4106話

 セトのアースアローを見たレイは、予想通りの本数ではあったが、それを知った上でもやはり百十本もの土の矢が纏まって一斉に飛んでいくことに驚く。


「凄いな、セト」

「グルゥ!」


 レイの言葉に得意げに喉を鳴らすセト。

 そんなセトの様子に笑みを浮かべつつ、レイは次は自分の番だろうと砂蛇の魔石を手にする。

 セトに使う時は飲み込むので流水の短剣で洗ったが、レイの場合……デスサイズの場合は飲み込むといった必要はないので、特に洗ったりはしない。


「さて、セトがそれなりにいいスキルのレベルアップが出来たことを考えると……デスサイズはどうだろうな」


 呟き、魔石を放り投げるとデスサイズを一閃する。

 斬、と。

 一瞬にして切断された魔石。


【デスサイズは『ペネトレイト Lv.九』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 それを聞いたレイは、最初は不思議そうな表情を浮かべるものの、すぐに納得する。

 砂蛇は地中を……砂の中を移動していた。

 つまり、地中を移動出来る能力があり、ペネトレイトはレベル五になったことによって螺旋の追加効果が発揮されるようになった。

 螺旋……つまりドリル。

 地中を移動するというのを考えると、ドリルというのは不思議ではない。

 ……実際にはどうか分からないが、レイが日本の時に楽しんでいたアニメやゲーム、漫画といった諸々ではドリルを使って地中を移動する存在というのは珍しくはない。

 それどころか戦艦がドリルを使って地中を移動するといったものすらあった。

 だとすれば、地中を移動する砂蛇の魔石で螺旋の追加効果が発揮されるペネトレイトのレベルが上がってもおかしくはないのではないか、と。

 勿論これはあくまでもレイの予想であって、半ばこじつけ……無理矢理な理由だというのは自分でも理解している。

 だが、実際に砂蛇の魔石でペネトレイトのレベルが上がったのだから、そういう理由でもないと自分を納得させられなかったのも事実。


「グルゥ!」


 そんなレイの様子について理解しているのか、いないのか。

 セトはペネトレイトのレベルが上がったレイに、おめでとうと喉を鳴らす。


「ああ、ありがとうなセト」


 レイもペネトレイトのレベルが上がったのを残念に思っている訳でもないので、セトの鳴き声に笑みを浮かべてそう返す。


(レベルが上がった理由は完全に納得出来た訳ではないけど、ペネトレイトがレベル九になったのは嬉しいことだしな。レベル十まであと少し……出来ればこのダンジョンでレベル十になって欲しいところだけど……どうだろうな)


 そんな風に思いつつレイはセトを撫でる。

 そして数分が経過したところで……


「じゃあ、レベル九になったペネトレイトを試してみるか。どのくらいの効果を発揮するのか楽しみだけど……どうだろうな」

「グルルゥ」


 撫でられていたセトは、満足しつつ、頑張ってと喉を鳴らしながらレイから離れる。

 そんなセトを見送ると、レイは早速デスサイズを構える。

 ペネトレイトのスキルを使う以上、普通に……デスサイズの刃で相手を切断する時のように構えるのではなく、石突きを前に出して構える。

 槍……と呼ぶには少し歪かもしれないが。


「ペネトレイト」


 スキルを発動し、デスサイズの石突きで突きを放つ。

 石突きが空中を貫き……そして螺旋の追加効果が発揮される。

 その螺旋は明らかにレベル八の時の螺旋と比べると大きく、鋭い。

 見るからに、レベル八の時よりも威力が高くなっているのは間違いなかった。


「へぇ……さすがレベル九といったところか。使い方によってはかなり強力な一撃になりそうだな」


 デスサイズを手元に戻しつつ、呟くレイ。


「グルルゥ」


 そんなレイに、セトが近付いてくる。

 セトから見ても、レベル九になったペネトレイトは強力そうに見えた。


「ありがとな。……それより、ドワイトナイフを使って解体をしておくか。セトもちょっとは気になるだろう?」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、当然といった様子で喉を鳴らすセト。

 セトにとっても砂蛇を解体した時にどうなるのか、気になっていたのだろう。

 レイも気になっていたので――レイの場合は素材が出るのかどうかという意味でだが――好奇心に満ちたセトの視線に背を押されるような形でドワイトナイフを手に、デスサイズで切断された死体に近付いていく。


(さて、何が出るかだけど……どうだろうな)


