くことは出来なかった。
「となると……やっぱり砂漠に一度下りてみないと何とも言えないか。セト、頼む」
「グルゥ!」
レイの言葉に、任せてとセトは地上に向かって降下していく。
やがて地上に着地するセト。
いざという時にセトの邪魔をしないよう、レイもセトの背の上から動かない。
それでも何かが起きた時、すぐに対処出来るようにミスティリングからデスサイズを取り出していたが。
デスサイズの重量は百kg程もあるのだが、レイとセトだけはデスサイズの重量を感じさせないという能力によってレイがデスサイズを持っていてもセトには何の負担にもならない。
敢えてセトの負担になるとすれば、デスサイズという長柄の武器を背中に乗るレイが持っているので、動きにくいというところだろう。
もっとも、レイがセトの背中でデスサイズを使うのはいつものことなので、セトにとっても慣れたものではあったが。
「……いないな」
セトの背で疑問を口にするレイ。
アリジゴクの大部分は倒せたのだろうが、それでも本当に全てを倒したとは思っていない。
「なら、衝撃を与えてみるか」
呟き、再びレイはミスティリングの中から壊れかけの槍を手にし、地面に突き刺す。
威力そのものはそこまで高くはない。
あくまでも砂の中にいるアリジゴクを刺激する為なのだから。
だが……槍が砂に突き刺さり、その衝撃で脆くなっていた穂先と槍を繋ぐ部分が折れて柄が砂の上に倒れても、砂の中で反応する何かは存在しない。
「あれ? 本当にいないのか?」
レイとしては、それこそすぐにでも砂の中からまたアリジゴクが飛び出してくるのではないかと、そう思っていたのだが、その予想が見事に外れてしまった形だった。
「グルルゥ?」
砂の上を歩いてみる? と、セトが喉を鳴らす。
砂漠に降り立ったセトだったが、何が起きてもいいよう、動いてはいなかった。
……いや、正確にはそれなりに身動きはしていたのだが、砂の上を歩いたりはしていなかったのだ。
「そう、だな。……俺の突き刺した槍でも反応がなかったのを考えると、多分ここで歩いても問題はないだろうし。確認する為にも、実際に歩いてみた方がいいか。じゃあ、頼む。けど、くれぐれも注意をしてくれ。何かあったら即座に上空に退避してくれよ」
「グルゥ!」
レイの言葉に、任せて! と喉を鳴らすセト。
ただ、セトの鳴き声には慎重さよりも自信の割合の方が多かった。
セトにしてみれば、アリジゴクとの戦いから敵が素早く動くし、アリジゴクらしく口が巨大なハサミ状になっているの攻撃力については警戒する必要はあるだろうが、防御力という点では決して警戒する必要はないと分かっていた。
つまり、どれだけ高い攻撃力を持っていても、その一撃を回避して自分の攻撃を命中させることが出来れば、容易に倒せると判断していたのだ。
レイもセトの様子から何を考えているのかは大体理解したが、実際にアリジゴクに襲われても先程のように集団が一気に襲い掛かってくるのでもない限り、対処は容易だろうと判断していたので、特に注意したりはしない。
……これでセトが相手を侮っているのなら注意をしただろうが、セトは自分なら相手を楽に倒せるとは思っていたが、決して油断している訳ではないとレイには見えた為だ。
なのでレイは何も言わず、セトの背の上でアリジゴクがどう動くのかをしっかりと確認する。
だが……セトが一歩、二歩、三歩、四歩と歩いても砂の中で何かが反応する様子もない。
あるいはアリジゴクは気配を消すのが上手いので、単純に自分の存在をレイやセトに察知させていないだけなのか。
そう疑問に思ったレイだったが、それでもアリジゴクが出て来ないのなら、それはそれで仕方がないかと思う。
ここまでレイが寛容になることが出来たのは、既に魔石が二個以上入手出来るのが確定している為だろう。
砂漠の上に転がっている大量のアリジゴクの死体。
それを解体すれば、間違いなく魔石は二個以上入手出来る筈だった。
……もしもレイとセトが倒したアリジゴクが一匹だけなら、それこそ何をどうしようとも絶対にもう一匹は倒すと、それこそ地形操作でも使って砂の中にいるアリジゴクを見つけていただろうが。
(それにしても、あそこまで防御力が弱いとは思っていなかったな。……まさか、二十階の小型のミノタウロスと関係あったりしないよな?)
