4089話

連休&お盆ということで、2話同時更新です。

直接こちらに来た方は、前話からどうぞ。


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 セトのアイスブレスのお陰で、小型のミノタウロスは全て死んだ。

 正確にはレイとセトを襲ってきた小型のミノタウロスは全て死んだのであって、それ以外の小型のミノタウロスはまだ生き残っている可能性が高かったが。

 レイやセトにとっては、自分達を襲ってきた者達を倒せただけで、十分に満足出来た。


「とはいえ……この様子だと、ドワイトナイフを使うのも無理か? ……回収出来るのは、魔石と武器だけか」


 身体が肉片となっても、魔石は残っている。

 いや、中には魔石諸共肉片となった個体もいたのだが、それでも結構な数の魔石を入手出来るのは明らかだった。


「グルゥ」


 レイの言葉に、セトはごめんなさいと喉を鳴らす。

 だが、レイはセトの頭を撫でながら、励ますように言う。


「気にするなって。あの小型のミノタウロスの脆さは、予想外だった。……二十階にいるモンスターとして、あれはいいのか? それとも、あの小型のミノタウロスは二十階では食物連鎖的……弱肉強食的に、一番下の存在なのかもしれないな。もっとも、そういう奴がどうやってこれだけの武器を入手したのかは分からないけど」


 セトを撫でる手を止め、地面に転がっている戦斧に手を伸ばす。

 その戦斧は十八階の神殿の階層にあったコロッセオで入手した宝箱に入っていた巨大な戦斧と比べると、明らかに質で劣る。

 レイも自分の武器の目利きにそこまで自信がある訳ではないが、それでもコロッセオの戦斧と比べると、ちらの戦斧の質の方が悪いのは明らかだった。

 レイが見たところ、武器の質としては下の中……あるいは下の上といったところか。

 下の下ではないだけ、それを拾うレイにとっては幸運だったが、それでも武器の質が低いのは間違いない。


(この武器、拾った方がいいのか? 武器屋で売るにも……この程度の武器を購入する奴がいるとは思えないし)


 あるいは冒険者になったばかりの者ならこれらの武器を欲する者もいるかもしれないが、それなりの実力を持つ冒険者にとって欲しいとは思わないだろうというのがレイの予想だった。


「まぁ、最悪火災旋風の時に使えばいいしな」


 火災旋風を作った時、これらの武器をその中に投入すれば、十分な攻撃力が発揮されるのだから。


「グルルゥ?」

「ん? ああ、いや、何でもない。……取りあえずこの武器を拾うか。後は魔石もな。セトも手伝ってくれ」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らし……そしてレイとセトは暫くの間、その作業に没頭するのだった。






「何だかんだと時間が掛かったな」


 武器と魔石を拾うという行為だったが、草原の中に散らかっているので、それを一つずつ拾うというのが、それなりに大変だったのだ。


「グルゥ?」


 そんなレイに対し、セトはこれをどうするの? と喉を鳴らす。

 セトの視線の先にあるのは、脆い……豆腐のようなという表現が相応しい小型のミノタウロスの中でも、上手い具合に頭部だけを切断することに成功し、身体が爆散していない小型のミノタウロスの死体だった。


「ドワイトナイフを使うか?」

「……グルゥ……」


 レイの呟きに、セトは悩ましげな様子で喉を鳴らす。

 これが、例えば十九階で遭遇した牛のモンスターであれば、肉を欲してセトもドワイトナイフを使うといったことを主張しただろう。

 だが、小型のミノタウロスとレイが呼称しているように、小型のミノタウロスの大きさはゴブリン程度の大きさしかない。

 そのようなことを考えると、ドワイトナイフを使っても希望するような牛肉が出てくるとはセトにも思えなかったのだろう。


(とはいえ、子牛の肉とかは高級食材だって聞くしな。もしこの小型のミノタウロスが、実は普通のミノタウロスの子供だった場合、その肉は美味い可能性もある)


