4105話

 金属糸のゴーレムとの戦いが終わり、解体をしてそれで出た魔石を魔獣術に使ってセトがダッシュというスキルを習得し、その効果を確認し終わったところで、この場から離れようと考えたレイだったが……


「グルルルルゥ!」


 そんなレイの考えを遮るかのように、不意にセトが喉を鳴らす。

 その鳴き声は、周囲に対する警戒が込められた鳴き声。

 それを聞いたレイは、即座にミスティリングからデスサイズと黄昏の槍を取り出し、周囲の様子を確認する。


(やっぱり、ここにいすぎたか。金属糸のゴーレムとの戦いで周囲に大きな衝撃やら何やらを与えたし、激しい戦闘音とかも周囲に響いた筈だ。そうなると、砂漠にいるモンスターが集まってきてもおかしくはない。問題なのは、どんなモンスターなのかだが)


 どのようなモンスターが襲ってきてもレイは即座に対処出来るように準備をし……


「キシャアアアアアアア!」


 そんな叫びと共に不意に砂の中から何かが飛び出してくる。

 だが、その程度でレイやセトの不意を突ける筈もない。

 次の瞬間、レイのデスサイズが襲ってきた何かを切断する。


(柔らかい?)


 デスサイズには魔力を流しているので、大抵の相手は容易に切断出来る。

 だが、それを込みで考えても今の一撃はあまりにも手応えがなかった。

 それはつまり、そこまで強くないモンスターなのではないかとレイに思わせるには十分であり……


「だと、思ったよ! 黒連!」


 デスサイズのスキルを発動し、砂の中から大量に出て来たモンスター……蛇に近い形をしたモンスターの集団に向けて、スキルを発動する。

 素早く……それこそ瞬く間に振るわれるデスサイズ。

 そんなデスサイズの刃が振るわれた場所……空中には、八つの黒い斬り傷が生み出された。

 それは、滞空する斬撃とでも呼ぶべきもの。

 それが何かを知らず、真っ直ぐ突っ込んで来た蛇は空中に浮かぶ斬り傷に触れた瞬間、その身体が切断される。

 そんな仲間の様子を見た他の蛇だったが、まだ飛び出していない個体はそのまま砂の中から出ることなく、砂の中をレイやセトから離れるようにして移動していく。

 そのような蛇……砂蛇とでも呼ぶモンスターは、幸運だったのだろう。

 曲がりなりにもレイの危険性を察知し、逃げ出すことに成功したのだから。

 しかし、既に空中にいる個体はどうしようもない。

 あるいは翼の類があったり、空中を足場に出来る能力があれば話は別だったのだろうが、生憎と砂蛇にそのようなスキルはなく、空中に浮かぶ斬り傷……滞空する斬撃に向かって自分から突っ込んでいく。

 とはいえ、それでもレベル五の黒連において生み出せる滞空する斬撃は八つだ。

 そして一気に空中に飛び出してきた砂蛇の数は、二十匹近い。

 飛び出すのを危険だと察知した、頭や勘の良い個体を考えると、一体どのくらいの砂蛇が集団で行動していたのか……レイは少しだけ興味深かった。

 ともあれ、空中に飛び出した砂蛇は斬撃に触れると身体が切断されていく。

 黒連によって生み出された滞空する斬撃は、一度発動すると消える。

 しかし……それは、一つの滞空する斬撃で一匹しか倒せないということを意味してはいない。

 滞空する斬撃に対し、同時に……あるいは一秒にも満たない差でぶつかった場合、双方に黒連の効果は発揮される。

 そして砂の中から一斉に飛び出してきた砂蛇は、何匹もが同時に滞空する斬撃に触れてしまっていた。

 また……当然ながら、砂蛇が襲い掛かった相手はレイだけではなく……


「グルルルルルゥ!」


 滞空する斬撃が少なくなったのを見たセトは、そのタイミングでファイアブレスを放つ。

 一斉に飛び出してきた、大量の……そしてレイの感覚からすると、決して強くはない砂蛇。

 そんな砂蛇に向かって放たれたファイアブレスだったが……


「っ!? セト止め……」


 ファイアブレスによって炙られた砂蛇が膨らんだのを見て、レイは咄嗟に叫ぼうとする。

 止めろと、そう言おうとしたレイだったが、それは既に遅かった。


「マジックシールド!」


 後ろに跳びながら、レイはスキルを発動する。

 生み出された光の盾、八枚。

 その半数を自分の前に、そしてもう半数をセトの前に移動させようとしたものの……

 轟っ!

