4087話
連休&お盆ということで、2話同時更新です。
直接こちらに来た方は、前話からどうぞ。
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「うーん……やっぱりそう簡単には見つからないか」
空を飛ぶセトの背の上で、レイは夜の砂漠を見ながらそう呟く。
既に牛のモンスターを倒した場所から飛び続けて三十分程。
セトの飛行速度を考えると、かなりの距離を飛んでいるのは間違いない。
それでも、二十階に続く階段……あるいはそれに繋がる手掛かりか何かは見つからない。
地上には、延々と夜の砂漠が広がっているだけだ。
(今更だけど、この階層ってずっと夜のままなのか? それとも、単純に地上と昼夜が逆転してるだけとか?)
そう思ったレイだったが、何となく……本当に何となくだが、この階層を移動した感じでは一日中ずっと夜なような気がする。
レイやセトの場合は砂漠の夜の寒さも全く問題はないものの、他のパーティは大変だろうなと思う。
(ナルシーナのオルカイの翼は十八階の探索をしていて、今のところ十九階に来るつもりはないと言っていた。そして久遠の牙は現在二十階……探索期間的には、そろそろ二十一階に行ってもおかしくはないと思うんだが……まぁ、二十階、そして十八階以降を探索してるのは俺以外だと五つのパーティ。となると……オルカイの翼と久遠の牙以外の三つのパーティは十九階と二十階か。とはいえ、この十九階の探索は普通の冒険者には難しそうな気がするけど)
砂漠というのは、非常に過酷な場所だ。
実際、ガンダルシアにあるダンジョンにおいても、四階に砂漠の階層があるものの、浅い階層で行動している冒険者の中には四階を狩り場としているような者はいない。
砂漠にいるモンスターの素材が必要であったり、砂漠のオアシスにしか生えていない希少な植物を素材として採取するといったような目的でもない限り、日常的に砂漠で行動している者はいない。
あるいはいるのかもしれないが、レイはそのような存在については知らなかった。
一番多く砂漠を通るのは、やはり五階に……初めての転移水晶があり、オークの集落が存在する森に行く途中の者達だろう。
(まぁ、四階に比べると、暑くないだけマシなのか? その代わり寒いけど)
空を飛べるセトという相棒がいるレイにしてみれば、この階層での移動は全く問題ないし、ドラゴンローブがあるので、その辺も問題はない。
だが、それはあくまでもドラゴンローブを持ち、セトという相棒がいるレイだからであって、普通の冒険者がこの夜の砂漠で行動するのは厳しいだろう。
(となると、オリーブのパーティもそうだが、残り四つのパーティは二十階で活動してると思った方がいいだろうな)
二十階に下りれば、早速他の四つのパーティと遭遇するかもしれない。
そんな風に思うレイだったが、それで緊張したりといったようなことはない。
これが普通の……ガンダルシアで活動してる冒険者達なら、トップを進む久遠の牙に追いつくということに緊張するかもしれないが。
……そもそもレイの場合、久遠の牙の一人、エミリーはセト好きとしてそれなりに顔を合わせる仲でもある。
また、少し前に久遠の牙を率いるドラッシュとも酒場で会って、軽く会話をしていた。
そういう意味で、レイは既に全員ではないにしろ、久遠の牙の何人かとは面識がある。
「グルルルゥ!」
久遠の牙について考えていたレイは、不意にセトが喉を鳴らしたことで、我に返る。
「セト、どうかしたのか?」
「グルルゥ、グルゥ!」
レイの言葉に、セトは少し右側に進行方向を変えながら喉を鳴らす。
そんなセトの様子に、レイは何かを見つけたのだろうと判断し、セトの進む方向をじっと見る。
そのままセトが飛び続けると、やがてレイもセトが何を見て喉を鳴らしたのかを理解出来た。
砂漠が光っているのだ。
比喩でも何でもなく……それこそライトアップされたかのように、砂漠の一部が光っている。
「あれは……一体何だ? セト、近付いてくれ」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らして翼を羽ばたかせる。
そうして近付くと……蛍光色のような色で光っている砂漠の姿が、よりはっきりと見えるようになる。
