第4話 真冬のピクニック


妻は急にピクニックがしたいと言い出した。ピクニックをしないのなら、この家を出て行くとまで言っている。


とはいっても夫は躊躇した。今は真冬で1月後半の、風が凍りそうなほど寒い時期だ。


しかし妻の本気は異常なほどだった。いくら客観的に状況を見て、軽く受け流そうと思っても、この気迫は目を背けることができなかった。


都合の良いことに、夫婦の自宅近くには、大きな森のような公園がある。中には、芝生が広がる小高い丘があって、妻はそこにお弁当を開こう、と言った。


さて、お弁当が目の前に並んだ。弁当箱を開くとふわーと湯気を立てる。寒くて仕方がない夫は、すぐはまポットに入っていた味噌汁をひとくち飲んだ。腹がジワーっと温かくなった。


すると妻は言った。「その温かさ、愛情よ」夫は初めよくわからなかったが、妻は言葉を続けた。「温かかい部屋にいると、愛情の温かさが分からないものね」そして、妻は静かに泣き出した。


夫の体の内側は、まだまだ温かい。そのことが、嬉しいのか、情けないのか、よくわからなくなるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る