 そんな轟音と共に爆発が起こり、夜の砂漠を爆発の光が明るく照らす。

 幸いにも、ファイアブレスによって爆発した砂蛇の数はそこまで多くはなかったらしく、その爆発も多数の砂蛇に連鎖して爆発したものの、レイに被害はなかった。

 ……それでも、前面に配置した光の盾は一枚、二枚、三枚、四枚と次々に壊れていったが。

 マジックシールドで生み出された光の盾は、どんな強力な攻撃であっても一度だけなら完全に防ぐ。

 だが、それはつまりどんな攻撃も一度しか防げないということを意味している。

 つまり、弱い攻撃……それこそ小石を投げる程度の攻撃であっても一度防げば、それによって光の盾は消えてしまうのだ。

 そういう意味では、弱い攻撃を連続して大量にというのはマジックシールドの弱点なのだろう。

 ともあれ、咄嗟に後ろに跳んでいたこともあって、そして光の盾が攻撃を防いでくれたこともあり、レイはダメージらしいダメージは受けなかった。

 だが、ファイアブレスを使っていたセトは……レイが操る光の盾が届かなかったセトはどうなのか。


「セト、無事か!」


 爆発が収まるのを見た瞬間、レイはセトのいた場所に向かう。

 爆発と、それによって舞い上がった砂によって周囲の様子は確認出来ない。

 それでもレイにしてみれば、セトのいる場所を調べる程度は難しくはなかった。


「セト、セト!」


 セトなら大丈夫。

 そうは思うが、それでも予想外の爆発だった為にセトがダメージを受けたのではないかと、そのように思ってしまう。

 心配しながら視界が効かない中を進み……


「グルルゥ!」


 少し離れた場所から聞こえたそんな鳴き声に、レイは安堵する。

 聞こえてきた鳴き声は、怪我をしたようには到底思えないような鳴き声だった為だ。

 レイはセトの鳴き声の聞こえた方に向かい……やがて視界が晴れてくるのと同時に、セトの姿を見つける。

 レイがセトを見つけるのと同時に、セトもレイの姿を見つけ……そしてお互いがお互いに駆け寄る。


「無事だったか、セト」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは大丈夫と喉を鳴らし、そしてレイが無事だったのかを確認するかのようにじっと見る。

 レイはそんなセトの視線に気が付き、笑みを浮かべてセトを撫でる。


「気にするな。俺もこうして無事だったから」

「グルゥ……グルルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。

 そんなセトを撫でつつ、レイはようやく安堵して息を吐く。


「それにしても……今回の戦いはちょっと予想外だったな。まさか、ファイアブレスで爆発するとは思わなかった」

「グルゥ……」


 レイの言葉にごめんなさいと喉を鳴らすセト。

 セトにとっても、今回のように砂蛇が爆発するというのは予想外だったらしい。

 もし知っていれば、ファイアブレスを使うようなことがなかっただろう。


「気にするな。今回の件は俺にとっても予想外だったしな。……というか、あれを予想しろという方が無理だろうし。セトもそう思うだろう?」

「グルゥ? ……グルゥ」


 レイの言葉にセトは同意するように喉を鳴らす。

 これが例えば、見るからに脂を持っているような身体をしていたり、何らかの粘液――この場合は可燃性――に塗れていたりした場合は、もしかしたら……と思わないでもない。

 だが今回の場合、とてもではないが一目でそのようには思えなかった。

 そして攻撃手段として炎系のものは一般的だ。

 実際、レイも黒連を使って距離を取った後、無詠唱魔法を使おうと思っていた。

 そしてレイの無詠唱魔法というのは、魔法の発動と動作を条件反射として身体に覚えさせているので、ファイアボールだけだ。

 ファイアボールと一口に言っても、その威力や大きさをある程度自由に変えることが出来るのだが。

 それだけに、レイも詠唱を必要とせずに使えるというのを便利に思い、それなりに使う機会も多い。

 そういう意味では、今回の一件はセトではなくレイがやっていた可能性もあるのだ。


「ほら、落ち着け。大丈夫だから。……次からは気を付ければいいだろう? それに……考えようによっては、セトが一斉に爆発させてくれたお陰で、敵を纏めて倒すことに成功したようなものだろう?」

「……グルゥ」


 レイの口から出た言葉に、予想外だったといった様子で喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトを撫でながら、言葉を続ける。