 そんな風に思いつつ、レイはドワイトナイフに魔力を込め、死体に突き刺す。

 周辺に眩い光が溢れ……そして光が消えた時、そこには何も残ってはいなかった。


「あー……うん。やっぱりか」


 この結果は、レイにとってもそこまで驚くようなものではない。

 恐らくそうなるだろうなと、そのようには思っていたので。

 ただ、もしかしたら肉か何かは出るかもしれないと思ってはいたのだが、それも出なかった。

 虫の食用部分はあまり……いや、絶対に好まないレイだったが、蛇の肉くらいなら今となっては普通に食べられるようになっている。

 日本にいた時は、山の近くに家があったということで普通に蛇を見ることも多かったのだが、それでも蛇の肉を食べようとは思わなかった。

 そういう意味では、この世界に順応してるのだろう。

 ……もっとも、それ以前の話としてオークのようなモンスターの肉を普通に食べている時点で十分にこの世界に順応していると言えるのかもしれないが。


「グルゥ」


 ドワイトナイフの解体によって、肉も皮も何も出て来なかったことにセトが残念そうに喉を鳴らす。

 セトにとっても、恐らく素材が出て来ないだろうとは思っていたのだろうが……それでも、もしかしたら肉か何かが出てくるかもしれないと思っていたのだろう。

 そんなセトを見つつ、レイは口を開く。


「素材が出なかったのは仕方がないけど、いつまでもここにいる訳にもいかないし、他の場所にいかないか?」


 元々、ここはレイとセトが金属糸のゴーレムと戦闘をした場所だ。

 その戦闘音や衝撃に引かれ、砂蛇がやって来た可能性が高い。

 であれば、今回の砂蛇との戦いで再び敵がやって来る可能性もある。

 レイやセトの目的としては、この十九階の探索……そして十九階に棲息するモンスターを倒し、魔石を手に入れるのが目的だった。

 そういう意味では、ここで再び敵が来るのを待っているという方法もあるのだろう。

 だが……レイは何となくだが、ここで待っていても寄ってくる敵は砂蛇が多いような気がした。

 実際にどうなのかは、レイにも分からない。

 ただ、自分の予想はそう外れていないように思えるのは、間違いなかった。

 だからこそ、ここで待っているよりも自分達から他のモンスターがいないかどうかを確認し、見つけに行く方がいいだろうと思えたのも事実だった。


「グルゥ!」


 レイの意見にはセトも賛成だったらしく、分かったと喉を鳴らす。

 そうして死体は……殆どが爆発によって消滅し、残っているのは肉片だったり魔石の欠片だったりするくらいだったが、とにかくそれらはその辺に残し、レイは身を屈めたセトの背に乗る。

 レイを背中に乗せたセトは、そこから数歩の助走で翼を羽ばたかせ、空を駆け上がっていく。


「あ」

「グルゥ?」


 空を飛び始めたばかりの時、その背に跨がっているレイは不意にそんな声を上げる。

 レイの声を聞いたセトはどうしたの? と喉を鳴らしつつ、後ろを……自分の背に跨がっているレイの方を見るが……


「いや、地面を歩いて移動するつもりだったんだけど、それを忘れていたなと思って」

「グルゥ」


 セトもまた、金属糸のゴーレムや砂蛇の一件があってそのことについては忘れていたのだろう。

 そう言えば……といったように喉を鳴らす。


「グルルゥ?」


 じゃあ、地上に降りる? と喉を鳴らすセトだったが、レイは少し考えてから首を横に振る。


「いや、止めておこう。地上を移動するのも、モンスターを呼び込むという意味では悪くないかもしれないけど……ただ、砂漠はやっぱり歩きにくいしな。砂漠は砂漠でも、岩石砂漠のような場所だったら、まだ歩きやすいんだけど」


 一般的に砂漠と言われて思い浮かべるのは、それこそ現在レイ達のいるような砂の砂漠だろう。

 だが実際には、砂漠と一口に言ってもこのような砂の砂漠だけではなく、荒れ地のような場所であったりする場所もある。

 そのような場所も分類的には砂漠と呼ばれており、当然ながら地面は砂ではないので歩きやすい。

 ……ただ、そのような場所の方が歩きやすいとは思うものの、それはあくまでもレイの希望であって、この十九階は延々と砂の砂漠が広がっている。


「言うだけ意味はないか。……あの金属糸のゴーレム、空からやって来たってことは、空を飛べたのか? ……見た感じ、とてもではないが空を飛べるようには思えなかったが」


 金属糸のゴーレムについて疑問を抱くレイだったが、実際に空から降ってきたのだから、どうにかしてそのようにしたのは間違いなかった。

 ……問題なのは、そのどうにかしてというのが、レイには全く分からなかったことだが。


「上から降ってきたってことは……例えば何か、もしくは誰かが金属糸のゴーレムを投擲して俺達のいる場所を狙ったとか?」


 それはつまり、金属糸のゴーレムを投擲出来るような存在がいるということになるし、何より離れた場所……セトですら察知出来ない遠距離から、レイとセトの存在を把握し、狙ってきたということになる。