 そう考えたレイは、取りあえず一匹だけだしということで、ドワイトナイフを使ってみることにする。

 これで何か美味い肉でも出てくるといいんだが。

 そう思いながら、ミスティリングからドワイトナイフを取り出すレイ。


「グルゥ?」


 やっぱりドワイトナイフを使うの? と喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトに頷く。


「取りあえず一度だけな。……もしかしたら、何かとんでもない素材とかが出てくる可能性も……ない訳ではないし」


 そう言いつつも、レイの言葉がその可能性はまずないだろうと、そう示していた。

 セトもそんなレイの様子から、あまり期待は出来そうにないと思いながら、それでももしかしたら……と思いながら、レイの行動を見守る。


「さて、じゃあ何が出るか……出来れば、いい素材とか、美味い肉が出てくれよ」


 そう言いながら、レイはドワイトナイフに魔力を込め、小型のミノタウロスの死体に突き刺す。

 その瞬間、周囲に眩い光が生み出され……その光が消えた時、そこに残っていたのは魔石だけだった。


「……やっぱり駄目か。というか、肉も駄目だったのか」


 小型のミノタウロス=ミノタウロスの子供。

 つまり、高級食材である子牛の肉を入手出来るかもしれないという気持ちが少しはあっただけに、魔石だけという結果はレイにとって残念だった。


「グルゥ」


 残念だったのは、セトも同様だ。

 恐らくは駄目だろうと思ってはいたものの、それでももしかしたら……そんな風に思っていたのは間違いない。

 しかし、そんな中で結局出て来たのは魔石だけだったのだから、それを残念に思ってしまったのだろう。


「まぁ、こうなるだろうとは思っていたしな。……あとは、魔石を使うか。多分……本当に多分、大丈夫だとは思うけど」


 魔獣術で使う魔石は、その魔石を持っていたモンスターが弱ければ効果を発揮しないことがある。

 実際に今までレイとセトはそのような経験を何度かしていた。

 今回の小型のミノタウロスの魔石も同じではないかと、そのように思ってしまうのは……やはり戦ってる時に、その身体がかなり脆弱だったからだろう。

 それこそちょっとした攻撃であっさりと倒せてしまうような、そんな脆弱さ。

 そんな弱い……レイの認識ではこの二十階では他のモンスターの餌となっているようにしか思えない、そんなモンスターの魔石が、きちんと魔獣術で効果を発揮してくれるかどうか微妙なところだった。


(けど、だからといって使わない訳にはいかないしな。失敗しても、結局のところスキルを習得出来なかったりレベルアップ出来なかったりして、魔石が一個消えるだけ。なら、やらない手はないだろ)


 もしこれで、魔石が一個しかないのであればセトとデスサイズのどちらに使うかでレイも迷っただろう。

 だが、こうして大量に魔石があるのだから、使わないといった選択肢はレイにはなかった。


「……よし。まずはセトからやるか。セト、準備はいいか?」


 レイが手にしたのは、ドワイトナイフで取り出した魔石。

 デスサイズの場合は魔石をデスサイズで切断すればいいので、それこそ肉片となった小型のミノタウロスの中から拾った魔石であっても問題はないものの、セトは魔石を飲み込む必要があった。

 そう考えたからこその、レイの心遣いだった。

 もっとも、流水の短剣で洗えば地面に落ちている魔石でも問題はないのだが。


「グルゥ!」


 準備いいよと喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトに向かって、魔獣術が発動してくれよと願いを込めながら魔石を放り投げる。

 セトは魔石をクチバシで咥え、飲み込み……


【セトは『魔法反射 Lv.三』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。


「……おう?」


 予想外……あまりに予想外のアナウンスメッセージに、レイの口からはそんな声が漏れた。


「えっと……魔法反射? え? 何で?」


 たっぷりと三十秒程が経ってから、レイの口からそんな声が漏れる。

 何故そのスキルがレベルアップしたのか、レイには全く理解出来なかったからだ。

 それでも動揺を落ち着けると、ふとその視線を周囲に幾つかある、小型のミノタウロスの死体に向ける。


「もしかして……こいつら、そういう能力を持ってるのか?」


 小型のミノタウロスとの戦いでは、相手が非常に脆いということもあって、レイが魔法を使うようなことはなかった。

 だが、もしかしたら……この小型のミノタウロスは、魔法を反射するという強力な防御力をもっていたのではないか。

 そうレイには思えたのだ。

 もしその予想が正しかった場合……


(セーブ……ギリギリ、セーフ)


 小型のミノタウロスの肉片を見ながら、心の底から安堵する。

 もし本当に小型のミノタウロスに魔法を反射する能力があり、レイが魔法を使っていた場合、そこには最悪の結果が待っていたかもしれないのだから。

 レイは魔法戦士でもあるが、どちらかというと戦士の方に比重が置かれている。

 ……火災旋風を複数作ることが出来るレイがそれを言っても、何も知らない者であればふざけるなと叫んでもおかしくはなかったが。

 ともあれ、そのような戦闘スタイルだけに、レイが小型のミノタウロスとの戦いで魔法を使わなかったのは、間違いなく幸運だっただろう。


「グルルゥ?」


 焦った様子を見せるレイに、セトはどうしたの? と喉を鳴らす。

 レイはそんなセトに何でもないと首を横に振りながら、その身体を撫でる。

 セトを撫でる感触で自分の中にあった強い動揺が収まるのを待ち、口を開く。


「セト、レベルアップした魔法反射を見せてくれないか?」

「グルゥ! ……グルルルルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らすとすぐにスキルを発動する。