「そんな訳で、敵を倒したんだし魔石を……いや、死体を……うーん、どうだろうな。残ってるといいんだけど」


 砂蛇の死体を探そうと思ったレイだったが、その時に思い出したのは最初にデスサイズで切断した時の手応え。

 デスサイズで切断した時、手応えらしい手応えがなかったのだ。

 それはつまり、防御力が弱いということを意味しており、セトのファイアブレスによって爆発した今、その身体がどれだけ残っているのか疑問だった。


「……一応。一応大丈夫だと信じて探してみよう。最悪、魔石だけでも無事だったらいいし」

「グルゥ」


 レイの言葉に、セトも分かったと喉を鳴らして砂漠の上を探し始める。

 セトのファイアブレスで爆発した砂蛇によって、焦げている一面があった。

 そんな焦げた場所を探していたレイとセトだったが……


「あ、あった」


 予想外なことに、あっさりと魔石を……より正確には、真っ二つになった砂蛇の死体を発見する。


「これ……場所から考えて、もしかしたらだけど、俺が最初にデスサイズで切断した個体だったりしないか?」


 真っ二つになった切り口に、何となく見覚えがある。

 これが実際に自分が切断した個体なのか、それとも黒連によって切断された個体なのか、その辺りはレイにも分からなかったが。

 ともあれ、切断された砂蛇の死体が爆発に巻き込まれていないのはレイにとって幸運だった。


(いや、けど……爆発の範囲を考えると、巻き込まれてもおかしくはないのか? なのにこうして無事だったのは……爆発に耐性を持ってるとか? けど、それだとファイアブレスで爆発したのが疑問だよな。……だとすると、やっぱり単純に幸運だっただけか?)


 そんな疑問を抱きつつも、取りあえず魔石だけでも入手出来たのは幸運だったと思いながら、レイはセトを呼ぶ。


「セト、こっちに来てくれ! 魔石があった!」

「グルルゥ!」


 嬉しそうに喉を鳴らしながら、レイの方に近付いてくるセト。

 レイはそんなセトに魔石を見せ……


「まずはセトから魔石を使うか。ドワイトナイフは……見た感じ、微妙だとは思うけど」


 魔石を取り出した砂蛇の死体から、ドワイトナイフで何らかの素材が採れるのか。

 そう疑問に思いつつも、駄目なら駄目でいいので、後で試してみようと判断する。


「グルゥ?」


 レイの様子に、どうしたの? とセトが喉を鳴らす。

 セトのそんな様子に、レイは何でもないと首を横に振る。


「じゃあ、セトから使ってみるか。……流水の短剣で洗うから、ちょっと待っててくれ」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは分かったと喉を鳴らす。

 そんなセトの前で、レイはミスティリングから取り出した流水の短剣で魔石を洗う。


「よし、じゃあ……セト、行くぞ」

「グルゥ!」


 セトがやる気満々といった様子で喉を鳴らし、レイから離れる。

 レイはそんなセトに向かって魔石を放り投げ……セトはクチバシで魔石を咥え、飲み込む。


【セトは『アースアロー Lv.七』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 その内容は、レイにとってもそこまで驚くようなことではなかった。

 ファイアブレスで爆発が印象強かったが、砂の中を自由に移動していたことを思えば、アースアローのスキルを習得したのも納得出来た。


「グルゥ!」


 セトが嬉しそうに近付いてくるのを見たレイは、笑みを浮かべてその身体を撫でる。


「よかったな、セト。……じゃあ、実際に試してみてくれるか?」

「グルルゥ、グルゥ!」


 嬉しそうに喉を鳴らし、レイから離れていくセト。

 そんなセトを見ながらも、レイは何となく予想出来る。


(これまでのアロー系のスキルから考えると……多分、レベル七のアースアローだと百十本だろうな)


 アロー系ということで一括りに出来るだろうと予想していると……


「グルルルルルルルルゥ!」


 レイの視線の先でセトがスキルを発動し、土で出来た矢が大量に……そしてレイの予想通り、百十本生み出され、次の瞬間には百十本の土の矢は、一斉に夜の砂漠に向かって放たれるのだった。






【セト】

『水球 Lv.七』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.七』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.八』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.四』『アースアロー Lv.七』new『パワーアタック Lv.四』『魔法反射 Lv.三』『アシッドブレス Lv.九』『翼刃 Lv.七』『地中潜行 Lv.五』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.四』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.四』『植物生成 Lv.二』『石化ブレスLv.二』『ダッシュLv.一』



アースアロー:土で出来た矢を飛ばす。レベル一では五本。レベル二では十本。レベル三では十五本、レベル四では二十本、レベル五では五十本、レベル六で八十本。レベル七で百十本。威力は一本で金属の鎧を貫く。

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