4043話

明日は七夕なので今週の土日は二話同時更新です。

直接こちらに来た人は、一話前からどうぞ。


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 セトが青い虎の肉の味見が終わったところで、早速レイは魔石を使うことにした。


(セトが肉……あれはもも肉か? 青い虎のもも肉を味見してくれてよかったと思うべきか)


 肉と一口に言っても、部位によって味や食感は大きく変わってくる。

 そういう意味では、もも肉を少し味見した程度でセトが満足してくれたのは、レイにとって嬉しいことだった。


(何だっけ? ヒレ肉? フィレ肉? シャトーブリアン? その辺が高い肉だったと思うけど。……あ、そう言えば舌はなかったな。牛タン、豚タンと呼ぶんだし、虎の場合は虎タン? ……何だかあまり美味そうに思えないな)


 そんな風に思いつつ、レイは魔石を手にセトに声を掛ける。


「セト、じゃあ準備はいいか?」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは任せてと喉を鳴らす。

 そんなセトを見つつ、レイは魔石を放り投げ……セトはクチバシで魔石を咥え、飲み込む。


【セトは『水球 Lv.七』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 それはレイにとって驚くべきことではない。

 寧ろ予想していたので、納得出来る内容だった。


「グルゥ!」


 セトもレイと同じくスキルについては予想していたのだろう。

 レベルアップしたよと、そう喉を鳴らすものの、半ば予定調和的な結果だったこともあってか、そこまで極端に喜んだりといった様子はない。


「じゃあ、セト。レベルが上がった水球を試してみてくれるか?」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らすと、念の為にレイから少し離れる。

 そして壁を見て……


「グルルルルゥ!」


 スキルを発動するセト。

 すると直径二m程の水球が、五つ生み出される。


(レベルが六の時は四つだったから、レベルが七になって出せる水球の数が一つ増えた訳か)


 そうして放たれたスキルは神殿の壁に命中するが……壁にあまり被害はなかった。


(威力は落ちた? いや、単純にこの神殿の壁がそれだけ強固なだけか。レベル六の水球ですら、一個の水球で岩を破壊出来るだけの威力はあったんだし)


 レイはそのように思いつつ、どう? と自分を見てくるセトを撫でてやる。


「よくやったぞ、セト。水球の数が増えたし、これから使いやすくなったな」

「グルルゥ!」


 レイの言葉に、セトはそうだよと喉を鳴らす。

 そんな嬉しそうなセトだったが、水球が大きい分、どうしても速度は青い虎の放った水球と比べて遅い。

 威力はセトの水球の方が高いものの、速度という点では小さな水球だった青い虎の方が上だ。


(幾ら攻撃の威力が高くても、当たらないと意味はないんだよな。そういう点では青い虎の水球の方が優れていると言ってもいいのかもしれない)


 そう思ったレイだったが、すぐにその辺は使い方次第だろうと思い直す。

 それこそ罠のようにどこかに水球を浮かべておき、そこに敵が自分から突っ込むように仕向ける……といった具合にしても、それはそれで構わないのだから。


「グルゥ?」


 考え込んでいるレイに、セトはどうしたの? と喉を鳴らす。

 レイはそんなセトに何でもないと首を振ると身体をそっと撫でてから口を開く。


「さて、次は俺の番だな。……正確にはデスサイズだけど」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは頑張ってと喉を鳴らす。

 そんなセトの応援に思わず笑みを浮かべたレイは、魔石を放り投げるとデスサイズを振るう。

 斬、と。

 一閃で魔石は切断され……


【デスサイズは『氷鞭 Lv.四』のスキルを習得した】


 脳裏にアナウンスメッセージが響く。


「あー……そっちにいったか。いやまぁ、氷も水系のスキルだと言われれば、納得は出来るけど。どうせなら、氷雪斬のレベルが上がって欲しかったな」


 現在の氷雪斬はレベル八で、もう二レベルが上がれば十となる。

 レベル五になった時にスキルが強化……それこそ上位互換の別のスキルになったかのように強化されたのを考えると、恐らくだがレベル十になれば今よりも更に別物のスキルになるように強化されるだろうとレイには思えた。