「えー……何だこれ。これ以上ない程に分かりやすいけど……あ」
レイの言葉が途中で止まったのは、光っている砂漠の中央に階段を見つけたからだ。
その階段を探していたのだから、見つけたのは素直に嬉しい。
それは間違いなかったが、だからといって何となく喜べないように思ってしまったのは、それだけ光っている地面が特殊だったからだろう。
一体何があってこのように光っているのか、レイには全く分からない。
(いや、階段の目印として考えれば、そんなにおかしなことじゃないのか? ……とはいえ、ダンジョンがこういう目印を用意するのは、それはそれで疑問だけど)
光っている砂漠を訝しげに思いながらも、階段がある以上はいつまでも空を飛んでいる訳にもいかない。
「セト、地上に下りてくれ。……多分大丈夫だとは思うけど、それでも何があるか分からないから、注意はしてくれよ」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らすと翼を羽ばたかせて地上に向かって降下していく。
そうして地上に降りると、レイも光っている砂漠に足を付ける。
「……特に何もないな。もしかしたら何らかの罠の類でもあるのかと思ったんだが、そういうのもない。……セト、どう思う?」
「グルゥ? グルルルルルゥ」
レイの言葉に、セトは嬉しそうな様子で喉を鳴らす。
レイには罠か何かのようにしか思えなかったのだが、セトにしてみれば光っている砂は綺麗で見ていて嬉しく楽しい場所なのだろう。
「あー……うん。セトの様子を見る限りだと、何か罠があったりとかそういうのじゃなさそうだな。なら、このまま階段を下りるか。それでいいか、セト?」
「グルゥ!」
行こう! と喉を鳴らすセト。
そんなセトの様子に、レイは光っている砂漠を警戒した自分が馬鹿のように思えた……
「あ、そうだ」
ふと思いつき、ミスティリングの中から保管用のケースを取り出して、光っている砂をそれに入れる。
(星の砂ってあったけど……まぁ、この光る砂とは性質が全く違うか)
保管ケースに入れた砂を見て星の砂を思い出すレイだったが……
「あれ?」
「グルゥ?」
レイの言葉に光る砂を踏んで楽しんでいたセトは、どうしたの? と喉を鳴らす。
レイは近づいてきたセトに保管ケースを見せる。
そこには砂が入っている。
それは間違いなかったが、地面にあった時のように光ってはいなかった。
てっきり保険ケースの中でも光っているのだろうと思っていたレイだったが、その予想が完全に外れてしまった形だ。
「えー……何でだ? いや、砂そのものが光ってるんじゃなくて、砂漠にある何かに反応して砂が光っているから、砂漠から離すと光が消えるのか?」
レイは保管ケースに入った砂を見つつ、予想する。
特に何らかの証拠があっての予想ではなく、何となくそうなのではないかと思えるような、そんな予想。
とはいえ、予想を口にしたレイは何となく自分が口にした予想は間違っていないように思えた。
「まぁ、取りあえず光っていない砂でも、調べれば何か分かるか。……ギルドに素材として売ってみてもいいかもしれないな」
今は光っていないものの、色々と使い道は多そうだ。
そう判断したレイは、他にも幾つかの保管ケースを取り出し、ミスティリングに収納していく。
「さて、じゃあ……行くか。俺やセトにしてみれば、随分とあっさりと階段を見つけることが出来たんだから、その幸運は最大限に活かさないとな」
レイは自分やセトが方向音痴気味であり、何よりトラブル誘引体質であるのを知っている。
なのに、セトが多少飛ぶ方向を変えたとはいえ、殆ど一直線に二十階に続く階段まで来ることが出来たのだから、それを訝しむな……そして怪しむなという方が無理だった。
セトもそんなレイの様子には気が付いているのだろう。
早く階段を下りたいといった様子ではあったが、それでも周囲の様子を警戒し、もし何かあったら即座に対処出来るようにはしていた。
(あ、でもそうだな。十八階には十七階の……宝箱がある部屋に続く階段もあったな。そうすると、もしかしたらこの階段は二十階に続いているけど、宝箱のある部屋かもしれないのか。……いや、宝箱があると期待するのは、間違いか?)
