第2話 クッキーを焼く
子供を諦めてから、2年目のクリスマスシーズンを迎えた。一度諦めてしまえば、むしろ心のつかえが取れ、日々の生活は軽やかで楽チンになっていった。
けれどクリスマスになると、どうしても「もし、子供がいたら、もっともっと幸せな気分は盛り上がるのだろう。クリスマスという季節を、本当の意味で楽しめるのだろう」という思いが湧き上がってきて、どうしても落ち込んでしまうのだった。
たとえばクリスマスシーズンを舞台にした映画やアニメは、どうしてこうもワクワクするのか。それが、本来楽しむべき子供もいずに、自分一人で味わっているということが、たまらなく虚しくなる。
そんな時は、朝だろうが、夜だろうが、とにかく、クッキーを作り始める。しかも、食べきれないほど大量に作る。夫への当てつけであることは、なんとなく自分でも気づいている。「子供がいたら、きっとあっという間になくなってたわよ」そんな気持ちを、クッキーで表そうとしているのか。そんな思いをそんな言葉が、頭の中で何度も何度も何度も何度も何度も何度も…思い巡る。
今年は朝、夫が会社に出かけたのを見はからってから作りはじめて、昼過ぎには、大皿5枚分のクッキーができていた。そして、夕方には気分が晴れて、何度見たことか分からない「ホームアローン2」を観ながら、クッキーをかじる余裕さえ生まれていた。
帰ってきた夫は、「こんなに食べられないよ」と困り顔とも怒り顔とも笑い顔とも言えるような微妙な表情でクッキーを眺めながら言って、夕飯前に一口つまんだ。そして、いつものように心から「おいしい」と言った。
そこで初めて、妻の仕返しは完結する。そして、いつも、どうしようもなく泣きたくなるのであった。
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