 あくまでもこれはレイの予想でしかないのだが、それでも……いや、だからこそ、出来るだけ早くレベル十にしたい。

 だが、レベル八や九のスキルはあっても、なかなか十になるスキルがないというのが、微妙にレイを悩ませていた。

 だからこそ、青い虎の魔石で氷雪斬がレベル九になり、そしてまた別の……何らかの水か氷を使って攻撃するモンスターの魔石を使えば。

 そう思っていたのが、そんなレイの予想が完全に外れた形となってしまう。


「まぁ……仕方がないか。氷鞭もそれなりに強力なスキルだしな。……使いこなすのは結構難しかったりするけど。まずは試してみるか。セト……は、大丈夫だな」


 レイが何かを言うよりも前に、セトはレイから離れていた。

 スキルを試すレイの邪魔にならないようにと、そう思っての行動だろう。

 レイはそんなセトに感謝しながらスキルを発動する。


「氷鞭!」


 スキルが発動すると、デスサイズの石突きから氷で出来た鞭が生み出される。

 その長さは、レベル三の時の三mと比べて、一m程伸びていた。

 四mの氷の鞭。

 デスサイズを振り回して長くなった氷鞭の使い道を確認しながら、氷鞭について考える。


(氷鞭はレベル四まではそのレベルだけの長さが増していた。レベル一では一m、レベル二では二mといった具合に。けど、今はレベル四だ。つまり、次はレベル五でスキルが一気に強化される訳で……そうなると、どういう感じになるんだろうな)


 そんな風に思いつつ、石突きから氷鞭が伸びたデスサイズを振るうレイ。

 ステンドグラスから降り注ぐ太陽光もあって、その光景はどこか幻想的ですらあった。

 本人は自分が現在そのようなことになっているとは、全く気が付いた様子はなかったが。

 そうして数分の舞踏のような動きが終わると、レイは何故かセトが自分をじっと見ているのに気が付く。

 いや、セトがレイを見るというのはそんなに珍しくはない。

 セトにとってレイは大好きな相手なのだから。

 だが、今こうしてセトが自分を見ている視線には、いつもと違う何かがあった。

 それが具体的に何なのかは、生憎とレイにも分からなかったが。


「セト? どうした?」

「……グルゥ? グルゥ、グルルルゥ、グルルルルルルゥ!」


 レイの言葉でようやく我に返ったセトは、凄かった、本当に凄かったと、喉を鳴らしてレイを称賛する。

 レイにしてみれば、一体何故そこまで? といったように思えたのだが……理由はともあれ、セトが喜んでくれたのならそれでいいかと、それ以上は気にしないことにする。


「取りあえずセトが喜んでくれたのは嬉しいよ。それで、スキルの確認も終わったし、ダンジョンの探索を続けるか」

「グルゥ、グルルゥ、グルゥ!」


 先程のレイの動きがセトにとっては余程印象深かったのだろう。

 未だに興奮しながら、セトはレイと天井……ステンドグラスを何度も眺めていた。


「セト? ……あー……うん。ステンドグラスが気になるか。まぁ、こうして見ているだけで綺麗だしな。それこそ、いつまででも見ていたいと思う気持ちは……気持ちは……」

「グルゥ?」


 言葉の途中で動きを止めたレイに、セトはどうしたの? と喉を鳴らす。

 しかしセトが見たレイは、上を……より正確には天井を、そして天井にあるステンドグラスに視線を向けていた。

 レイが考え込み始め、数分が経過する。

 やがてレイは天井にあるステンドグラスを見つつ、口を開く。


「……いけるか?」

「グルゥ?」


 何が?

 レイの呟きにセトはそう喉を鳴らす。

 レイはそんなセトの鳴き声で、自分がじっと天井を見ていたのに気が付く。


「いや、あのステンドグラス……俺とセトなら、入手出来ると思わないか?」

「……グルゥ」


 レイの言葉に、セトは数十秒黙り込んだ後で、ようやく喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、まさかレイがそのようなことを言うとは思わなかったのだろう。