「それはないな」

「グルゥ?」


 独り言を口にしていたレイだったが、セトはそんなレイの呟きにどうしたの? と喉を鳴らす。

 レイはセトの首の後ろを撫でながら口を開く。


「金属糸のゴーレムが空から降ってきてただろう? 一体どうやってこっちを狙ったのかと思ってな」

「グルゥ」


 レイの呟きに、セトはなるほどと喉を鳴らす。

 セトにとっても、金属糸のゴーレムが一体どうやって自分達のいる場所までやって来たのかは不思議なことだったのだろう。


「だろう? こうして空を飛んでいれば、また金属糸のゴーレムが飛んでくる可能性も……」

「グルルゥ!」


 レイの言葉を遮るように、セトが喉を鳴らす。

 そんなセトの様子に、まさか噂をすれば何とやらか? とレイは周囲の様子を見るが……金属糸のゴーレムが飛んでくる様子はない。


「セト?」

「グルルルゥ、グルゥ」


 レイの問いに、セトは一ヶ所を……進行方向斜め前を見ながら、そう喉を鳴らす。


「そっちに行ってくれ」


 レイはセトが何を見ているのかは分からなかったものの、それでもセトが何かを見つけたのは間違いないだろうと判断し、セトが見つけた何かの方に向かうように指示する。

 そうして十分程セトが飛び続けると、レイにもセトが何を見つけて喉を鳴らしたのかを理解出来た。


「オアシス、か」


 そう、レイの視線の先にはオアシスがあった。

 十九階が夜の砂漠なので、その夜のオアシスも夜空の星々と月によって煌々と照らされている。


「セト」


 レイが名前を呼ぶと、それだけでセトはレイが何を言いたいのかを理解し、地上に……オアシスに向かって降下していく。

 特にモンスターの襲撃のようなこともなく、セトはゆっくりと夜の砂漠に着地する。

 音もなく、ふわりとした着地。

 砂漠の上に下りたったセトの背から、レイも下りる。


「オアシス……やっぱりあったんだな」


 四階が砂漠の階層だったが、そこにもオアシスはあった。

 であれば、この十九階にもオアシスがあってもおかしくはない。

 それはレイにも理解出来ていたが、昨日二十階に下りる階段を探している時は、オアシスを見つけることは出来なかった。

 だが、今日……特にどこを目指すでもなく、金属糸のゴーレムと砂蛇との戦いのあった場所から適当に空を飛んでいたところ、こうしてオアシスを発見したのだ。

 そのことを嬉しく思うと同時に、出来れば昨日のうちに見つけたかったという思いもレイの中にはあった。


「グルルゥ?」


 寄っていくよね? と喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトの言葉に当然のように頷く。


「ああ、寄っていこう。……まぁ、夜の砂漠となれば、そんなにモンスターはいないと思うけど」


 これが四階のように昼の砂漠であれば、暑さから砂漠の水を求めて多くのモンスターがやってきてもおかしくはない。

 だが、夜ともなれば砂漠の気温は恐ろしく下がる。

 簡易エアコン機能のあるドラゴンローブだから……そしてグリフォンのセトだから、寒さについては全く問題ないものの、もし普通の冒険者がここにいれば、寒さで震えるようなことになってもおかしくはない。

 そのような気温なので、水の側は余計に寒く……モンスターの姿もなかった。

 そんな夜のオアシスに、レイはセトと共に足を踏み入れるのだった。







【デスサイズ】

『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.五』『パワースラッシュ Lv.九』『風の手 Lv.七』『地形操作 Lv.七』『ペインバースト Lv.七』『ペネトレイト Lv.九』new『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.八』『地中転移斬 Lv.五』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.五』『黒連 Lv.五』『雷鳴斬 Lv.三』『氷鞭 Lv.四』『火炎斬 Lv.二』『隠密 Lv.三』『緑生斬Lv.一』



ペネトレイト:デスサイズに風を纏わせ、突きの威力を上昇させる。ただし、その効果を発揮させるには石突きの部分で攻撃しなければならない。レベル五になったことで、一撃に螺旋(ドリル)による追加効果が発生するようになった。

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