一瞬そう疑問に思ったレイだったが、アリジゴクと小型のミノタウロスでは共通点がない。
……いや、防御力が極端に弱いという共通点はあるのだが、共通点らしい共通点はそれだけだ。
これで例えばアリジゴクの頭部がミノタウロスの……牛のものだったり、あるいは小型のミノタウロスの口がアリジゴクのようになっていれば、また話は別だったかもしれないが。
「グルゥ」
「ああ、出て来ないな」
暫く歩いたセトが、一向にアリジゴクが出て来ないことに、喉を鳴らす。
レイもそんなセトの鳴き声に同意する。
「ここまでしてもアリジゴクが出て来ないってことは……もう、生き残ったアリジゴクは危険を察知して、この場から退避したとか、そんな感じなのか?」
「グルルゥ」
レイの言葉にセトも同意するように喉を鳴らす。
実際に今こうしてここでアリジゴクが出てこない以上、もうここにいない……もしくはレイやセトに勝てないと判断し、レイやセトがいなくなるのを待っているのだろう。
「襲ってこないのなら、仕方がない。後はアリジゴクの死体を集めて解体……は、ちょっと難しいか?」
防御力が弱いということもあって、その死体の大半はかなり損壊が酷い状態になっていた。
ドワイトナイフには多少の傷なら直す効果もあるものの、それでもここまで死体が損壊していれば、直すのは不可能だと思える程に。
そもそも損傷が直るのは、毛皮だったり鱗だったり、甲殻だったり……といった具合に素材として使える部位の話だ。
レイが見た感じ、アリジゴクの死体からはそれらは取れないように思える。
つまり、ドワイトナイフを使ってもその辺りの素材は期待出来ないということを示していた。
「グルルゥ」
早く解体をしようと喉を鳴らすセト。
「ここで解体をするのか? 俺は少し離れた場所でやるつもりだったんだが……まぁ、セトがそうしたいのなら、それでも構わないけど」
レイにしてみれば、ここで解体をするのはどうかという思いがあった。
単純にアリジゴクの死体が大量にあるからというのが理由ではあったが。
ただ、すぐにその意見を翻す。
セトがここで解体をしたいのなら問題はないだろうという思いがあり、それにこの場所での解体にもメリットが……それも結構大きなメリットがあると気が付いた為だ。
具体的には、他の場所で解体をするのならアリジゴクの死体をミスティリングに収納して運ぶ必要があったが、この場で解体をするのなら死体を運ぶ必要もなく、ここで死体に直接ドワイトナイフを使えばいいだけなのだから。
「とはいえ……どの死体から試すかが微妙なところだな」
ビームブレスによって、半ば……どころか、九割程が炭と化しているような死体も多い。
セトがビームブレスを使ったまま顔を動かした成果がそこにはあった。
「グルゥ」
困ったような、そして戸惑った様子で言うレイに、セトがごめんなさいと喉を鳴らす。
「ああ、気にするな。最悪魔石が二個入手出来ればそれでいいんだし。……取りあえず、それなりに身体が残っている死体に……」
レイはセトを励ましながらミスティリングからドワイトナイフを取り出し、魔力を込めると身体の七割……いや、八割程が残っている死体に突き刺す。
いつものように眩い光が周囲を照らし……それが消えた時、残っていたのは魔石とトンボに似ている羽根、そして保管ケースに入った内臓だった。
「えっと、魔石と内臓は分かるが羽根は……どこから出て来た? いや、アリジゴクだとすればウスバカゲロウになるんだし、その素材があってもおかしくはないのか? 実は体内に羽根があって、それが素材として残った?」
そもそも相手はモンスターである以上、レイの……それも日本で手に入れた常識など通用する筈もない。
であれば、そういうものだと納得するしかないだろう。
「ハサミ……いや、顎か? とにかくあの特徴的な部位が素材として残らないのはちょっと意外だったけど」
獲物に噛みつき、その体液を吸う為に獲物の動きを固定する為の頑丈な顎。
アリジゴクの特徴である顎だけに、てっきりレイは素材として残るだろうと思っていたのだが、その予想が大きく外れた形だ。
もっとも、もしレイの予想通りに顎が素材として出ても、それがどのような物に使えるのかは、レイには分からなかっただろうが。
せいぜいが、武器といったところだろう。
「内臓は……まぁ、俺がどうこう考えても意味はないか。取りあえず素材に関してはこんな感じな訳で……後は残りもとっとと解体していくか」