「グルルゥ?」


 本気で言ってるのを? とセトが喉を鳴らす。

 レイはそんなセトの言葉に、当然だと頷く。


「ああ、本気で言ってる。これが普通の冒険者なら、ステンドグラスを確保するのは難しいだろう。そもそも、あそこまで移動する手段がないし」


 このホールは通路よりも広く、そして天井も高い。

 それこそ二十m……あるいはそれ以上の高さがあるだろう。

 そのような場所から降り注ぐ太陽光がステンドグラスを通して様々な色の光をホールに降り注がせている。

 ガラスそのものは、このエルジィンではそこまで珍しいものではない。

 それこそ高級宿は普通にガラスを使った窓が使われている。

 だが……ステンドグラスのような物はレイも見たことがなかった。

 あるいは見たことがあっても、単純に忘れているだけかもしれないが。

 そうである以上、ステンドグラスは是非とも欲しい。

 レイが何かに使ってもいいし、あるいはギルドに売ってもいいだろう。

 もしくはステンドグラス程に珍しいのなら、オークションを開くといったようなことになってもおかしくはない。

 それだけに、レイとしてはステンドグラスは是非とも欲しい。

 幸い、セトは空を飛べるので天井にあるステンドグラスの近くまで移動するのは難しくない。

 だが問題なのは、どうやってステンドグラスを手に入れるかだろう。

 レイが期待しているのは、やはりデスサイズ。

 レイの魔力を込めれば、それによってデスサイズの斬れ味が上がる。

 それを使えば、神殿の壁を破壊する……切断するのも容易になる。

 だからこそ、デスサイズを上手く使えばステンドグラスの周辺にある壁……天井を切断出来るのではないかと、そう思えるのだ。

 そうして上手くステンドグラスの周囲を切断出来れば、ステンドグラスが床に落ちるので、それをミスティリングに収納すればいい。

 高い身体能力を持つレイにとっては、切断されて落ちそうになったステンドグラスに触れてミスティリングに収納するのは、そんなに難しいことではなかった。


「よし、セト。デスサイズを使って天井を切断して、それをミスティリングに収納するぞ。上手く出来るかどうかは分からないが、もし上手くいったら資金源として使える筈だ」


 ここはダンジョンであり、ダンジョンには修復機能がある。

 つまり、もしレイがステンドグラスの嵌まっている天井をデスサイズで切断しても、それはやがて復元するのだ。

 ……そのやがてというのが、具体的にいつなのか。それはレイにも分からなかったが。

 ただ、それでもこれからのことを思えば、試してみるのは悪い選択ではないようにレイには思えた。


(まぁ、心配なところがない訳でもないけど)


 レイが少しだけ心配なのは、この十八階が神殿の階層で、ステンドグラスからは太陽の光が差し込んでいることだろう。

 つまり、神殿の階層であるにも関わらず、この階層の外には太陽があるということになる。

 勿論、その太陽は本当の意味での太陽という訳ではなく、何らかのマジックアイテムか、あるいはダンジョンが擬似的に作った太陽といったところだろう。

 それでも太陽があるのは間違いなく、だからこそレイとしては天井を斬り裂いた時、ダンジョンの外がどのように反応するのかというのを疑問に思っていた。

 何もないなら、それが一番いい。

 レイにとっての最善がそれだろう。

 だが……天井に穴が開いた時、それによって何らかの異変が起きたら。


(どうなるにしろ、一度は試してみる必要があるな。それで何か問題があったら……即座に脱出して、ギルドに報告か。問題がなければ探索を続けて、その後でギルドに報告。十八階よりも下で活動している冒険者が少ないから、俺にとってはかなりラッキーだったな。出来れば久遠の牙を抜いて俺だけが活動している階層までいければ、そこまでこういう心配をしなくてもよくなるんだけど)


 もし何か突発的な事態があっても、レイは自分とセトだけならどうとでもなるだろうと思っている。

 だが、そこに他の冒険者がいると、その冒険者達のことも考えなければならず……そういう意味では、他の冒険者達は足手纏いでしかない。

 ……勿論、レイと同じくらい、あるいはレイ以上の実力を持つ冒険者も、本当に少数ではあるが、いない訳ではない。

 だが、生憎とこのガンダルシアにそのような冒険者はいなかった。

 ガンダルシアにおけるトップパーティの久遠の牙でさえ、冒険者の本場と呼ばれるギルムにおいては一山幾らといったくらいにはいるのだから。


「さて……セト、もしかしたら何か突発的なことが起きるかもしれない。けど、俺とセトなら何とでも出来る筈だ。だろう?」

「グルゥ……グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは気合いを入れるように喉を鳴らすのだった。






【セト】

『水球 Lv.七』new『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.七』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.八』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.四』『アースアロー Lv.六』『パワーアタック Lv.三』『魔法反射 Lv.二』『アシッドブレス Lv.八』『翼刃 Lv.七』『地中潜行 Lv.四』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.四』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.三』『植物生成 Lv.二』『石化ブレスLv.一』



【デスサイズ】

『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.四』『パワースラッシュ Lv.九』『風の手 Lv.七』『地形操作 Lv.七』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.八』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.七』『地中転移斬 Lv.四』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.五』『黒連 Lv.五』『雷鳴斬 Lv.三』『氷鞭 Lv.四』new『火炎斬 Lv.二』『隠密 Lv.三』『緑生斬Lv.一』



水球:直径二m程の水球を五つ放つ。ある程度自由に空中で動かすことが出来、威力は岩に命中すればその岩を破壊するくらい。



氷鞭:デスサイズの石突きに氷の鞭を生み出す。氷鞭に触れた場所は凍り付く。レベル一では長さ一m。レベル二では長さ二m、レベル三では長さ三m、レベル四では四m。

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