十八階でのことを思えば、素直にこの階段が二十階に続いている階段とは限らない。
ただ、レイにしてみれば、それならそれで構わないという思いがあるのも事実だった。
もし罠があるのなら食い破ればいいし、宝箱があればラッキーだ。そしてきちんと二十階に続く階段なら、レイとしては大歓迎だった。
「さて、じゃあ行くか。……セト、注意して二十階に向かうぞ」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトが同意するように喉を鳴らし、一人と一匹は光る砂漠の中央にある階段を下りていく。
やがて階段を下りきると……
「え?」
そこにあったのは、予想外の光景。
いや、ダンジョンそのものは草原が広がっている、普通の……よくある階層だ。
それそのものには、そこまで驚くようなことではない。
いや、二十階という大きな区切りとなるような階層である以上、それが普通の……今までにも何階層かあった草原の階層であるというのは、レイにしてみれば以外だったが。
だが、そんな階層の様子よりも驚いたのは、階段を下りてすぐの場所に転移水晶があった為だ。
今までも五階、十階、十五階に転移水晶はあったが、そのどれもが階段のすぐ側にあるということはなかった。
だというのに、この二十階に関しては十九階に続く階段のすぐ側に転移水晶があったのだ。
これは、レイにとって完全に予想外だった。
(いやまぁ、俺達にとって楽なのは間違いないけどな)
レイにしてみれば、二十階で転移水晶を探さなくてもいいのは、探索をする上で楽なのは間違いなかった。
(けど……草原の階層か。別に階層そのものはそこまで探索が難しい場所じゃないのに、久遠の牙はまだ二十一階に攻略出来ていないってのは、何でだ? まぁ、草原が探索しやすい階層だというのは、俺やセトだからこそ、そういう風に思っているだけなのかもしれないけど)
レイは改めて周囲の様子を見る。
だが、特に何か異変がある訳でもなく、草原がどこまでも広がっていた。
「グルゥ?」
レイの様子を見たセトが、どうするの? と喉を鳴らす。
セトの鳴き声に、レイは転移水晶を見る。
「取りあえず、転移水晶に登録するか。……探索は、どうするかな。このまま二十階の探索をしてみるか、十九階に戻って探索をするか」
レイとしては、二十階に来たら転移水晶のある場所を見つけて、そこで登録しようと思っていた。
だが、その転移水晶は階段を下りてきたところにあった。
そういう意味では、レイにしてみれば意表を突かれたといった感じか。
「グルルゥ……」
レイの言葉にセトもどうするべきかと悩んだ様子を見せる。
セトにとっても、十九階と二十階のどちらを探索すればいいのか、迷っているのだろう。
レイと同じく、セトにとってもまさか階段を下りてすぐの場所に転移水晶があるというのは意表を突かれたらしい。
「ともあれ、まずは登録するか。それからどういう風に行動すればいいのか考えよう」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトが分かったと喉を鳴らし、転移水晶に登録する。
登録そのものは、触れればすぐに終わるので、特に時間が掛かったりはしない。
「……じゃあ、折角二十階まで来たんだし、ちょっと歩いてみないか? 草原なら、もしかしたらモンスターとかが結構出てくるもしれないし」
「グルゥ……グルルルルゥ!」
レイの言葉に、セトは少し考えた後で分かったと喉を鳴らす。
すぐにセトがレイの言葉に賛成しなかったのは、十九階の砂漠で戦った牛のモンスターの件があったからだろう。
セトとしては、出来ればもっと牛のモンスターを倒して、肉を大量に欲しかったのだろう。
ただ、草原の階層ともなれば多種多様なモンスターがいるのも間違いなく、そういう意味でここで探索をしてみてもいいかもしれないと判断したらしい。
そんな訳で、レイはセトと共に草原を歩き始める。
二十階という節目の階層だけに、草原の階層であっても何があるのか分からない。
罠がある可能性もあるし、強力なモンスターがいる可能性もある。
そんな訳で、膝くらいの高さの草原を進んでいると……
「グルゥ!」
十分かそこら歩いたところで、不意にセトが喉を鳴らす。
そんなセトの鳴き声に、レイはセトの見ている方に視線を向ける。
するとそこには、レイ達が歩いていたよりも高い背丈の草があり……その草が、ガサリと動くのだった。
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