そう言いつつ、レイは素材や魔石をミスティリングに収納し、他のアリジゴクも解体していく。
当然ながら死体が損傷している個体からは、最初に解体した時には出て来た素材が出てこないこともあったりした。
頭部だけしか残っていなかった死体にいたっては、魔石どころか何も出てこないまま消滅してしまった。
そうして死体を解体し続け……やがて、全ての死体の解体が終わる。
「魔石はそれなりに入手出来たから、よしとしておくか」
最低限魔石が二個入手出来ればよしとしておいたので、十分に満足出来る内容ではあった。
「じゃあ、解体も終わったし……魔石を使うか。まずはどっちから使う? ああ、勿論砂蛇はセトが使うことになるから、そのつもりでいてくれ」
「グルゥ。……グルルゥ!」
レイに尋ねられたセトは、少し考えてから砂蛇の魔石、と喉を鳴らす。
セトにとってはどちらの魔石から使ってもよかったのだが、それでも最初に砂蛇の魔石を選んだのは、砂蛇の魔石を使い終わった後でレイと一緒にアリジゴクの魔石を使いたいと、そう思ったのだろう。
セトがそこまで考えているのはレイにも分からなかったが、セトがそうしたいのならとレイは砂蛇の魔石を取り出す。
「よし、行くぞ」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトはいつでもいいよと喉を鳴らす。
そんなセトに向け、砂蛇の魔石を放り投げるレイ。
セトはクチバシで魔石を咥え、それを飲み込み……
【セトは『アースアロー Lv.八』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
その内容は、レイにとって特に驚くような内容ではなかった。
砂蛇は胴体に砂を纏い、一種の鎧のようにして使っていたのだ。
それを思えば、土系のスキルのレベルアップというのはレイにとって不思議ではない。
(もしかしたら地中潜行のレベルが上がるかもしれないと思っていたけど……これについては、そうおかしなことではないか)
地中潜行について考えていると、セトが近付いてくる。
「グルルゥ!」
嬉しそうに喉を鳴らすセト。
セトにしてみれば、自分のスキルのレベルが上がったのが嬉しかったのだろう。
「よくやったな、セト。アースアローのレベルが上がったのは、俺にとっても嬉しいよ」
「グルルルルゥ!」
レイの言葉に、セトもまた嬉しそうな様子で喉を鳴らしていた。
レイはそんなセトを撫でつつ、口を開く。
「じゃあ、早速だけどスキルを試してくれないか。レベル八になったってことは、アースアローの本数も増えたんだろうし」
そう言いつつも、これまでのアロー系のスキルから何となく予想は出来たが。
ただ、それでも実際に見てみないと分からない以上、実際に試して貰う必要があった。
「グルゥ!」
レイの言葉にセトは任せてと喉を鳴らし……
「グルルルルルゥ!」
アースアローのスキルを発動すると、百四十本の土の矢が生み出され、放たれるのだった。
【セト】
『水球 Lv.八』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.七』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.八』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.四』『アースアロー Lv.八』new『パワーアタック Lv.四』『魔法反射 Lv.三』『アシッドブレス Lv.九』『翼刃 Lv.七』『地中潜行 Lv.五』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.四』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.四』『植物生成 Lv.二』『石化ブレスLv.二』『ダッシュLv.一』『蛇の尾Lv.一』
アースアロー:土で出来た矢を飛ばす。レベル一では五本。レベル二では十本。レベル三では十五本、レベル四では二十本、レベル五では五十本、レベル六で八十本。レベル七で百十本。レベル八で百四十本。威力は一本で金属の鎧を貫く。
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