 普段なら……もっと攻撃的なスキルを試す時なら、セトもレイから十分に離れてスキルを試す。

 だが、魔法反射はそのようなスキルではないので、レイのすぐ側で使ったのだろう。

 セトが魔法反射のスキルを使うと、半径七十cm程の光の盾が生み出された。


「おお、以前よりも大きくなっているな。以前は五十cmくらいだったと思うし」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは嬉しそうに喉を鳴らす。

 セトにとっても魔法反射のスキルが強化されたのはそれだけ嬉しかったのだろう。

 ……そんなセトを見るレイは微妙な表情だったが。

 魔法反射のスキルは、あれば便利……いや、それどころか場合によっては戦局を一変させるような効果を発揮してもおかしくはない。

 それだけ強力なスキルなのはレイも認めるが、同時に魔法を使ってくるモンスターというのが滅多にいないのも事実。

 モンスターよりも人を相手にした時の方が、まだ使う機会はあるだろう。

 ただし、レイが趣味としている盗賊狩りにおいて、魔法を使う盗賊というのは非常に希少なのだが。

 そもそも魔法が使えるのなら、盗賊をやらなくても幾らでも稼げる手段はあるのだから。

 そうなると、他は戦争……もしくは紛争だろうが、そのような機会そのものはそこまで多くはない。


(誰も知らないからこそ、いざという時の切り札として使えると考えれば、あって損になるようなスキルじゃないよな)


 半ば無理矢理自分を納得させつつ、レイはセトから離れる。


「さて、じゃあ次は俺だな。……セトがそれなりにいいスキルのレベルアップしたし、どうせなら俺も……正確にはデスサイズだけど、とにかくいいスキルを習得出来ればいいんだけどな」


 魔石とデスサイズを手にしたレイは、意識を集中しながら魔石を放り投げる。

 瞬間、デスサイズを一閃し……


【デスサイズは『マジックシールド Lv.五』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 それは、レイにとって驚くと同時に納得出来るものでもあった。


「マジックシールドか……セトが魔法反射だったことを思えば、おかしくはないのか?」


 その件に納得しつつも、レイはマジックシールドがレベル五になったことを驚く。

 レベル五になったスキルは一気に強化される。

 つまり、マジックシールドもまた、レベル五になったことで強化されたということになるのだ。

 ……問題なのは、それが具体的にどのように強化されたのかということだろう。


「セト、大丈夫だとは思うけど、レベル五になったマジックシールドを試してみるから、ちょっと離れるな」


 セトが魔法反射のスキルを試した時は距離を取る必要はなかったものの、レベル五になって強化されたマジックシールドならどうなるか分からないので、念の為……本当に念の為にではあるが、レイはセトから離れる。

 セトもそんなレイの判断に異論はないのか、不満そうな様子を見せず大人しくその指示に従う。

 そして十分に離れたところで、レイはスキルを発動する。


「マジックシールド!」


 レベル五になったマジックシールドが発動し……そして、レベル四の時は四枚だった光の盾が、レベル五になって八枚も生み出されるのだった。






【セト】

『水球 Lv.七』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.七』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.八』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.四』『アースアロー Lv.六』『パワーアタック Lv.四』『魔法反射 Lv.三』new『アシッドブレス Lv.八』『翼刃 Lv.七』『地中潜行 Lv.五』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.四』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.四』『植物生成 Lv.二』『石化ブレスLv.二』



【デスサイズ】

『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.五』new『パワースラッシュ Lv.九』『風の手 Lv.七』『地形操作 Lv.七』『ペインバースト Lv.七』『ペネトレイト Lv.八』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.八』『地中転移斬 Lv.五』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.五』『黒連 Lv.五』『雷鳴斬 Lv.三』『氷鞭 Lv.四』『火炎斬 Lv.二』『隠密 Lv.三』『緑生斬Lv.一』


魔法反射:魔法を反射する光の盾を生み出せる。レベル一では半径三十cm程の盾。レベル二は半径五十cm程の盾。レベル三は半径七十cm程の盾。盾はセトの意思で自由に動かせるが、通常はオートでセトの邪魔をしないように動く。一度魔法を反射すると光の盾は光の塵となって消える。セトから離せるのは2m程度。あくまでも反射可能なのは魔法だけで、スキルは反射出来ない。



マジックシールド:光の盾を作りだし、敵の攻撃を一度だけ防ぐ。敵の攻撃を防いだ後は霞のように消え去る。また、光の盾は通常はオートでレイの邪魔にならないように動いているが、意識すれば自分で好きなように動かすことも可能。レベル一で一枚、レベル二で二枚、レベル三で三枚、レベル四で四枚、レベル五で八枚の光の盾を生み出せる。

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