ストーリーなんかどうでもいい。

砧葉子

第1話 朝食どう?

一晩中眠れなかった。夜はどんどん私を一人ぼっちにしていった。そして、会社での出来事を思い出し「優という字は、優れるとも読むのに、優しい人は評価されない。ずる賢くて意地悪な人がいいとこ取りしていくから。じゃあなんで、優しいと優れているは同じ字なのだろう」ということを繰り返し考えた。


やがて、朝焼けが暗闇に滲みだし、次第に新鮮な光が空の隅々へと広がっていく。澄んだ空気の中で、一人、二人と、動きだすのを感じるようになってきた。


…こうやって落ち込んだ時、突然、気持ちの回復への道筋がパー!と見通せることがある。それが起きた。


そこで私は、パジャマの上に直接コートを羽織り、ブーツでパジャマの裾を隠し、頭はニット帽でフタをして、財布とスマートホンをつかんで始発に飛び乗った。


彼女は、何も言わなくてもきっと分かってくれる。私は、早朝からやっているドーナツ屋でお気に入りのドーナツを10種類と、ホットコーヒーを2つ買った。


インターホンを押すと、彼女は笑うでも、怒るでもなく「おはよう」とだけ言った。私は、涙を堪えて、「朝食どう?」と袋を持ち上げた。彼女は頷いた。


ドーナツを頬張ると、身体に溜め込んでいた睡魔がいっきに押し寄せた。彼女はきっと毛布と布団をかけてくれ、ちなみに湯たんぽも入れてくれるだろう。だから、何も考えないで、このまま横に倒れようと思う。

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