トラック5 食べ歩きとオッパイの話
静か、ですね。ここ、縁結びの神社、なんですか。やっぱりこういうところが一番落ち着きます。人の出入りがある階段で猫が寝てたり、そんな猫をやさしく見守りながら通り過ぎる人の笑顔が素敵です。
うんうん、塔の上も楽しかったです。あそこにいた人、みんな楽しそうに笑ってた。私たちみたいにつがいで来てる人とか……。カップルって言うんですか? 子ネコさん達を連れてる親猫さんたちもいました。
みんなみんな優しそうに微笑んでて、すごく幸せな空間でした。
あんなに人間のみなさんも高いところが好きなんて知りませんでした!
でもどうして私をあそこに連れて行ったんですか? あんなに人が集まるタワーじゃなくても、あのタワーから見えるどこかのビルでも良かったのに。
たくさんお金もかかったんじゃないですか? お金は食べ物と交換できる貴重品なんでしょう? 二人分のお金を払うー! なんて言い張ったりして……。
おかしかったです。隣に立ってる私のことも考えてください。
恥ずかしかったんですから……。顔が熱くなって……、おかしくて涙まで出ちゃいました。
ん? そうですよー。今、君の背中に抱きついちゃいました。なんか不思議なんですけど、ここに来てからあなたの体に触れられるようになってる気がするんです。
縁結びパワーですかね? それとも、チュッてしたからかな、んふ。ねえ、むぎゅってしてもいいですか? はあ、君の背中、落ち着きますー。
え? 背中に柔らかいものが当たってる気がする? はい、それ私の肉球です。え? 抱きついてるならオッパイじゃないのかって……?
いえ、私のお母さんのオッパイはこんなにプニプニしてなかったですけど……。
あっ! ほんとだ! 乳首付いてます! 一山あたり一乳首です。
大盛ごはんに梅干しが乗った感じです。
え? そんな色気のないオッパイ描写は聞いたことがない?
なんですか色気って? それ食べれますか?
はっ、ちょっと待ってください。
これだと双子までしか育てられませんけど大丈夫ですか? 突然の子だくさんに恵まれたら、私いったいどうしたら!
はあ、人間の乳首は2つが相場? よかった~! ……そりゃびっくりもしますよ。だってネコだったときは8つぐらいあったのに2つに減ったんですよ!
女子力激減じゃないですか!
そういえば、ケンカしてるカップルさんもいましたね。あのタワーに上るためのお金があればお腹いっぱい食べられるっていうのに! あれは食べ物を無駄にする行為です、許せません。
女の人が男の人に向かって言ってましたね。『どうしてそんなにバカなの?』って。人間のオス猫さんはメス猫さんよりもバカなものなのですか?
そうかもしれないって……、そんな簡単に認めちゃっていいんですか!? はっ!(きょろきょろ) 今の君の発言、誰にも聞かれてませんよね。
オス同士の抗争の火種になったら大変です。今の発言は風の噂ってことにしましょう。
え? ちょっと待っててって……うにゃあ! あれ、あはは、なんでなんで! 待てなかった、あは。だって急に走り出すんだもん。おんぶしたままだよ。こんなこと出来るなんて! きゃはは。
ねえ君、フラフラしてるけど大丈夫? 重いし揺れるから静かにしてて? ああごめんごめん。つい楽しくなっちゃって。
ん、なんかとってもいい匂いがしてきた。これは、ちょっと食べて見て、ですか? あっ、ありがとうございます。おんぶしたまま肩越しにいただいちゃうなんて、楽ちんな食べ歩きですね! いただきまーす。
あーんぐ、ん、うん、うんうん、これ、甘くておいしい。とってもホクホクしてます。お芋のきんつば? 最初はやさしい味がいいと思った、ですか? ふんふん、君の唇もこれに負けないくらいやさしい味だったもんねっ。あは! びくってなった! あはは。
え?見せたいものがある? うわ! 巨大な猫さんがいっぱいいます。
人の何倍もある猫が何匹も! なんなんですかこれ? 招き猫? お金や幸運を招く?
なるほど、引き寄せたお金で食べまくった末に幸せ太り、それであんなに体が大きくなったんですね。
あんな体で屋根から落ちたら全身粉末骨折、あわわわ。
え? あれは作り物だから屋根には登らない? はあ。それよりこれに見覚えはないか、ですか?
なんですか、新手の誘導尋問ですか? ぜ、全然ないです、見たことないです。もしかして君が見た白いスーツに白ネクタイの人って、これじゃないか?
だ、だから見たことないって……え? 君を騙したっていう神様のことを聞きたいだけ?
ああ、なるほど、魚泥棒の件で取り調べを受けてるのかと勘違いしてました。
うーん、いや、ネクタイはこんな鮮烈な色ではなかったような……
え? これは赤色? 猫はこの色が見えないから、君が猫だったときは気づかなかったはず? なんですかその驚愕の事実!
そういえば人間の姿になって、あなたに会ってから、妙に世界がバラ色に見えるなと思ってました。
これが恋というものかと思ってたのに! 違うんですか? なんてこと……よよよ……。
その話は置いといて?……今、乙女心を紙屑みたいに放り投げましたね!? 君はどうしてそんなにおバカさんなんですか!
へ? とても大事なこと? 私だって大事な話をしてるんですよ! え? ただ私を助けたいだけ?……これが私を救うカギになるかもしれないから?
ふう、もう、そんなに真っすぐな顔されたら何も言えないじゃないですか。まったくもう、ホントにお馬鹿さんなんだから。
さっきケンカしてたカップルの気持ち、なんとなく分かっちゃいました。……いえ、なんでもないです。
つまり、あなたはこの招き猫というネコの神様が人に化けて私のところに来たと、そう言いたいのですか?
たしかにこの、運動しないで食べてばかりなぽっちゃり感、見覚えありますけど。二人でナデナデしてお願いしてみよう、ですか? ま、まあ君が言うなら。
はい。なでなで。えっと、あれって……なんか空から虹のようなものが降りてきました。
眩しい……それに、なんだか意識が遠くなって……。うにゃ? うにゃ~~~……。
(ポヨン)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます